第128話 落盤

Side:シナグル・シングルキー


「参ったぜ。子供預かり屋のお使いで食器を買いに行ったら金属全般の価格が上がっていやがる」


 ソルが珍しく愚痴を言った。


「前に似たような話を聞いたな。何で金属の値段が上がったんだ」

「鉱山が落盤で閉山したらしい」

「なるほど」


 俺は耳に噂の源泉を聞く魔道具を付けた。


「でどうだ?」

「虚言のライアーの仕業だな」


 ろくなことをしない。


「懲らしめたいぜ」

「そうだな。噂を潰せばそのうち焦れて出てきそうではある」


 俺は落盤の噂を追った。

 確かに鉱山がいくつか落盤している。

 だが、それが起こった場所は決まって廃坑。

 虚言のライアーが落盤事故を起こさせたのだろう。

 稼働している鉱山を落盤させたりはしないのだな。

 奴なりのルールがあるのかもな。


 狂信者なんてそんなものだ。

 さて、落盤があった廃坑を復活させても無駄だ。

 噂は消えない。


 『metal extraction』、金属抽出の魔道具を作る。

 歌は『ラーラー♪ラ♪ラー♪ララー♪ララーララ♪、ラ♪ラーラララー♪ラー♪ララーラ♪ララー♪ラーララーラ♪ラー♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪』。

 歌を魔道具ギルドで公開した。

 少なくとも鉄はこれで足りるようになるはずだ。


 ソルは冒険者達に売り捌いてくれた。

 駆け出しも借金して買った奴がいる。

 破産しないと良いのだが。


 金属抽出の魔道具はどんな金属も採れると噂を流したら、金属の相場は軒並み下がった。

 しかし、この魔道具はあまり儲け的に美味しくない。

 魔力が必要だし、川の石に貴金属が含まれていることなど稀だ。

 魔道具が壊れる時にその修理代が稼げるかと言ったら、まあそれぐらいは楽勝だが。

 手間賃としては美味しくない。

 鉄は安いからだ。


 噂に流したように、どんな金属も確かに抽出できる。

 だが、抽出を掛ける土や石による。

 貴金属の鉱石なら確実だが、それでも鉱石ひとつで豆粒にいくか分からない。

 魔力を充填しながら、ちまちま抽出するのはめんどくさい。


 山師にこの魔道具は受けた。

 鉱石かどうかの見分けが簡単につくかららしい。

 鉱山の発見ラッシュが始まった。

 もう金属の相場は底値だ。


 こうなれば、普通の噂では金属が高騰したりしない。


 マギナが俺の所にきた。


「金属抽出魔道具を100個お願いするわ」

「友達価格にしてやるけど、何に使うんだ?」

「ヤルダーが旅立つ浮浪児に持たせてやりたいと言っているの」

「ふーん、確かに鉄の塊を売れば、生活の糧にはなる」

「ええ、それに鉱脈を見つけるかも知れないでしょ。私は研究用に使うけど」


「物騒な金属とか抽出するなよ」

「そんなのがあるの」

「毒の金属がある。とびきりやばい奴もな」


 ウラン鉱石とかからウラン抽出はやめてほしい。


「鉛とか水銀ぐらいなら良いでしょ」

「やめて欲しいがな。そうか水銀の土壌汚染は解決するのか。金を採るために水銀に溶かしているだろ」

「ええ。浮浪児にも奇病の子がいるわ。あれは水銀のせいだったのね」

「案内しろ」


 水銀中毒の子供の所にいった。

 子供は歩くのが難しいらしい。


 抽出の魔道具を使う。

 水銀が抽出できた。

 そして回復の魔道具を使う。

 これで良くなる方向に向かうはずだ。


「金鉱山のふもとの村ではみんなこの病気になったらしいわ。さらに100個追加して良い。そういう村へ送りたいわ」

「そういうことならお金は俺が持つ。山師をたくさん生み出した責任があるからな」


 転移でそういう村に行き、治療を施した。


「おお、歩くのがましになった」

「しびれが良くなった」

「水銀が駄目だなんて知らなかった」

「鉱山では日常的に使っていた」


 鉱害の知識を広めないと。

 虚言のライアーを利用できないかな。


 水銀は猛毒らしいぞ、金鉱山が閉鎖するとマギナが噂を流した。

 魔法使いの集まりがあるらしい。

 そこに水銀の毒性の論文を送り、派手に噂をばら撒いた。


 ピュアンナも協力してくれた。

 魔道具ギルド関連の人に噂が広まった。


 ソルも冒険者仲間に水銀の毒性の噂を流した。


 しばらく経って、噂に尾ひれが付いた。

 虚言のライアーの仕業だろう。

 水銀の危なさが大げさに吹聴された。

 皮膚についただけで死ぬとかだ。


 誰も金鉱山で水銀を使わなくなった。

 金の相場価格は上がったが、金など無くても日常生活に支障はない。

 狙い通り。

 ふもとの村では水銀の除去作業が始まっている。

 これで回収して余った水銀は俺が買い取って、売買魔道具を使って神に売りつけた。


 たくさんの銀貨を貰ったが、不思議な力みたいなのは感じない。

 ええとたしかイギリスでは花嫁の靴に銀貨を入れるんだったな。

 それに使えというのかな。

 こんなに沢山。

 『SIX PENCE』と刻印がある。

 文字がアルファベットだから英語圏の硬貨だな。


「えっ何? 銀貨がこんなにたくさん」


 珍しく、マギナ、ソル、スイータリア、ピュアンナ、マニーマインが工房に揃っている。

 スイータリアが好奇心を出して、尋ねる。


「この国のではないわね」

「あたいも見たことがないぜ」

「受付をやっていて、大抵の国の硬貨は目にしているはずですが」

「どこの国でしょうが、銀貨は銀貨よね」


 神から貰った。

 花嫁の靴に入れるとか言ったら今から靴に入れそうだ。


「最高に嬉しい日に靴に入れると良いらしい」


 こう言っておけばいいだろう。

 一枚ずつ渡した。


 5人は最高に嬉しい日ってどんな日かと話し合っている。

 結婚する日で一同が一致した。

 うん、地球から電波が飛んできたかのようだ。


 まあ、主役になって祝福される日ではあるよな。

 そういう結論にはなるか。

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