第111話 縁起物

Side:チェマンド・ヌイサンス

「状況は?」

「偵察によれば。食って、増えて、成長してます」


「よし魔道具を試すぞ。やってみろ」

「虎召喚、呪い」


 兵士が虎のモンスターを召喚して、呪いを掛けた。

 虎はつまらなそうに我々を見て、街の方に向きを変えて歩き始めた。


「通用門を開けろ虎を街に入れてやるのだ」

「了解」


 どんどん虎が召喚されて街に放たれる。

 通用門からはホーンラビットが溢れてくる。

 くっ、虎の数が足りない。


 このままだと、穀倉地帯がホーンラビットで溢れかえる。


「全軍、ホーンラビットを撃退」

「了解しました」


 兵士と虎のモンスターは頑張っている。

 だが、数の暴力はどうしようもない。

 くっ、負けるのか。


「俺達を忘れてもらっちゃ困りますぜ」


 職人風の男が工具を手にわしにそう告げた。


「やってくれるのか」

「住んでる街を滅茶苦茶にされたからな。そうだよなみんな」

「おう!!」


 住人が蜂起してくれるらしい。

 足りない兵の数が揃った。

 門から溢れ出てくるホーンラビットは押され始めた。

 虎は兵士や住人が逃がした奴を追いかけて食った。

 虎のモンスターの数もどんどん増えている。

 勝ったのか。


「侯爵様、住人に助けられましたね」

「シュリュードの仕込みだろう」

「分かりましたか」

「わしもそこまで節穴ではない。住人を街から逃がす時に作戦を伝えたな」

「ご明察です。ですが虎のモンスターがいなければ天秤はどちらに傾いたか」


 4時間ほどの激闘の末、街から出てくるホーンラビットがいなくなった。


「勝鬨を上げろ!」

「うぉぉぉぉぉ!」


「シングルキー卿が金貨10万枚を貸してくれた! サムプレースの街は必ず再建することを約束しよう!」

「うぉぉぉぉぉ!」


「シュリュード、街の再建の指揮を取れ」

「かしこまりました」


 少しでもお金を稼ぐためにはホーンラビットの死骸を有効利用しなければ。


「シュリュード、ホーンラビットの死骸はどうする?」

「皮が使えるのははぎ取ってなめします。角はアクセサリーに。肉は干し肉へと加工します」


「高くは売れんだろうな」

「いいえ」


「何かあるのか」

「今回の戦いのホーンラビットの素材は縁起物として売り出します。モンスターに負けないという謳い文句で」

「ならば、侯爵の紋章を使うことを許そう」

「恐れ入ります」


 縁起物か。

 焼け落ちて、ホーンラビットに蹂躙された街に入る。

 木で残っている物はない。

 焼けて灰になったか、ホーンラビットの胃袋に消えたかだ。


 今までホーンラビットが通ってきた道を逆に辿る。

 草や樹は全て食われていた。

 まるで巨大なナメクジが草木を溶かしながら通ったようだ。

 生態系というのを保てと言っていたな。


 わしは、苗木を用意させて、苗木を1本植えた。

 そして、石碑を建てるように命令した。

 二度とこのような愚行を起こさないために。


 見ると街の人間が総出で木を植えていた。


「侯爵様に倣いました。樹がなくなると、洪水が起こりますからね。すぐに効果は出ないでしょうけど、準備は大切です」


 森の樹は問題ない範囲で切り出されている。

 再建が始まっているのだな。

 住民のたくましさに頭が下がる気がする。


 わしも、木を切り倒すのを住民と一緒になって手伝った。

 流した汗が気持ちいい。

 いつぶりだろうか。

 働いて汗を流すのは。


 住民がサムプレースの住人一同、感謝を込めてと彫られた斧を持ってきた。


「くれるのか」

「再建の記念です」


 わしは王都の屋敷に帰ると書斎の壁にその斧を飾った。

 ふむ、心地いい飾りだ。


 そして、ある日。

 何者かに襲撃を受けた。

 わしは書斎壁に掛かっている斧を手に取ると襲撃者を迎え撃った。


「この斧から逃れられると思うなよ。これは心がこもっているのだ。神器だと思って貰おう」


「くそっ、武器は全て押さえたのではなかったのか」

「所詮飾りです」

「飾りかどうか見てみろ」


 わしは斧を振り回した。

 だが、分が悪い。


 その時に、住人が襲撃者達の背後に現れた。

 あれは、サムプレースの住人ではないか、何人か知っている顔がいる。

 みんな手に斧を持っている。


 おそらく街を再建する間、王都に出稼ぎにきたのだろう。


「火が見えたので、消火に来ましたぜ。こいつら何者です」

「分からん」


「撤退だ」


 隙を見せたな。

 背中を見せるとは。

 善人にする魔道具発動。

 襲撃者の一人が善人になった。

 そいつは仲間に組み付いた。


「何を気が狂ったか」


 そいつを善人に変える。

 そして次々に。


「お前らはどこの手の者だ?」

「邪神教団です」

「なぜ襲った?」

「ホーンラビットでこの国は亡びるはずだったのです」


 邪神教団がホーンラビットの件を仕掛けたのか。

 虎召喚とホーンラビット食いの呪い。

 このふたつの魔道具を持っているのはわしだからな。

 邪魔だったのだな。

 強い力は厄災を招き寄せる。


 だが、本当に強い力とはサムプレースの住人のようなことを言うのだ。

 こういう力は破れない。

 たとえ倒れても必ず立ち上がる。

 こういう力を今後も味方につけたいものだ。


 邪神教団、恐れるに足らず。

 住人の力こそが最強だ。

 わしは最強の力を持っているぞ。

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