第29章 夢の星

第113話 星を取る道具

Side:ネティブ


 エイタとワウンドーラの二人が来てる。

 こいつらここを遊び場認定したんじゃないだろうな。

 冷やかしの客でも客は客。

 目に余る行為をされたら注意する。

 その場合は拳骨ぐらい落としてもいい所だが、泣かれると店のイメージダウンだからやり難い。

 叱るぐらいだな。

 注意しても駄目な場合は親に報せて叱って貰おう。


 今の所、大人しく商品を見てる。

 仕方ない。

 何を探しているのか聞いてみよう。


「何を探しているのかな」

「お空の星を取れる道具」

「そうなの。星を取りたいの」


 また、無理難題だな。

 星が取れるなんて話は聞いたことはない。

 安い水晶でも買わせて、落ちた星だよと言おうか。


 だが、最高の商品を提供すると誓った。

 正直に取れないと言うのは簡単だが、持ってきた不思議な物を見て考えよう。


「不思議な物は何だ」

「鉄にくっ付く石」


 黒い石を差し出された。

 そばにあったハサミに近づけると吸い寄せられくっ付いた。

 不思議だな。


「あとこれも」


 出されたのは料理の絵が描かれた、裏が黒いワッペン。

 ふにゃふにゃしている。

 やはりハサミにくっ付いた。

 うん、確かに不思議だ。


「分かった星を取れる商品を用意しよう」


 さて、星ってなんだ。

 夜に見える。

 動いている。


 取れたという話は聞かない。

 星が落ちてきたという話はある。

 落ちた場所にあったのは鉄の塊と言われている。

 伝説ではそれで剣を打ってドラゴンを倒したとかいう話も物語としてはある。


 鉄を持っていってこれが星だよと言ったら納得しないよな。

 星が鉄でできているなんて夢のないことは言っても仕方ない。

 最高の商品とは違う。

 偽物でも良いんだ。

 納得して喜んでくれたら。


 いやそれは違う。

 うーん、考えがまとまらない。

 他の人の意見も聞くか。


 馴染みの定食屋に行って、昼飯を食べて気分転換して考えることにした。

 馴染みの定食屋は裏道の奥へひっそりと建っていた。

 この店は立地が悪いので、コスパで勝負してる。

 安いわりに美味いのだ。


「日替わり定食ひとつ」

「はいよ」


「子供にさ。星を取ってほしいと強請られたらどう納得させる」


 注文を取りに来た定食屋の店員に聞いてみた。


「あれは取れないのよじゃ駄目?」

「代金は貰っている。何かしらの商品は渡したい」


「ええと、星というと宝石が星に例えられるわよね」

「相手は子供で、代金は小遣い程度のものだ」


「水晶か、ガラスかな」

「安いのだとそんなところだよな。それは僕も考えた。だが、子供は案外賢い」

「星ってなんなのかしらね。深く考えたことはないわ」

「僕もだ」


「ここの定食屋の常連で星を研究している人がいるけど、会ってみる。プランツさんて言うのよ。住んでいる場所なら分かるわよ」

「頼む」


 研究家の住んでいる住所を書いた物が、煮魚の定食と一緒にテーブルに届いた。


 昼休みの時間はまだある。

 魚の骨を取る暇などない。

 頭からバリバリと食った。

 パンを口に詰め込む。

 ちょっとむせたので、皿を手に取って、直にスープを飲む。


 美味かった。

 よし。

 叩きつけるようにお代をテーブルの上に置き、急ぎ足で定食屋を出る。


 星の研究家の住んでいる場所は、治安の悪そうな安アパートが並ぶ場所だった。

 歩いていくほど雰囲気が暗くなっていく気がする。


 平気かな。

 だが、物乞いもチンピラもいない。

 落ちているゴミもない。


 気にしなければ住むには良い所なのかも。

 治安は案外悪くないのかな。


 入り組んでて場所が分からない。

 アパートの扉をノックした。


「すいません。この住所なんですが、分かりますか」

「おう。案内してやる」


 出て来た人はいかついが親切だった。


「ここって住みやすいですか?」


 当たり障りのないことを聞いてみた。


「おうよ、みんな顔見知りだな。食い詰めている奴が多いから、助け合わないと」

「僕が会いにいくプランツさんてどんな人ですか?」

「変人だな。夜は大抵星を眺めている。何が面白いんだか」

「へぇ」

「変な器具も作っているし。星の角度を測る機械だとか」

「なるほどね」


 僕にもよくわからない。

 星の角度を測ることの何が面白いのか。


「おうここだ」

「ありがとうございました」


 案内してくれた人が去って行く。


 扉を叩くが、返事はない。


 ここで諦めたら何もならない。

 しつこく叩く。


「うぃー」


 返事があった。

 眠そうな声だ。


 扉が開いた。

 髪の毛ぼさぼさで無精ひげの男が現れた。


「おたく誰?」


 扉を開けて疑念のこもった目でそう言われた。


「プランツさんですか? 星の話が聞きたくて」

「何だ同志かよ。早く言えよ」


 肩をバンバン叩かれて中に暖かく迎え入れてくれた。

 まあ、悪人ではなさそうだ。

 部屋の中は散らかっていた。

 数字を書いたメモがそこら中にある。

 見慣れない器具も置いてある。


 ゴキブリの類はいないな。

 乱雑ではあるが不潔ではない。

 研究者の部屋としか言えない部屋だ。

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