第114話 専門家

Side:ネティブ


「何が聞きたい?」

「星をどうやれば取れる?」

「ふははっ、星を取りたいのか。あんな化け物を」

「化け物?」


「いいか光る星のほとんどは太陽だ。ただ遠くにあるだけだ」

「落ちてくるのは?」

「星などと呼べないほど小さい塊だな」

「子供にどう説明したら?」

「本当のことを告げるべきだ。幼いうちから真実を知るのは良い事だ。まあ、気を落とすな。飲むか?」

「いや、仕事に戻らないと」


「そうか。星について語り合いたいと思ったのだがな」


 しょんぼりするプランツさん。

 何だか可哀想になった。


「仕事が終わった後なら」

「そうか。星について語ることはたくさんある。知れば知る程興味がそそられるぞ」


 プランツさんと飲むことになった。

 用は済んだと言わんばかりにベッドに寝ていびきをかき始めるプランツさん。

 確かに変人だな。


 仕事が終わり、例の定食屋に行った。

 夕方から酒を提供しているらしい。

 プランツさんと待ち合わせして酒盛りが始まった。


「ほら遠慮なしに飲め。割り勘だがな。がはははっ」


 それから星に対しての蘊蓄を嫌というほど聞かされた。

 惑星についての話はちょっと面白かった。

 白いフェンリル星と赤いドラゴン星が惑星だったなんてな。

 地球は丸いという説には驚かされた。

 証拠はと聞いたら、水平線の彼方にある船を見ると良い。

 マストの先から現れてくると。


 図を書いて力説された。

 そんな物かなととも思う。


 ポケットに鉄にくっ付く石があったので見せてみた。


「磁石じゃないか。こんな貴重な物をどこで手に入れた?」

「星を取る依頼の代金だ」

「釣り合っているかもな」


「そんなに貴重な物だったのか」

「見てろよ」


 プランツさんは、針金を取り出すと指の長さほどに切り、磁石に擦り始めた。

 そして糸を出して真ん中に結ぶとぶら下げた。

 針金はある向きを示した。

 揺らしても、いつの間にかその向きに戻る。


「これって大発明?」

「星の研究家なら知っている。ただ磁石が手に入らないので作れないが」

「こんなに簡単に作れるんだったら量産できるだろ」

「擦ったぐらいではすぐに磁力が抜ける」

「そうか。上手い話はないな」


 なんか、場末の定食屋に似つかわしくない一団が入ってきた。

 神官のようだ。


「プランツ、邪教を広めたとの疑いがある」

「教会か。忌々しい奴らだ。星を眺めているだけなのに」

「では我々が住んでいる大地は丸くないと宣言するか?」

「事実に反することは言えない」

「では逮捕する」


「すまん。ちょっと行って来る」

「プランツさん、大丈夫なんですか?」

「裁判なしに処罰はできない」


「引っ立てろ」


 プランツさんが逮捕された。

 変人だが良い人だったな。

 あっ、勘定。

 割り勘だったはずだ。

 こうなったら、取り立てないとな。

 商人が代金を踏み倒されるのは沽券に関わる。


 だから、助ける。

 そう屁理屈を自分の心に言って、折り合いを付けた。

 さて、どこからやろう。


 さっきの水平線の話をビラに書こう。

 図も書けば分かり易い。


 シナグル工房の商品で良いのがある。

 プリンターだ。

 何枚でも複製ができる。


 ビラには裁判の概要と日程も書いて、そのビラを作り始めた。

 そして、ビラを扉の隙間から入れまくった。


「ネティブだな。邪教を広めた疑いがある」


 神官が俺の所にきた。

 捕まってたまるか。

 俺が捕まると、誰がプランツさんを助けるんだ。

 邪教の疑いを晴らす魔道具が欲しいと念じたら、扉が現れた。

 僕はその扉に飛び込んだ。


 シナグル工房に出た。


「いらっしゃい」

「いらっしゃいませ」


 今までのいきさつを話した。


「星が丸いなんて当たり前じゃないか。教会は時代錯誤もはなはだしいな」

「そうなんですか。初めて聞きました」


 女性の店員は学がないな。

 まあ俺もプランツから聞くまでは知らなかった。

 一般人ならそんなものだ。

 シナグルは流石SSSランクということだろう。


「無罪にしてほしい」

「おう、嘘判別の魔道具をやる。使え」


 嘘判別の魔道具を貰った。


「代金はこれだ」

「磁石か。この形と色は俺の心の故郷の物だな。懐かしい。よしこれで商談成立だ」


 磁石はちょっと惜しかったが、一生が掛かっている。

 ケチることはできない。

 まあ、嘘判別の魔道具を売ればお釣りは出る。


 僕は大人しく逮捕されて、すぐに裁判が開かれた。

 裁判なんて初めて受ける。

 すり鉢状になった部屋の真ん中が証言台だ。

 その真ん前の高い位置に裁判官が座る。

 この裁判官は教会の者ではない。


 国の役人だ。

 ただ、教会は邪教の逮捕権がある。


 3日ぶりに会ったプランツさんは少しやつれていた。

 取り調べがきつかったのか。

 僕はフランツさんの共犯かと聴かれたので、そうですと答え。

 調書にサインしたら、それ以後は取り調べはなかった。


 プランツさんと被告人席に座らされた。

 嘘判別魔道具は取調官に裁判資料ですと言って渡した。

 受け取り証をくれたので、裁判官の手に渡ったはずだ。


 取り調べ側が教会の手の者でなくて良かった。

 出来レースだったら、もう反乱でも起こさないとどうにもならない。


「プランツさん、無罪を勝ち取って飲み代の割り勘分を払ってもらいますからね」

「勝てば奢ってやるよ。浴びるほど酒を飲んで勝利を祝うぞ」

「正義は勝つ」


 青臭いことを言ったが、嘘判別魔道具に全ては掛っている。

 シナグル工房を俺は信用してる。

 絶対に大丈夫だ。

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