第110話 生態系
Side:チェマンド・ヌイサンス
サムプレースの街が見える。
だが、街から上がる火の手を見て絶望した。
間に合わなかった。
近づいてみて何かおかしいのに気が付いた。
サムプレースの街すら上がる火の手が上がり過ぎだ。
サムプレースの街全体が燃えている。
出した伝令が帰って来た。
「報告します。毒を塗るのは了解です。ですが、持ちこたえられないので、街に入れて焼きますとのこと」
街の行政官か守備隊長のどちらかは知らないが優秀だな。
「住人は背後の穀倉地帯に逃げたのだろうな?」
「はい、私が行った時は僅かな兵を残して撤退してました。街も人っ子ひとりいませんでした」
そうか。
ホーンラビットがここにいないということは、焼けた街に飛び込んだのだな。
半数ぐらいは削れたとみて良いだろうな。
サムプレースの街の再建は絶対に成し遂げる。
サムプレースの街の犠牲は忘れない。
「サムプレースの街を迂回、穀倉地帯で迎え撃つぞ」
「了解です」
迂回して穀倉地帯に出た。
まだホーンラビットは街の中で焼かれている。
「シュリュードと言います。サムプレースの街で行政官をやってました」
「街を燃やす策はお前が考えたのか」
「はい」
「でかした」
「てっきり首を刎ねられると思ってました」
「なぜ首を刎ねる?」
「街が灰燼に帰したのです」
「街ならまた建てればよい」
「ありがたいお言葉です」
街の火の勢いがなくなっていく。
燃え尽きるとしても早い。
「街の火が消えそうだ。何でだと思う?」
「燃えているのは木です。奴らが食ってしまったかと」
くっ、厄介な。
「シュリュード、お前は行政官として置いておくのは勿体ない。側近としてわしに仕えろ」
「はい、及ばずながら全力を尽くします」
「これからどうしたら良い」
「敵は死兵です。おそらく街で死んだのは4分の1ほどだと思われます。毒を穀倉地帯に撒くしかないと愚考します」
それは助かっても飢饉が起こるぞ。
ホーンラビットと心中するのは納得できない。
「すまん。その作戦は取れない」
「それはようございました。作戦を了承していたら私はお暇するところでした」
「で、手はあるのか?」
「ございません。地の利が悪すぎます。それに何匹か奴らを仕留めてみました。メスのほとんどは子が腹にいます。いまも数が増えていると思われます。子は1日で成体になるようです。変異種ですね。その分飢餓に弱い。そして食欲が凄い」
今まで食わせ過ぎたのだな。
最初の大発生の報を受けて、森に毒を撒いておけばよかったのだ。
だが、過ぎたことを言っても仕方ない。
何か切り札がほしい。
魔道具でも何でいい。
目の前に突然扉が現れた。
扉には魔道具工房とだけある。
この異常事態に隣にいるシュリュードが何も言わない。
他の者もだ。
入れというのだな。
わしだけで。
この窮地をなんとかできるのならば、地獄へでも行こう。
入るしかないな。
「シュリュード、わしは少し席を外す。その間の指揮を頼めるか」
「了解しました」
扉のノブに手を掛けて、部屋に入った。
「侯爵様!」
シュリュード、焦った声が聞こえる。
室内には男と女がいた。
男の方は職人に見える。
女は店員だろう。
ここは魔道具工房と店か。
表札の通りだな。
「いらっしゃい」
「ここは何という店だ?」
「シナグル魔道具工房だよ」
シナグルというとシングルキー卿ではないか。
「貴殿がそうか。わしはヌイサンス侯爵だ」
「手紙で近況は知っている。善人として頑張っているようだな」
「それより、切り札を」
わしは状況を説明した。
「窒息の魔道具は貸せない。あれは危険すぎるからな。野心を持っている奴の耳に入ったら、困ったことになる。それに1匹でも生き残ったら、毎年同じことが起こるだろう」
「駄目なのか」
「いいや」
そう言うとシングルキー卿は魔道具を操作し始めた。
「ラー♪ララ♪ラーラーラ♪ラ♪ララーラ♪、ラーラー♪ラーラーラー♪ラーラ♪ラララ♪ラー♪ラ♪ララーラ♪、ラララ♪ラララー♪ラーラー♪ラーラー♪ラーラーラー♪ラーラ♪。ひとつはこれで良い。もうひとつは。ララー♪、ラーララーラ♪ラララー♪ララーラ♪ラララ♪ラ♪、ラー♪ララララ♪ララー♪ラー♪、ラーラーラー♪ラーラ♪ララーララ♪ラーララーラー♪、ララララ♪ラーラーラー♪ララーラ♪ラーラ♪ララーラ♪ララー♪ラーラララ♪ラーラララ♪ララ♪ラー♪ラララ♪、ラーララーラ♪ララー♪ラーラ♪、ラ♪ララー♪ラー♪。長くなったな」
絨毯に核石と溜石と導線が付けられた。
そして首輪に核石と溜石と導線が付けられた。
「どうなった?」
「虎型モンスター召喚と、ホーンラビットしか食えない呪いだ」
「ほう、それは心強い」
「だがやり過ぎるなよ。虎型モンスターの子は呪いが掛かってないからな。人も襲う」
「数の調整が必要なのだな」
「なぜホーンラビットが増えたか知っているか」
「いや何故だ?」
「狼型モンスターの毛皮が流行ったんだ。それで狩り尽くした。彼らの餌であるホーンラビットが増えたというわけだ。さすがに変異種は予想外だが。こういうのを生態系という。そのバランスが崩れたんだ。いったん崩れると大変だぞ」
「それで虎型モンスターの出番なのだな。とにかく恩に着る」
「後で金貨10万枚を送る。街の再建に使え。言っとくが貸しだからな」
礼は言わない。
借りだからな。
これは取引だ。
「邪魔をした。貴殿は最高の職人だ」
「賛辞を有難く受け取っておくよ」
「ではな」
戻ったぞ。
「侯爵様、ご無事で」
「大儀ない。切り札を買って来た」
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