第116話 明けない夜

Side:シナグル・シングルキー


 朝になっても夜が明けない。

 真っ暗で星すら見えない。


 暗闇のダークの仕業だな。

 どうやったか分からないが、街を黒い霧で覆ったのだろう。


 魔力結晶を作りながら、霧を晴らし進む。

 魔力結晶を作ると一時的に俺の周りの霧が晴れる。


「あっ、シナグル」


 スイータリアがこねこねして黒い霧を魔力旨味の結晶に変えながら現れた。


「危ないから家にいろ」

「羊さんが一杯いる」

「ええと、羊? めーめー鳴くあれか」

「うん」


 スイータリアとは合言葉を決めて、家の前まで送り別れた。

 これで大丈夫のはず。


 敵の手口が分かったぞ。

 羊から魔力を吸い取って黒い霧を発生させているんだ。

 黒い霧を魔力結晶変える魔道具は冒険者ギルドに卸してある。


 黒い霧の中で羊を集める作業か。

 これは骨が折れるな。


 焦げ臭いにおいが漂ってきた。

 くそっ、火を点けたのか。


 暴動が起こり始めた。

 この世の終わりだと叫んで、見えない中を暴れている。


 とにかく羊をなんとかしないと。

 あれっ、何でスイータリアは羊が一杯いると分かったのか?


 ああ、美味そうな匂いだ。

 魔力旨味の結晶からは美味そうな匂いがする。

 あれに羊が寄って来たのだろう。

 そうか。


 俺は黒い魔力結晶を魔力旨味に変えた。


「めー」


 よし、寄ってきたぞ。

 体に描かれている黒い霧発生の魔法陣を消す。


 意外に手間だ。

 殺した方が手っ取り早い気もする。

 スイータリアが後で殺したと聞いたら、きっと悲しむだろうな。

 仕方ない。

 街から出すか。


 魔力旨味をふりふりしながら羊の群れを誘導する。

 門になんとか辿り着いた。


「門は開けたままだな」

「はい、シングルキー卿」

「よし、羊を出すぞこれが元凶だ」


 羊を街の外に出す。


「そこにいる冒険者達、羊を洗ってほしい。洗ったら、農家に売却して小遣いにして良いから」

「そいつは良いな。よし、みんなでやるぞ」

「おう」


 冒険者が何人かいたので、魔法陣を消すように頼んだ。


「この世の終わりなら、暴れてやるぜ」


 暴動を治めないと。

 黒い霧を一気に晴らす魔道具だな。


 魔力結晶を作る魔道具はあるから、『fly』、これの魔道具を作る『ラララーラ♪ララーララ♪ラーララーラー♪』だな。

 簡単な飛行機を作って、この二つの魔道具を取り付ける。

 移動しながら飛ばすと、魔力結晶をぽろぽろと絨毯爆撃しながら、飛行機が飛んだ。

 霧が晴れると、落ちている魔力結晶に民衆が気づいて、拾い始めた。


「この世の終わりではない。神の恵みだ」

「この宝石、いくらなのかな」

「みんな持っているときっと安くなるな」


 魔力結晶を一生懸命に拾う民衆。

 暴動は治まった。


 『fire extinguishing』の消火の魔道具を作る。

 『ラララーラ♪ララ♪ララーラ♪ラ♪、ラ♪ラーラララー♪ラー♪ララ♪ラーラ♪ラーラーラ♪ラララー♪ララ♪ラララ♪ララララ♪ララ♪ラーラ♪ラーラーラ♪』だな。


 これは後でたくさん作って冒険者ギルドに卸そう。


「消火の魔道具を持ってきたぞ」

「ありがたい。みんな聞いたか。火を消すぞ」


 雨が降り始めた。

 ギルドの前で、マギナが杖を地面に突き立てて集中している。

 マギナが街を包む雨を降らせたのか。

 やるな。


 集中を途切れさせたくないので声は掛けない。


 ソルがボコボコに殴られた男達を連れて来た。


「ほらさっさと歩け」

「ソル」

「こいつら悪い事してたからよ。小突いて捕まえた」

「ご苦労様。霧が晴れたから、混乱はすぐに収まるよ」


「裁判が大変だな」

「嘘判別の魔道具を関係各所に配るさ」


 魔力結晶を冒険者ギルドに持って来る奴が出始めた。

 ここで安値で買い取るとまた暴動が起こる。

 冒険者ギルドは受け取り証を発行したみたいだ。

 落ち着いてから、買取の値段を公表するらしい。


 スイータリアの家に寄った。

 扉を叩く。


「誰?」

「シナグルだ」

「合言葉は?」

「メアリは歌う」


 家具を移動するような音がして、扉が開いた。


「シナグル」

「大丈夫だったか」

「うん、火事も起きなかったし、扉も開かないようにしたし。怖いお兄さんは何度か来たけど、扉が開かないので立ち去った」

「そうか」


「羊さんは元気?」

「今頃、農家に引き取られて幸せに草を食っているさ」

「良かった」

「羊は被害者だからな、殺すには及ばない」


 魔道具ギルドに行くか。

 略奪に遭ってなければ良いが。


 魔道具ギルドの前は凄かった。

 焼け焦げた死体がいくつもある。

 襲撃にきたが、返り討ちに遭ったんだな。

 攻撃用魔道具が数多くある魔道具ギルドを攻めればそうなるよな。


「シナグルさん」


 ピュアンナが出て来た。


「大変だったみたいだな」

「これぐらいの暴徒なら問題ありません。黒い霧を魔力結晶に変える魔道具は助かりました。大儲けですね」

「魔力結晶はこれから値段は下がると思うがな」

「今回消耗した魔道具の分ぐらい儲かれば問題ないです」

「後で魔力結晶を魔力旨味に変える魔道具を持って来るよ」

「助かります」


 暗闇のダークが何度攻めてこようが俺達は負けない。

 戦っているのは俺一人だけじゃない。

 みんなで戦っている。

 何人も集まれば、どんな戦いにも勝てる。

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