第127話 寝坊
Side:ソル・ソードマスター
疲れたぜ。
久しぶりに子供の世話をしたせいか。
すぐに眠りに入る。
妹と弟が幼かった頃の夢だ。
末っ子のテル2歳が泣いている。
3年前か。
おしめを確認すると濡れている。
破壊音と何かがぶちまけられる音。
ちょっと待てよ。
ああ、もう。
おしめをてきぱき換える。
破壊音の現場に行くと。
弟のマー5歳が、鍋をひっくり返して泣いている。
「大丈夫か? 火傷してないか?」
「うん、平気。怒らないの」
「料理はまた作れば良い。何でまた鍋を?」
「皿に盛りつけようと思ったんだ」
ここで良くやったお手伝いは偉いぞとか言わない。
「自分の皿に多く盛りつけようとしただろう」
「ギクっ」
「そんなことだと思ったよ。罰としてトイレ掃除一週間な」
「えっ」
「心配するな。姉ちゃんも一緒にやってやる」
「それって監視じゃないの」
「まあ、そうとも言うな」
「ありがと。好きだよソル姉」
「いきなりなんだ」
「ソル姉は優しいよね。決して殴ったりしない」
「あたいが本気で殴ったら死ぬからな」
「トイレ掃除する前に、厨房片付ける」
料理のやり直しか。
「あーら、マーがやったの」
ルーナが音を聞きつけて出て来た。
「まあね」
「作り直すんでしょ。手伝う」
妹弟が全員来て、料理の手伝いを始めた。
あー、こんな毎日だった。
全員が助け合ってたな。
良い匂いが漂い始めた。
目を覚ますと朝だった。
あたいとしたことが寝過ごした。
「ソル姉、起きたの。よく眠ってたから起こさなかった」
「みんなは先に食べていてくれ。汗を流してくる」
庭で剣の素振りを始めた。
うん、体が軽い。
ここんところでは一番良いんじゃないか。
汗ばむぐらいやって。
ルーナからタオルと果実水を受け取った。
水浴びして、食堂に行くとみんな揃っていた。
朝飯は食べてない。
「みんな。待っててくれたのか」
「さあ、温めの魔道具で温めたら食べましょう」
シナグルが作った温めの魔道具は良いな。
いや家族が待っていたら冷たい食事でも暖かく感じたに違いない。
「神に感謝を」
食前のお祈りをして、食事を始める。
料理も美味いが、スイータリアとテアのパンが美味い。
二人とも立派なパン職人だな。
二人がパン屋をやるのなら、店はあたいが用意してやろう。
ただし、その建物と土地代は貸しだ。
ただで用意してやることはしない。
「ソル姉、子供預かり屋の依頼を受けたんだって」
そのテアがそう尋ねてきた。
「ああ、魔道具の修理代が払えないで困ってたからな。一緒にその女の子と受けた」
「また、ファンが増えるね。ソル姉を好きな女の子は多いんだよ。この女たらしが」
どこでそんな言葉を覚えたんだ。
「憧れになれたら、光栄だ。これでもSランクだからな。模範にならないと」
「でも寝坊した」
「くっ、姉ちゃんは罰を受けないといけないな。何が良い?」
「ソル姉の料理を食べて添い寝したい」
「そんなことで良いのか?」
「うん、みんなそれで良いよね」
「ええ」
「おう」
「そうね」
「うんそれで良い」
「いいよ」
「構わない」
「いいわ」
「うん」
こんな些細なことが思い出になっていくのだろうね。
シナグル工房にに行くと、女の子が既に来ていた。
「おはよう、今日は寝坊しちまったぜ」
「おはよう、昨日は大変だったみたいだな」
「おはようございます」
「昔はあんなことぐらいじゃ疲れなかったんだがな。やわになったかな」
「子供の世話は大変だよ。俺はまだ親になる覚悟はない」
「覚悟することじゃないぜ。自然とそうなるよ。顔を見ると癒されて世話が苦でなくなる。腹の立つこともあるが、寝顔とか見ると一発で忘れるさ」
「そんなもんかな」
「怒っても子供ってのは、泣き止んだらすぐに笑顔を向けて寄って来る。そこが可愛い。子供ってのは頼る人に無条件で頼ってくる。そこには打算とかそういうものはない」
「なるほどね。ソルは思考がすっかりお母さんなんだな」
「まあね。染みついちまったよ。嫌かい」
「いいや。所帯じみた女が嫌いだなんていう奴はどっかおかしい。子供の世話が好きでどこが悪いって言うんだ」
「そう言って貰えると嬉しいよ」
「ソルさん、そろそろ行きたいのですが」
「長話して悪かったよ」
1日仕事して、子供預かり屋からシナグル工房から帰ると。
扉を開けた途端、パンパンと音がした。
そして紙テープと紙吹雪が舞う。
「「「「「「「「「今までありがとう」」」」」」」」」
妹弟達が、ニコニコ顔で揃ってた。
「何のお祝いだ」
「今まで面倒見てくれたそのお礼」
ルーナが代表で事情を話してくれた。
「急だな」
「子供の世話で疲労困憊になったんでしょう。私達の世話をしてた時も同じよね」
「まあそうだな。自分の妹弟と他人の子供の区別はしない」
「なら、罰だけじゃなくて褒美も出さないと。ソル姉は私達が良い事をすると褒美をくれたでしょう。こんどは私達がソル姉の褒美を出す番」
「みんな」
目頭が熱くなった。
妹弟の成長が嬉しい。
自分の子供が大きくなって、お母さんありがとうと言われたら、こんな感じなのかな。
「ソル姉、泣いてる」
「汗だよ。これは汗」
そう汗だよ。
親が死んだときに泣かないって決めたのだから。
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