第126話 子供預かり屋

Side:ソル・ソードマスター

 甘い休憩タイムが終わり、ちょっと名残惜しいぜ。

 チリンとドアベルが鳴った。

 女の子が灯りの魔道具を持ってきた。

 7歳ぐらいだから、妹のキュリと同じぐらいか。


「いらっしゃい」

「いらっしゃい」

「魔道具で遊んでいたら壊れちゃった。な、直る?」


 女の子は今にも泣きだしそうだ。


「じゃあ見せてくれ」


 シナグルがキノコの形をした照明魔道具を調べる。


「ど、どう」

「溜石が割れている。この大きさだと大銀貨2枚ってところかな」

「うわーん、足りない」


 女の子は泣きだした。


「シナグルも子供の扱いは一流じゃないね」

「修理代金を言って泣かれるとは思わなかった」

「悪戯して壊したんだから直らないとこっぴどく怒られる。そういうものさ。お嬢ちゃん、修理代金の足りない部分はお姉さんが立て替えてやろう」


 子供に優しいアピールでシナグルにぐっとくることを期待。

 もっともシナグルがいなくても同じことをしてたけどね。

 妹ぐらいの子供を泣かせたままにはできない。


「ほ、ほんとう?」

「まずは親に謝ろうな。一緒に謝ってやるよ。そして修理代金は貸すだけだ。心配は要らない、冒険者ギルドには生活依頼がある。お姉さんと一緒に受けよう」

「うん、やります」


 魔道具は直り、女の子は親に怒られた。

 そして生活依頼をする承諾を貰った。


 女の子は初めて入る冒険者ギルドにびくびくしてる。


「大丈夫さ。顔はいかついが、良い奴ばかりだ」

「そうなの」


 依頼掲示板を見る。

 ちょうど良いのは子供預かり屋の手伝い。

 子供預かり屋は、親が仕事や用事で子供の面倒を見れない人が預ける。

 あたいも、妹弟達を預けたことがある。


 女の子の冒険者ギルド登録をしてその依頼を受ける。


 あたいが行ったことのある子供預かり屋だった。


「あら、ソルさんですよね。久しぶりですね。ソルさんに妹弟は生まれないから、お子さんでも出来ましたか?」


 あたいは顔がほてった。

 シナグルとの子供を連想したからだ。


「今日はこの子と手伝いの依頼を受けに来た」

「それは助かります」


 室内に入れられる。

 預けられている子供は赤ん坊から4歳ぐらいだ。


「あたいが、いろいろな雑事をやるから、お嬢ちゃんは子供と遊んでやれ。何かおかしいと思ったら呼ぶんだぞ」

「はい」


 食事の仕込みをする。


「たいへん!」


 女の子の慌てた声。

 素早く状況を確かめる。

 うん、うんちとおしっこを漏らしただけか。


「どうしよう」


 動揺する女の子。

 動揺は子供に伝わるから上手くない。


「こんなのは大したことないぜ。モンスターの腹を切ると臓物やうんちがドバっと出て来るんだ。物凄く生臭い。それに比べたらどうってことないぜ」

「そうなの」


 子供なんかすげぇとなって、動揺が収まる。

 あたいはてきぱきとおむつを換えて、パンツの子供は着替えさせた。


 また、食事作りに戻る。

 泣き声が聞こえた。


「どうしよう」


 女の子がまたうろたえている。

 見ると子供達が喧嘩している。


「はい、喧嘩しない。喧嘩するとギルド員資格停止だ」


 喧嘩してた子供が聞きなれない言葉に反応する。


「よし、ギルドカードを作るぞ」


 みんな一緒に紙でギルドカードを作り始める。

 子供達はギルドカードに思い思いの絵柄を描いた。

 そこにあたいは名前とランクを書いてやる。


「いいか、悪さをするとランクが下がる。良いことをするとランクが上がる。分かったか」

「うん」

「ランク上げる」

「Sランクになる」


 Sランクを知っている子もいる。

 親が話題として喋ったのだろう。


「そう目指せSランクだ。字は書けるか?」


 あたいは女の子に聞いてみた。


「名前ぐらいなら」

「じゃあ、こいつらがギルドカードをなくしたり、破いたら再発行してやれ。適当に依頼も作れ。なに難しくしなくて良い。片付けとか、食事前の手洗いとか、歯磨きとかだ。カードの裏面に印をつけて、ランクアップもしてやれ」

「うん、やってみる」

「なに、間違ったって別に良い。気楽にやれ」


 ギルドカード作戦は上手く行った。

 ただ、紙がへにゃへにゃなので、すぐに駄目になった。

 丈夫な紙が欲しいな。


 食事の仕込みが終わったので、子供預かり屋に言ってシナグル工房に戻る。


「シナグル、厚手の紙はないか?」

「なんに使うんだ?」

「子供の遊びのギルドカードだ」

「なら良いのがある」


 色々な紙を出してくれた。

 色付きの厚手の紙があり、剣の厚さぐらいの段ボールとかいう紙とかもある。

 野営とかに便利そうだ。


 子供のギルドカードは遊び道具としては立派な物になった。


「明日から毎日一ヶ月ぐらい手伝いだぞ。できるか?」


 女の子に訪ねた。


「うん、できそう。おむつ替えも覚える」

「ああ、その意気だ」

「うんちなんか、臓物に比べたら大したことない」


「あたいも暇な時は顔を出す。頑張れ」

「うん」


 女の子を家に送る。


「色々とやってもらってすみません」

「いいってことよ。うちの妹弟もやんちゃだったから、悪戯した罰に仕事をさせた」

「文字を覚えるんだって、必死になって」

「子供達との遊びで必要になってな」

「何でもギルド遊びとか。うちの子、受付嬢になるって言ってます」


 子供は遊びで色々なことを覚えていく。

 そのうち、チャンバラでもさせようか。

 段ボールで剣を作ればそれほど痛くない。

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