第131話 就職口
Side:マギナ・トゥルース
帰ると夜だった。
スケートリンクに顔を出すと、魔法で照らされてナイトスケートが始まっている。
奇麗ね。
生きて帰れたことを感謝。
シナグルとヤルダーと浮浪児にね。
感謝の気持ちをどう伝えたら良いかしら。
物品というのは安い。
「みんな聞いて。私を励ましてくれた子のお願いをひとつ聞くわ。ただ簡単に叶えられるものに限るけど」
「やった。俺、骨付き肉の塊が食いたい」
「私は、魔法の特訓」
「俺は紹介状がほしい」
「スケートリンクをやっている土地の空いている場所を貸して、畑を作りたい」
「いいね。俺は店をやる」
人それぞれに夢があるのね。
些細なお礼だけど後押ししてあげたい。
「よしお姉さんが、叶えてあげる」
浮浪児達から感謝の言葉を貰った。
「師匠、僕はハグいいえ、浮浪児達の就職先を考えてほしいです」
「特別にふたつ叶えてあげる。ヤルダーは甘えんぼね」
「なんと言われようと構いません」
ハグしたヤルダーの顔は赤くなって、心臓の鼓動が私まで伝わる。
しばらく固まってから、ヤルダーは泣いた。
「どうしたの?」
「おぼろげな記憶ですが、母を思い出しました」
「心の中でお母さんと呼ぶぐらいは許すわ」
「いいえ、師匠の隣に立つ人物になります」
浮浪児の就職先ね。
紹介状を書くのは構わない。
でも、受け入れてくれるかは別だ。
もと浮浪児だと苦労することもあるでしょう。
虐めにあったりしてね。
真剣味と必死さが違うから、他の職人や従業員とは合わないでしょうね。
上には気に入れられると思うけど、それがさらに摩擦を生む。
目に見えるよう。
となると色々と事件が起こるわね。
「ヤルダー、口入屋をやりなさい」
「口入屋ですか。冒険者ギルドの生活依頼では駄目なんですか?」
「仕事を長く確実に取るには独自にやった方が良いわ。ギルドに中抜きされない分、安く請けられるから」
「冒険者ギルドから圧力を受けませんか」
冒険者ギルドが浮浪児が作った口入屋に圧力は掛けないでしょうけど、駆け出し冒険者はそうではないかも。
生活依頼が少なくなれば駆け出し冒険者は困る。
「生活依頼に出ない依頼をやるの」
「例えばどんな物ですか?」
「そうね。家庭教師よ。スケートリンクの学校で色々と勉強しているでしょ。それを活かすの」
「なるほど。裕福な家とか、商人の子供とかには良いですね」
「私が紹介状を書くから」
私が紹介状を書けば、浮浪児でも受け入れてくれる家はあるはず。
Sランクのネームバリューはこういう時に使わないと。
「魔法を教えても良いですか?」
「もちろん。あまり小さい子には駄目だけど。そうね12歳以上なら良いわ」
ヤルダーのお願いも方がついた。
後はシナグルへのお礼だけね。
「夜分、悪いわね」
「いやまだ寝ないから」
「今日のお礼に何か私に願い事はない?」
「そうだな。魔道具の感想が欲しい。お客さんだと文句は言わないんだよな。何かあると二度とその店には来なくなる人が多い。お客様の意見は宝」
「なるほどね」
口入屋もアンケートを取るといいかも。
そうすれば改善点を洗い出せるわ。
次の日から口入屋が始まった。
と言ってもお客様の前には出せない。
まず服装を整えて、そして言葉遣い。
これを教え始めた。
私が教えるのではなくてスケートリンクの学校に講師を招いた。
ついでに剣術の講師も招く。
私としては全員が魔法使いになってほしいけど、向いてない子もいる。
言葉使いの合格を貰えた子を家庭教師にだす。
教科書は私が作った。
スケートリンクの学校で私が学んだことがあるとすれば、子供は遊びながら学ぶと上達が早い。
なので、教科書と教材は遊び道具をふんだんに取り入れた。
カードゲームはそれにうってつけよ。
遊ばせながら教育する。
アンケートを見る。
子供返答は楽しかった。
親からは遊び相手に来てもらったのではないとの苦言が多数でた。
そういう親のもとへ私は出向いて、子供達にやらせている教材を一緒にやって貰った。
「子供の遊びだと思っていたが、これは勉強になるな」
「ええ、そのように考えました」
「これからもよろしく頼む」
大体の親が納得してくれた。
それでも駄目な親は小テストの結果で判断して下さいと言った。
小テストの問題は親が作ることになっている。
難しい問題を出されてたら、そのレベルまで求められているのかと参考にする。
お客様の意見は宝。
シナグルの言葉。
真理ね。
魔法の真理ではないけど、商売の真理ね。
こうやって別の学問のことを知るのも良い。
魔法のために役立つかも知れないから。
無駄な知識はないと思う。
たとえ雑学でも役に立つ時は来る。
お客様の意見は宝。
これって商売にならないのかな。
「ねぇ、ヤルダー。商品をただで使って貰って、その代わりに意見を貰う。浮浪児達は商品を出してくれた所からお金をもらう。商売にならないかしら」
「そんな取り組みに誰が金を出します?」
「シナグルならきっと出すわ。掛け合ってみなさい」
ヤルダーがシナグルに言ってみたところ了承が得られた。
家庭教師に派遣している先でまず意見を貰う。
「ヤルダー、集まったデータをもとに論評を書きなさい。改善点とか推論も混ぜるのよ」
「はい」
「こういうのは考えるトレーニングになるから頑張りなさい」
商家などで商品テストに興味を示した家がある。
お客様の意見がいかに大事か知っている家ね。
そこも試しに商品テストの仕事を出してくれた。
浮浪児達が意見を書きとる時にただ良かったではなく、どんな所がかも訊くようにさせた。
良いには理由があるし。
悪いにも理由がある。
感覚的なこともあるけど、なるべく言語化させた。
商品テストの仕事は増えて言った。
そう言えば私も訊きたいわね。
真理を話したときにその人がどう考えるか。
少ないでしようけど新しい考えがあるはず。
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