第32章 ソルの日常
第125話 あたいの日常
Side:ソル・ソードマスター
さて、今日も快適な目覚め。
シナグルの作ってくれた安眠魔道具のおかげだ。
それと妹弟達の愛にも感謝だ。
軽く準備運動をして、庭で剣を振る。
汗が滲み出たので、終わりにする。
一番上の妹のルーナがタオルと、果実水を持って立っていた。
「はい」
「サンキュ」
井戸水を汲み、全裸になり頭から被る。
覗きに来る馬鹿はいない。
そういうのは殴り倒してやったからな。
タオルで拭い。
着替えたら朝飯だ。
いつものルーティーン。
妹弟達の作った朝飯は美味い。
身びいきではない。
料理屋に出しても良いぐらいだ。
歯を磨き。
身だしなみをチェックしたら、仕事だ。
Sランクの依頼は少ない。
だが、その分金額も破格だ。
1ヶ月にひとつ受けたのでも問題ないぐらいだ。
冒険者ギルドに入ると声がぴたっとやんだ。
殺気など出してないが、ある程度強くなると雰囲気で強さを感じ取る。
部屋の中に入ったのが見てなくても分かるぐらいだ。
恐らく魔力の関係なんだろうな。
そのわりにはシナグルが冒険者ギルドに入ってもこうはならない。
性格みたいな物だろうな。
あたいは剣士。
それが染みついている。
シナグルは魔道具師なんだろうね。
Sランクの依頼はない。
残念だが平和で良いことだ。
Sランクが必要なモンスターは大抵大きな被害を出している。
「くふふ」
笑みが零れる。
今日はシナグル工房で店員ができるということだ。
「おはよう」
「おはよう」
あたいはシナグル工房の扉を開けた。
「仕事がないのか」
「ああ、Sランクの依頼はない。まあ、あっても相性の問題でマギナ向きな物があったりするから、さらに少なくなる」
「マギナと仲良くやっているようで良かったよ」
「おう、マギナとパーティを組むこともあるんだぜ。ピュアンナとスイータリアが仲がいいので、あたいらも組まないとな。べつにピュアンナとスイータリアを敵視してるわけじゃないぜ」
「分かっているよ。ソルもマギナも嫌がらせしたりする性格じゃないからな」
「核石が手に入ると、ピュアンナ経由で魔道具ギルドに売っていたりもする。スイータリアのパンも好きでよく食っているよ」
「本当に面倒見が良い姐さんだな」
「おう、おしとやかにしようとするとジンマシンが出る」
「今日は客が来ない日だな」
「じゃあ、ゲームでもするかい」
「仕事中は遊ばないことにしている」
「そういう所が好きだぜ。あたいも依頼中は野営の自由時間でも遊んだりしない。酔うほどじゃないからといって酒を飲んだりもしない」
「じゃあ、魔石磨きをするか」
「おう、一緒にやろう」
シナグルと一緒に魔石を布で磨く。
何となく精神が研ぎ澄まされる。
傷がある。
「こいつ傷があるぜ」
「見せてみろ。良く分かったな」
シナグルが魔石を光に透かして確認する。
「なんとなく弱い所が分かるんだよ。ここから斬ったら斬れるみたいなのが」
「魔力の影響かな」
「そうかもな。マギナは知らず知らずのうちに魔法を使っている人がいるって言ってたな。スイータリアみたいに」
「魔力は思考によって動くからな」
「難しいことは分かんねぇけど、斬ることなら分かる」
「スキルの種なのかもな」
「育つならそれも良いかもな。弱点が分かったら百人力だ」
二人でいることを意識したらあたいの心臓がバクバクいった。
耳が良いのも考え物だ。
「何?」
「傾聴スキルを使ってみな」
言ってしまった。
届けあたいのドキドキハート。
「【傾聴】。心臓がばくばくいっているぞ。平気なのか」
「平気じゃない。抱きしめてくれたら治るかも」
「嘘言うな。そうしたらもっと早くなるだろう」
「そこは可愛い嘘だねとか言ってほしいぜ」
あたいはシナグルに抱き付いた。
心臓がさらに激しく鼓動した。
ドアベルがチリンと鳴る。
あたいは飛び退いた。
「いらっしゃい」
「い、いらっしゃい」
客はあたいの顔を見ると変な顔をした。
あたいがいま自分がどんな顔をしているか想像もつかない。
蕩けきった顔して、客に帰れとしかめっ面。
それが入り混じっているのかな。
きっと奇天烈な顔に違いない。
シナグルは客が持ってきた魔道具を手早く直した。
ほれぼれする手際の良さだ。
一流の職人の仕草は美しい。
達人の剣筋にも似てる。
そして、客が直った魔道具を持って帰る。
「さっきみたいに仕事の邪魔をするなら出禁だ」
「殺生な。そりゃないぜ」
「ソルだってモンスターと戦っている時に、好きだとか言って抱き着いてきたら、こいつなんか知らんとなるだろう」
「悪かった。面目ねぇ。お詫びに魔石の傷をみんな見る」
「それはありがたい。今回だけは赦す」
あたいは魔石に集中して、傷のある物を選り分けた。
だが、選り分けたのにシナグルはまた確認してる。
手は絶対に抜かないのだな。
さすがあたいの惚れた男だぜ。
魔石磨きが終わった。
シナグルが休憩の札を出した。
あたいはシナグルに抱き付いた。
「休憩中なら文句ないだろ」
「まあな」
恥ずかしそうなシナグル。
あたいも捨てたもんじゃない。
スタイルだって良い。
他のメンバーにも教えてやらないと。
休憩中は抱き付いて良いと。
でないと秘密にしててばれた時が怖い。
同盟から除名されると敵が増えていくらあたいでも手に負えない。
うひひ、この店の店員をする楽しみがひとつ増えた。
今度から休憩中はずっと抱き付いていよう。
何かお菓子をあーん、してやるのも良いかもな。
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