第28章 最強の力

第109話 ホーンラビット大発生

Side:チェマンド・ヌイサンス


 わしは少し前までは悪役貴族だったヌイサンス侯爵。

 ホーンラビットが大発生したという一報を受けて現地に出向いた。


「状況は?」

「よくありません。ホーンラビットは10万からの大群です。最低でも兵が3000は欲しい所。兵が1万いれば、戦死者なしに終われるのですが」


 くっ、私兵の数を減らしたのが裏目に出たか。

 今いる兵はおよそ1000。


「なぜ報告が遅れた」

「すみません。今までは悪い報告を上げると最悪は処刑でした」

「すまん、わしのせいだな」

「いいえ。侯爵が改心したのですから、柔軟に対応するのが下の者のつとめです」


 かなり状況は悪いな。


「何で持ちこたえている」

「はい、精鋭を残したのと、人数を削減した分、装備が充実してます。士気も低くありません」


 精鋭部隊1000というわけか。

 雑兵3000に匹敵するのだろうな。


 だが疲労の蓄積度が、人数が少ない場合の弱点だ。

 防衛戦に持ち込むべきだな。


「防壁を築け。防衛戦をするのだ」

「了解しました」


 ホーンラビットを食い止めるには拳が通らないぐらいの網でないと。

 やつら毛がふさふさしているからな。

 罠にかかったネズミが指が通るぐらいの穴から抜け出したのをみたことがある。

 ホーンラビットの跳躍力は馬鹿に出来ない。


「いや待て。普通に防壁を作ったら突破される」

「身長の倍ほどの高さは必要ですからな」


「猟師を呼べ」

「了解しました」


 猟師が呼ばれてきた。


「ホーンラビットに大規模な罠を仕掛けたい」

「お館様、あの大軍では無理です」

「では嫌がらせはどうだ」

「火、肉食系のモンスターのおしっこ、掘ですね」


 どれも突破されそうだ。


「全部やれ。前線から少し退いて防衛ラインを作るのだ」

「焼け石に水かもしれませんが防衛ラインができれば、兵を休ませられます」


 作戦が実行された。

 何が効果があったのか分からないが、ホーンラビットの大軍は防衛ラインで止まった。


 だが、ホーンラビットの殺気が徐々に膨れ上がっている気がする。

 恐らく一斉に掛かってくるだろう。


 それまでに手を打たねば。


「防衛ラインを挟んで矢と魔法をありったけ放て」

「了解しました」


 弓を持った兵士が並ぶのは壮観だ。

 普通なら防衛線挟んで、一方的に遠距離攻撃されれば、遁走するものだが。


「撃て!! 魔法放て!!」


 指揮官の号令の下に攻撃が始まった。

 ホーンラビットで埋め尽くされているのでどんな下手な奴でも当たる。

 だが、数が少しも減った感じがしない。


 何度も矢が放たれたがホーンラビットにはひるむ様子もない。

 それどころかますます高まる殺気。

 それが赤い色となって目に見えるようだ。


 この防衛ラインを突破されれば街が蹂躙される。


「矢が尽きました」


 みると矢が突き刺さって動いているホーンラビットが多数いる。

 やつら痛みを乗り越えたのか。

 だが内臓がやられれば普通は死ぬ。


「お館様、恐らくホーンラビットは筋肉に力を目一杯込めてます。だから矢が筋肉で止まっている。手負いの獣になりましたな。厄介なことです」


 そうか、攻撃が来ると判れば、耐えるのは容易い。

 恐ろしいな。

 おそらく火事場の馬鹿力だろうが、それが全部か。

 そしてこの数。


 ホーンラビットがキキーって声を立て始めた。

 全部なので大音量だ。

 目がギラギラ光っているようにも見える。


「掘に油を入れろ。火を点けるんだ」

「了解」


 燃え盛る掘りは恐ろしいだろう。

 逃げろよ、逃げてしまえ。


 キーという音が大きくなる。

 もはや怒号だ。


 ここを突破されるとサムプレースの街がある。

 サムプレースの街は城壁があるから持ちこたえるはずだが、門が破られるかも知れん。

 そして穀倉地帯だ。

 ここまでこられたら飢饉が起こる。


 わしのミスがいくつも重なっている。

 防衛線も失策かも知れん。

 だが、他にどんな手があると言うのだ。


「少しよろしいでしょうか」


 指揮官が何か言いたそうだ。


「意見があるなら言ってくれ。妙案ならどんな意見も大歓迎だ」

「相手は前しか見えてません。ここは全軍を背後に回らせたらいかがでしょうか。サムプレースの城壁と背後に回った我らで挟み撃ちです」

「うむ、人間なら掛かりそうにないが、獣だからな。上手く掛るかも知れん。よしそれで行こう」


 逃げ癖が付いているようで嫌だが、背後に回った方が損害も少ない。

 我々はこっそりと背後に回った。

 殺気が更に上がったのだろう、防衛ラインをついに突破した。

 物凄い勢いだ。

 丸太の柵もあったのだが、全て食いつくされた。

 不味い、街の門は木の部分が多い。


「伝令、サムプレースの街の門に毒を塗れと指示しろ。特に木の部分は念入りにだ」

「はい」


 これで良い。

 ただサムプレースの街が持ちこたえている間に我々が背後から襲えるか。


 ホーンラビットの移動速度は速い。

 伝令の馬より遅いが、犬ぐらいの速さはある。

 我々が進軍するスピードは遅い。


 もう天に運を任せるしかない。

 賽は投げられた。


 ホーンラビットはもういない。

 我々は懸命に後を追い始めた。


 焦りが募る。

 兵の全員が騎兵ならな。

 今からでも騎兵だけでも先行させようか。

 いや少人数では焼け石に水だ。


 焦りは禁物だ。

 我々は全軍で背後から城壁ですりつぶすのだ。

 頼む、サムプレースよ、持ちこたえてくれ。

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