第30章 重税貴族
第117話 来客
Side:ケアレス・リード
家の扉が叩かれた。
誰か来たようだ。
来客の予定はない。
「ふむ、会ったことがあるような気が。どちら様かな?」
扉を開けて訪ねて来た男を観察する。
ボケる年齢ではないが、来た人の名前が分からない。
どこかで見た人だと思うのだが。
「リード卿には初めてお目にかかります。ファボラス・タックスと言います」
「思い出した。夜会で会ったのだな。タックス家の御子息だった」
「はい、先代が何かとお世話になりました」
「お世話と言うほど、交流があったわけではない。何度か立ち話をした程度だ。そうか、先代は亡くなられたんだな」
「はい、今は兄のバドガイが家督を継ぎました」
「私になんの用かな?」
「兄を止めて下さい。圧政を敷いてます。重税のあまり逃げ出す住人が後を絶ちません」
「抗議はしたのか?」
「はい、聞き入れてもらえず、気にくわないならお前も出ていけと言われました」
「それは酷いな。集めた税は何に使っている?」
「はい、兄が贅沢するために使っています」
「それは許せんな」
先代が生きているうちは猫を被っていたのだろう
よくあることだ。
貴族とて表立っての殺しは不味い。
ファボラスも兄を殺すほどの覚悟はないように見える。
殺すなら、ここに来る前にやっているはずだ。
因果応報魔道具を使うのは良い。
だが、重税の因果応報は、バドガイに国から重税が降りかかるのだろう。
それをやっても恐らくさらに住民に重税を課して涼しい顔だろうな。
うむ、そういう展開になったら上手くないな。
バドガイを改心させるのは無理かな。
噂ではシングルキー卿は善人にする魔道具を持っていると、それを借りようか。
「善人に性格を変える魔道具があるらしい。それを使おうと思うがどうか」
「それは無理ではないでしょうか。兄は贅沢と散財は貴族の美徳だと思ってます。罪悪感などこれっぽっちもないはずです」
難しい敵だな。
難敵だ。
税率を変える権利は領主にある。
それ自体は罪ではない。
道路の修繕や、治水などに多額な金が掛かることは往々にしてある。
未来に投資するために税を掛ける。
それがまともな貴族だ。
たしかにある程度の贅沢は許されよう。
上の方がお金を使わないと下々に金が流れないのも一理ある。
芸術家のパトロンになる貴族は多い。
たまには散財も良いが度が過ぎるのは良くない。
ふむ、難題だ。
友に聞いてみよう。
ファボラスには考えると言って私は友であるリプレースに会いに行った。
「その難しい顔は難題だね。遠慮なく話してくれ」
リプレースには会った早々、見抜かれてしまった。
私は今までのことを話した。
「ふむ、王も理由のない重税には頭を悩ませている。だが、貴族から税を取る権利をはく奪はできない。そんなことをすれば内乱が起こる」
「今まで放置されてきた問題なのは分かる」
「税率変更を届け出制にして理由を求めれば良いのだが、そうすると賄賂の温床になる」
「なるだろうな。リプレースにも打つ手なしか」
こうなったら現地に乗り込んで実情を探って何かしらのヒントを見つけないと。
タックス領まで私は走った。
タックス領の人々は幽鬼なような有様。
これは酷い。
逃げ出して他の土地に移れる人は良いのだな。
関所が作られ、出て行く人には移住税が掛けられているのを見た。
着の身着のままなら、関所を通らずに逃げ出せるが、そこは盗賊が待ち構えている。
有り金全部盗られるぐらいならまし。
殺されることもあるだろう。
バドガイは街道の盗賊は厳しく取り締まるが、他はわざと取り締まらないと住人が言っていた。
因果応報を味合わせてやりたい。
だが、どんな?
何をしたら良い。
駄目だ、考えつかない。
とにかく残された時間はほとんどない。
早急に手を打たないと。
住民全員が助かる道を考える。
私が金をばら撒いても焼け石に水だ。
一時的には持ち直すだろうが、重税をやめさせない限り未来はない。
「えへへ、花屋さん。お花を下さいな」
子供が遊んでいる。
「どうぞ。1本、石貨1枚」
雑草の花が石1個か。
石がみんなお金だったらな。
いや、それでは経済は破綻する。
誰も働かない。
だが、石のお金。
これをバドガイに買い取らせることができたら。
普通は騙されない。
だが、因果応報魔道具を使えば確率は上がるはず。
側近もいるから石をお金ですと言っても無理なのは分かる。
バドガイもさすがに石は買い取らない。
石を金色に塗ったら、金塊に見えないだろうか。
シングルキー卿なら見破られない偽の金塊を作り出すはずだ。
これは痛快だぞ。
重税を払った住民が石の金塊を売りつける。
そうすると金庫が空になるな。
そうすれば打てる手は色々とある。
よし、これだ。
偽金塊作戦。
ファボラスに会いに行った。
作戦を伝えるためだ。
「シングルキー卿への対価がいる。金では動かない男だ」
作戦を伝え、私はそう切り出した。
「私の持っている物などほとんどありません。何かあったら力になるという証ぐらいしか」
「それで良いと思うぞ」
ファラボスは自分の紋章が入った短剣を出した。
「家の紋章の短剣は出せません。兄は力になどなりませんから。無力な私の紋章で良いのですか?」
「そんなことは気にしない男だ」
よしこれでピースは揃った。
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