第124話 虚言のライアー現る

Side:シナグル・シングルキー

「大変、麦が不作なんだって」


 スイータリアが血相変えて飛び込んできた。


「そんな話は聞いたことがないな」

「冒険者のお兄さんがみんなそう言っている。買わないといけないって思ったら、もうすでに何倍にもなって買えなくなってた」


 不作は大抵、気候不順や害虫や病気とかだ。

 俺は街から出て麦畑を眺めた。

 黄金色の穂が、黄金色の海みたいで綺麗だ。

 ひとつ手に取って実入りを確かめた。

 しいなではない、実はぷっくりと膨らんでいる。

 カビが生えている痕跡もない。

 どこが不作なんだ。

 それともこの畑だけが豊作なのか。


 農家の人がいたので聞いてみた。


「不作なんて話は聞かないね。でも遠くの地域なら分からないけど」

「穀倉地帯が不作なのかな」

「わたしらは値段が上がると嬉しいけどね」


 転移扉で穀倉地帯に飛ぶ。

 そこも黄金色の海だった。

 調べたが不作の兆候はない。


 いったい、どこが不作なんだよ。

 仕方ない。

 噂の根源を調べよう。


 『Source of the rumor』で良いな。

 噂の根源だ。

 『ラララ♪ラーラーラー♪ラララー♪ララーラ♪ラーララーラ♪ラ♪、ラーラーラー♪ラララーラ♪、ラー♪ララララ♪ラ♪、ララーラ♪ラララー♪ラーラー♪ラーラーラー♪ララーラ♪』だな。


 使ってみたところ、噂の出所は虚言のライアーだった。

 こいつ、邪神教団か。

 魔道具で召喚するか。

 使ったが失敗。

 ライアーという名前だけでは駄目らしい。


 顔を知らないと個人は特定できないようだ。

 ろくなことをしない奴だ。


 だが、虚言は時に武力より恐ろしいかもな。

 俺は虚言を打ち破るすべが考えつかない。

 反対の噂を流しても混乱が酷くなるだけだ。


 実際に麦は買い占められ値段が上がっている。

 豊作だからと言っても、今年の麦が取れるまでまだ間がある。


 王様になんとかしてもらおう。

 俺が考えることでもない気がした。


 王に会うのは久しぶりだ。

 爵位を上げて貰って以来かな。


「よう」


 私室でくつろいでいた王に俺は片手を上げて挨拶した。


「護衛はどうした?」

「転移で入った」

「魔法や魔道具疎外の結界があったはずだが」

「すり抜けた」


「もうよい。早く要件を言え」

「麦が不作だという噂が広まって麦の値段が上がっている。なんとかしろ」

「頭の痛い問題だが、麦の収穫が始まれば、収まるはずだ」

「収穫分も買い占められたら?」

「何っ? そんな兆候があるのか」

「裏でわざと噂を流している奴がいる。当然、収穫が終わっても噂を流すよな」

「ふむ。商人に買占めしないようにお触れを出すべきか。しかし、商業ギルドが不満を漏らすだろうな。奴らは利益しか頭にないからな」

「麦を市場にぶち込んで良いのなら出すぞ。国民全員が食えないほどの量をな」

「ならわしは、麦を空売りしよう」


 物々交換魔道具を使い、色々なポーションを麦に換えた。

 日本が混乱してないかな。

 もっとも日本は人口1億を越えて、この国は500万程度だ。

 規模が違う。

 でも迷惑を掛けたら申し訳ない。


 日本の噂が知りたい。

 『rumor』、噂。

 この言葉で魔道具を作った。


「奇跡です。奇跡が起こりました。難病や死病で苦しむ病人が次々に退院していきます。薬が置かれ小麦粉がごっそり盗まれたらしいですが、見合う対価になっています。政府はこの薬を海外にも売り、麦を輸入することにしました。外交的には非常に優位に立ってます」


 日本語の声が聞こえた。

 この喋り方はアナウンサーか。

 そうだよな。

 海外から輸入できるよな。

 ちょっと相場が上がるかも知れないけど。


「おじいちゃん良くなって良かったね」

「ああ、神様っているんだな」


「歩ける。僕は歩ける。もう駄目だと思ってたのに」


「ひゃっほう。神様の薬万歳」


「俺の所にも来ないかな。うちは米農家なんだけど」


「もう農業辞めようと思ってたけどまだ続ける」


「なぜに日本だけが」


「神の薬の分析はどうだ」


 まあ、喜んでくれているようだ。


 国王が小麦粉を配給した。

 麦の値段が下がり始め、買い占めてた商人は麦を売り始めた。

 麦は暴落した。


 国王には農家を保護してくれるように頼んである。

 今回の収穫分の麦は国が高値といっても普通の値段だが、それで買い上げて備蓄することになっている。

 さすがに国王も今回のことは不味いと思ったらしい。

 本当に不作が来た時の備えもないといけないからな。


 スイータリアはみょうちきりんな技を開発した。

 雑穀でも何でも捏ねると小麦粉味のパンになってしまうのだ。

 創造魔法、ちょっと違うか。

 作り変え魔法。

 そんな感じだ。


「えへへ、これからはもっと安い材料でパンができる」

「あまり変な穀物は使うなよ。評判というのもあるから」

「うん、噂の恐ろしさは知ったよ」


 これっ、小麦粉じゃなくて砂糖なら大儲けだったのにな。

 植物は糖分を含んでいるから、俺は抽出する魔道具を作れるけども。

 あまり物価が変わるようなことをしてもいけない。

 日本はポーションの追加を待っているのだろうか。

 これと言ってほしい物もないんだよな。

 下手に物々交換でだいだい的に交易を始めると世界が変わってしまうからな。

 気を付けたい。

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