第123話 腕なりの修復魔道具
Side:チルル
「おう、見習いの坊主か」
シナグル様は暖かく迎えてくれた。
「同業者?」
黒髪の奇麗なお姉さんだ。
衣服から推測するに、魔法使いかな。
「はい、魔道具師見習いのチルルです」
「何の魔道具を作って欲しい?」
俺は今までのいきさつを話した。
「その人を呼び寄せるか。召喚の魔道具ならある」
絨毯が持って来られた。
核石と溜石が付いているから魔道具だな。
召喚の魔道具ってこれがあればどんな物も取り寄せできるのかな。
神器みたいな魔道具だ。
俺のためにこんな貴重なものを。
「対価の靴です」
俺はボロボロになった靴を出した。
「かなり歩いただろう」
「ええ、豆が潰れすぎてタコになるぐらいは」
「いいだろう。確かに代価は受け取った。さあ召喚の魔道具を使え」
パッシンさん、来て下さい。
「はへっ」
現れたパッシンさんは何が起こったのか分からないでいる。
「不良品を売ってしまって、呼び出して貰ったんです。すみません」
「驚いたよ。いきなり風景が変わるのだから」
「すみません」
「いいよ。何があったか想像できる。俺も駆け出しの行商人だから失敗は良くする。そこにある靴は坊主のか」
「ええ」
「俺を探すためにたくさん歩いたな」
「はい」
「気にいったよ」
「本当にすみませんでした」
パッシンさんの魔道具の溜石を手早く交換する。
そして、お詫びの品として、数秒光る灯りの魔道具を差し出した。
「お詫びの品なんて良いのに」
「クズ魔石から作ったので、長くは使えません。材料費なんかただみたいな物です」
「ありがたく頂くよ。だが、使えなくなったら、修理は坊主に頼もう。名前は?」
「オドナリー工房のチルルです」
パッシンさんは送還されて行った。
「靴を治すか」
シナグル様がボロボロの靴と製品にしてない皮を箱に入れて、魔道具を起動した。
靴が新品になった。
凄い魔道具だ。
でも職人泣かせだな。
「何だ?」
「職人泣かせだなと思って」
この魔道具は凄いけど何か間違っている気がする。
「納得いかないか。じゃあどんな魔道具なら納得する。言ってみろ」
「靴の職人が自分が直すならこうすると思い描いてその通りになる魔道具です。見習いなら見習いが直したようになって、腕の差が現れる魔道具です。でないと職人は腕を磨きません。駄目になります。俺なんか特に」
「なるほど便利過ぎるのは良くないか。想像通りに直す魔道具ね。ララーラ♪ラ♪ララーラーラ♪ララー♪ララ♪ララーラ♪、ララー♪ラララ♪、ラ♪ラーラララー♪ララーラーラ♪ラ♪ラーララーラ♪ラー♪ラ♪ラーララ♪。ほら、もって行け」
核石を貰った。
「親方、パッシンさんの不良品を直しました」
「良くやった。魔道具を作って良いぞ」
「はい」
「これに懲りたら、細心の注意を払うんだ」
「はい、でも失敗したら、良い馬鹿になって乗り越えます」
「まあ、お前らしいな。良い馬鹿か。そうだな職人は良い馬鹿じゃなきゃならない」
「はい」
貰った核石を箱に付けて魔道具に仕立てる。
修理する魔道具を材料と共に入れる。
でき上がったのはまだまだな魔道具。
俺が修理したと言える魔道具。
いや、実際より下手くそな気がする。
細かい部分に想像が行き届いてないのだろう。
手で作るより劣化してる。
俺が理想とする魔道具を作るのはもっと腕を磨かないと。
そのためには魔道具を作るだけでなくて、たくさん見ないと。
忙しい時はこの魔道具は重宝するだろう。
でも自分の手でやらないと実力は上がらない。
この魔道具は本当に忙しい時だけ使おう。
この修復の魔道具の核石が壊れたら、どれだけ腕が上がったかをシナグル様に見て貰う。
それを対価に核石を直してもらうんだ。
しかし、まだこの魔道具でも腐ってしまう職人は出るだろうな。
腕を磨くのを止める職人が。
「箱の魔道具か。なんの魔道具だ」
「何でも修理してくれる魔道具です。ただし、使った人の腕以上のものはできません」
「これを使ったら、腕が鈍るな」
「はい、そう思います」
「良い馬鹿としてはどう考える」
「これはあくまで道具です。使った人がヘボなら、ヘボに。でもこれを使ったからと言って必ずしも腕が鈍るとは言えません」
「ほう」
「でき上がった物の悪い所をどうやったら良くなるかと想像して、次回はもっと良い物と考えます」
「想像が磨かれるってわけだ」
「はい。実際やるのが上手くならないと、あまり進歩はしないと思いますが」
「想像の訓練になるか。材料を無駄にしないという面では良いかもな」
「材料は入れるんですが」
「馬鹿だな。リテイクを何度もしろよ。消費するのは魔力だけで、何度もやり直しができるだろう」
「親方、頭いい」
何度もリテイクして想像力を高めるのに使うのか。
魔力がなくなったら手作業で腕を上げる。
訓練するのに良い道具だ。
魔道具も使い方次第だ。
忙しい時に手抜きするなんて考えたら駄目だ。
俺ってすぐに悪い馬鹿になる。
反省だ。
この魔道具はリテイクして理想を高めるのに使うんだ。
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