第132話 殺人魔法使い

Side:シナグル・シングルキー

「マギナ、沈んでるな」


 工房にいるマギナが沈み込んでいるので聞いてみた。


「聞いてくれる。殺人魔法使いとの噂が立ったの。ミラージュドラゴンの時の一件がトラウマになっているから」

「噂を調べてみるよ」


 俺は耳に噂の源泉を聞く魔道具を付けた。

 やっぱり、虚言のライアーの仕業だな。


「どう?」

「邪神教の奴らだな。そのトラウマの話、誰かにしたか?」

「ええ、浮浪児達に」

「そこから情報が漏れたな。弱点を突いたつもりだろう。イメージ戦略が必要だな」


 無害オーラ、『Harmless aura』この言葉で魔道具を作る。

 歌は『ララララ♪ララー♪ララーラ♪ラーラー♪ララーララ♪ラ♪ラララ♪ラララ♪、ララー♪ラララー♪ララーラ♪ララー♪』だな。


 髪飾りに仕上げた。


「嬉しい、くれるの」

「おう、誰からも好かれると思う」


 マギナと街を歩くと、小鳥が寄ってきた。

 マギナの頭や肩に停まる。

 俺は穀物の種を渡してやった。


 マギナも嬉しそうだ。

 だよな。

 小動物は可愛いよな。


 猫や子犬も寄って来る。

 その様子を街を歩いて見せつけてやった。


 そんなことを一週間もやると、マギナは優しい人という噂が立った。

 虚言のライアーに意趣返しをする。

 それはこんな物ではない。


 マギナと俺とで盗賊のアジトを襲った。

 殺しはしない善人にしてブルータの手下にするだけだ。

 だが盗賊達にはマギナの冷酷さを吹聴させる。

 殺人魔法使いの異名は盗賊のみ向けられると誘導したのだ。


 副次効果が出て、俺が住んでいるロンティアの街周辺から盗賊は消え失せた。

 殺人魔法使いマギナの二つ名は肯定的に使われるようになった。


 商人からは殺人魔法使いマギナ様万歳の声が聞こえてくる。

 悪名もこうやって役立てれば良い。


 殺人魔法使いはマギナが嫌だろうから、悪滅魔法使いと新しい二つ名を付けた

 殺人魔法使いより悪滅の方が合っているので、殺人魔法使いは悪滅魔法使いに塗り替えられた。


「ありがとう」

「良いって。それにしても虚言の奴、許せないな」


 奴を罠に嵌めたい。

 因果応報みたいな魔道具を作りたい。

 バタフライエフェクトと因果応報を組み合わせたような感じ。


 上手く日本語にできない。

 だから英訳もできない。


 一番近いのはしっぺ返しか。

 英訳の魔道具で単語を調べる。


 『tit for tat』か。

 歌は『ラー♪ララ♪ラー♪、ラララーラ♪ラーラーラー♪ララーラ♪、ラー♪ララー♪ラー♪』だな。

 マギナが使ってみたが感触はない。


 噂のしっぺ返しってことは噂なのか。

 そんなの魔道具でなくてもできる。

 虚言のライアーという卑劣漢がいると噂をばら撒けば良い。

 そんなことをしても奴は痛くも痒くもないだろうが。


 失敗か。


「シナグル、相手と同じ土俵に上がったらだめ」


 そうだな。

 相手の得意とする所で攻撃する必要はない。

 奴が嫌がることは何だ?


 根拠のない噂を流す奴は身バレが怖い。

 自分が傷付かないからやっていられるのだ。

 だから素顔を拝んでやる。

 そしてできれば因果応報魔道具を使う。


「そうだな。噂でしっぺ返しというのが間違っていた。奴の顔が見えないのが不味い。作るべき魔道具は尋ね人だな」


 『wanted person』、これで良い。

 歌は『ララーラー♪ララー♪ラーラ♪ラー♪ラ♪ラーララ♪、ララーラーラ♪ラ♪ララーラ♪ラララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪』だな。


 虚言のライアーを見つけてほしいとの祈りを込めて魔道具を使う。

 反応があった。

 奴は遠く離れた場所にいる。


 プレッシャーを掛けてやるか。

 転移で奴のアジトに乗り込んだ。

 奴は俺が来たと知って慌てて逃げ出した。

 顔を見ることは叶わなかったが、プレッシャーにはなっただろう。

 忙しく逃げたので、金も何もかもそのままだ。


 計画がいくつかあったので、これは先手を取って潰せるな。

 金も没収すれば痛手だろう。


 俺が踏み込んでから、虚言のライアーは常に移動するようになった。

 夜も例外ではない。

 きっと馬車を走らせているのだろう。


 俺が追いかけるのもなんか嫌だ。

 ライアーだって人を操っている。

 俺も他人を巻き込んだら良い。

 尋ね人の魔道具を虚言のライアー専用に改造した。


 『wanted lier』、これで良い。


 そして、その魔道具を冒険者ギルドに寄付して、奴に賞金を懸けた。

 王様も煮え湯を飲まされたので、賞金を増加。


 さあ、これからは一時も休んでいる暇がないぞ。

 追われる恐怖を味わえ。


 悪事を働くのだからそれぐらいは覚悟してもらおう。

 冒険者が一攫千金を夢見て、虚言のライアーを追い始めた。

 それから1ヶ月虚言のライアーを惜しい所まで追い詰めた奴は出た。


 虚言のライアーもしぶといな。

 だが人間はいつかミスをする。

 ライアーが捕まる未来が見えたような気がした。

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