第130話 呪い
Side:マギナ・トゥルース
あれね。
レッサードラゴンが見えた。
私はいつも通り、杖を地面に打ち付けた。
宝石のような魔力の蔦が伸びて、レッサードラゴンを拘束する。
ソルがレッサードラゴンの首を一撃で刎ねる。
あっさりと終わったわね。
レッサードラゴンを収納魔法に入れないと。
近づくとレッサードラゴンの死骸は消え、首を刎ねられた女の子になっていた。
うそっ。
「間に合わなかったか」
シナグルがいた。
「どういうこと?」
「呪いで女の子がレッサードラゴンの姿になっていたんだ」
そんな、呪いなら魔力があったはず。
そんな痕跡なんてなかった。
私がミスをした。
「私のせいね」
「そうだマギナのせいだ。呪いに気づかなければいけなかった。見損なったよ」
「どうしたらいいの?」
「女の子の両親に詫びるんだな」
とぼとぼと街に帰る。
「この殺人者め」
「いつかやると思ってた」
「死刑だな」
「石を投げろ」
街の人が私を責め立てる。
「ごめんなさい」
女の子の両親に謝る。
そして私は牢に繋がれた。
誰よりもシナグルの軽蔑したような視線がつらかった。
隣の牢にはソルがいた。
話し掛ける気力もない。
ぴちゃんと水滴が垂れてきた。
くさい。
この牢の上にトイレでもあるのかしら。
なに呑気に変なことを考えているの。
じめじめしているわね。
それに少し暖かい。
ええと私は罪人なのよ。
牢の改善を叫ぶ権利はないわ。
暇ね。
収納魔法から本を出そうとして、出ないのに気づいた。
魔法封じの結界かしら。
見事なものね。
私の魔法を封じるなんて。
まさかシナグルが魔道具を作ったとか言うんじゃないでしょうね。
ネガティブな気分になってきたわ。
カビだらけ土の匂いのパンと具の入ってない生臭いスープが出された。
こんなの食えるわけないじゃない。
あー、私が罪人になるなんて。
今考えても、女の子に掛かっていた呪いは見事だった。
私が微塵も魔力的な違和感を覚えなかったのだから。
「無様なものね」
ピュアンナが私に会いに来た。
鉄格子越しに会話する。
「笑いにきたの?」
「どんな気持ちかと思って。これでライバルが二人減ったわね。嬉しくって祝杯を上げたいぐらい」
「そんなことを言いに来たの」
「せいぜい大人しくしておくのね。脱獄なんかしたら、世界が敵に回るわよ」
「分かっているわ」
続いてヤルダーが現れた。
「この罪人が、今日から僕はお前の弟子じゃない。せめて大人しく処刑されてくれ」
「分かったわ。子弟関係は解消するわ」
お腹が減った。
こんな時でもお腹は減るのね。
あの土の匂いのパンと生臭いスープは食べる気にはなれない。
何か。
あれっ、何か。
そう質量保存の法則よ。
シナグルが来た。
「お別れを言いにきた。くれぐれも暴れたりしないことだ。死ぬとしても評判をこれ以上汚すことはない」
「ええ」
「師匠」
ヤルダーの声が微かに聞こえた気がした。
まだ師匠と呼んでくれるのね。
「頑張れ」
「頑張れ」
「頑張れ」
「頑張れ」
私を励ます声がする。
気のせいなんかじゃない。
この声は浮浪児達の声。
「マギナ、お前は最高の魔法使いだろ!」
シナグルの声がはっきりと聞こえた。
そう私は最高の魔法使い。
いくら呪いでも質量保存の法則までは覆らない。
無から有を魔力では作れない。
魔力でドラゴンの体を作っていたら、膨大な魔力が必要よ。
無理とは言わないけど。
それに、中心に女の子がいたら、ドラゴンの首を刎ねても傷は負わない。
ああ、この糞ドラゴン。
幻影を見せたわね。
牢屋が生臭かったり暖かかったりするわけない。
いくら何でも土の匂いのパンはない。
幻影が破られた。
レッサードラゴンはまだ魔力結晶の蔦にとらわれいてる。
本物のヤルダーとシナグルが少し離れた場所にいた。
浮浪児達もいて、ソルの妹弟達も。
空はすっかり暗くなっている。
シナグルが持つ灯りの魔道具が煌々とその場を照らしてた。
「ソル、止めを」
「あたいとしたことが妹弟の幻と本物が見分けがつかないなんてね。あったまきたぜ【一撃必殺剣】」
今度こそ、レッサードラゴンは死んだ。
亜種のミラージュドラゴンだったようね。
体がドラゴンの唾液でべちょべちょ。
あいつ、拘束されているから目一杯首を伸ばしてよだれを垂らしたのね。
私達を食える位置じゃ無かったことが幸いよ。
酷い目に遭った。
「シナグル、そしてヤルダーありがとう。幻影に囚われていても声が聞こえたわ」
「師匠、心配したんですからね」
「討伐には絶対がないから、俺も心配した」
幻影のシナグルと見分けられなかったなんてね。
シナグルなら絶対に私のことを信じて、最後まで無罪の証拠を探して走り回ってくれるはずよ。
あんな冷たい言葉なんか絶対に言わない。
「着替えるから後ろ向いてて」
生臭い服を着替え。
タオルで髪の毛を拭く。
手鏡で確認すると髪の艶がシナグルとほとんど一緒だった。
ドラゴンの唾液が作用したのね。
髪の毛が幾分太くなっているような気がする。
なるほどシナグルの髪に近づけるのは太さも大切みたい。
もっとも、もうドラゴンの唾液で髪を洗いたいとは思わないけど。
「もういいわよ」
シナグルとヤルダーがこちらを向いた。
ヤルダーの顔が赤い。
シナグルは普通ね。
ちょっとはドギマギしてくれてもいいのに。
こっそり覗いても怒らないのにね。
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