第135話 屋台
Side:スイータリア
浮浪者のおじいさんが腕でパンの代金を払いたいと言ってきた。
「職人さんだったの?」
「ああ、裏社会のな。贋作師って奴だ。偽物を作って荒稼ぎしてた」
偽物は要らない。
でも欲しい物ならある。
「子供でも持ち運べる。露店の屋台みたいなのが欲しい」
「おう、大工道具と木材はあるか?」
テアちゃんの家の大工道具を貸してもらって木材は買った。
分解して持ち運べる屋台が出来ていく。
積み木みたいで組み立ては面白い。
小さいドラゴンとグリフォンの彫刻があるのが、ちょっといかついけど。
冒険者相手の屋台だから良いかも。
「恰好良い」
テアちゃんも満足している。
その屋台を冒険者ギルドの片隅で組み立てる。
「おう、屋台が出来たんだな。この彫刻は見事だ。どっかで見たことがあるような。どこだったっけ」
「俺も見たことがある。思い出せないけど」
ひょろひょろの魔法使いが来て目を剥いた。
「こ、これは国宝のドラゴン像とグリフォン像」
そう言って彫刻を撫でまわす。
「一体化しているな。綺麗に切り離せればお宝だったのに」
「売らないよ」
パンの売り上げが上がった。
彫刻見物に来る人がいるからだ。
贋作師のおじいさんは相変わらずパンを貰いに来てる。
「あんな腕があるなら働けば良いのに」
「かっかっかっ、わしは贋作以外の物は作らん。だが、裏社会の人間とは縁を切った世捨て人よ。屋台は気に入ったか」
そう言ってウインクするおじいさん。
「もちろん」
世の中には色々な人がいるのね。
屋台が要らなくなったら、オークションにでも掛けようかな。
そしてそのお金を親切投資に回すの。
素敵だと思う。
「パンで投資なんてけち臭いことを言わずにこの俺にお金を投資しろよ」
そう言ったのは浮浪児。
「親切投資はパンでやる。私のルールよ。ルールを持つのは一流なんだって」
テアちゃんからの受け売り。
「ちっ、使えないやつ」
「あなた、商売の経験があるの」
「こう見えて俺は商家の生まれだぜ。親は失敗して首を吊ったけど、俺はそんなへまはしない」
「可哀想」
「同情なら要らない。銅貨1枚にもならないからな」
「でも目が泣いている」
「ちっ、俺もまだまだだ。心を読まれるとはな」
「とにかく投資するならパン」
「仕方ない。それで手を打つか」
「私達が売っているパンは売れないよ。売るなら屋台で売るから」
「日持ちのしないパンなんか要らないさ」
「日持ちのするパンなら作れるよ。携帯食」
それなら作れると思う。
ビスケットとパンの中間みたいだから。
私が捏ねれば旨味たっぷりになる。
大ヒット間違いなし。
「それで手を打つか」
浮浪児に100個の携帯食料を持たせてやった。
しばらくして浮浪児が帰ってきた。
「くそっ、だまし取られた。金を払って貰えなかった」
「初めて取引する人には気を付けないと」
「分かってるけど。高値で買うって言うからさ。頼む、もう一度チャンスをくれ」
この子、このままじゃ駄目ね。
どうしたら良いか分からないけど。
たぶん駄目になる。
「テアちゃん、無条件でチャンスを与えるのは駄目だと思う。どう思う?」
「典型的な駄目男ね。商売で失敗して奴隷落ち確定のね」
「くそっ、言い返したいが一度失敗しているし、じゃあどうしたら良い?」
うーん、商売するには信用が必要。
コツコツとやらないといけない。
最初は市場でゴザを広げて売ることかな。
でも市場の使用料はそれなりにする。
携帯食だと利益を出すのにたくさん売る必要がある。
私達みたいに冒険者ギルドで売るのが近道かな。
「冒険者ギルドで売りなさい。口を利いてあげるから」
「分かった」
次の日の朝、浮浪児を連れて冒険者ギルドに入る。
受付に近寄り、いよいよ商談。
「この子に携帯食を売らせたいけど」
「携帯食は間に合ってます。許可できません」
うん手ごわい。
ギルドでも確かに携帯食は売っている。
これを説得するには。
えっと私がやるべきじゃない。
「あなたが売るんだから。説得しなさい」
浮浪児に私はそう言った。
「俺っ?」
「凄腕の商人なんでしょう。説得しなさい」
「ええと、ここで売ることは諦める。携帯食を買わないでいいから、討伐に出る冒険者の情報を売ってくれ」
うん、やればできるじゃない。
「情報料はそれなりにしますよ」
「負けてくれよ。頼むよ」
「いまから言うことは独り言です。受付のそばに張り付いて観察するならただです」
なんだかんだ言っても受付嬢は優しいね。
浮浪児商人君は、受付に張り付いて、携帯食を買わないで討伐に出る冒険者に売り込みを掛けた。
だがなかなか売れない。
ギルドで買わないってことは懇意にしている店があるってことよ。
でも私は何も言わない。
何となく浮浪児商人君の修行になっている気がしたから。
やっと、ひとりに売れたらしい。
「俺、やったよ」
「おめでとう」
「泣く事ないのに。赤ちゃんみたい」
テアちゃんが茶化す。
「なんて言われようが構わない。死んだ両親は喜んでくれるかな」
「喜んでくれているよ」
「そうね。同じ道を息子が歩んでるって、天国で喜んでくれてるわ」
浮浪児商人君は、情報をもとに戦略を立て始めた。
駆け出しにターゲットを絞ったみたいね。
駆け出しは日帰りだから携帯食料は持たない。
そこへお守りだからと売り込んだ。
そのうちの一人が携帯食で助かった。
それからは飛ぶように売れた。
もともと、携帯食が美味しいからね。
私の自慢の一品よ。
「俺、旅に出る。商売はやめないけど、このままぬるま湯に浸かっていたら駄目だ。路銀も貯まったし、行商をやる」
「頑張って」
「応援してる。冒険者といざこざを抱えたらソルの名前を出していいから」
「ありがとう」
浮浪児商人君は泣きながら旅だった。
彼はきっと大物になる。
そうしたら、親切投資の回収をさせてもらいましょうか。
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