第108話 魔力飴

Side:シナグル・シングルキー


「もう工房を閉める。スイータリア、送っていくよ」

「はい」


 後片付けをしてから、工房を出て鍵を掛ける。

 夕暮れに近い。

 少し暗くなっている。


 スイータリアが手を差し出した。


「何?」

「手を繋いで」


「そうだな。この時間帯は仕事帰りの人で混む。はぐれてもなんだし」


 スイータリアと手を繋いだ。

 お父さんになった気分。


「うふふ」


 スイータリアが上機嫌だ。

 大通りを進んでいた時に悲鳴が上がった。

 見るとライオンと狼を足して2で割ったような漆黒の獣がいた。


「スイータリア、下がっていろ」

「はい」


 収納の魔道具から剣を出す。

 逃げ惑う人々を避けながら接近。

 すれ違いざまに獣を斬った。

 だが、骨の手ごたえがない。

 まるで岩を斬ったかのようだ。

 全体が硬い。


 剣の刃こぼれが凄い。

 獣は斬られたのにゆっくりと俺の方に向き合った。

 ゴーレムの類かな。


 ならば砕くのみ。

 剣を仕舞い連打連打。

 獣は粉々になった。

 しかし、すぐに元通り。


 獣の質感が何かに似ていると思ったら黒い魔力結晶だ。

 おそらく、暗闇のダークの仕業だな。

 黒い魔力を操るのが、奴の本来のスキルなのだろう。

 魔力結晶は俺のアイデアをパクったな。


 元が魔力だから、壊してもすぐに元通りだ。

 核なんて物は存在などしないのだろうな。


 そんな分かり易い弱点がある物を出して来るとは思えない。


「こんな敵、捏ねれば良いんです」


 スイータリアが寄って来て言った。

 そして空中を揉み始めた。

 獣がボコボコになって徐々に色が小麦色になっていく。

 まるでパンだ。

 おいおい、恐るべしスイータリア。


 でかい魔力結晶のパンができ上がった。

 でき上がった巨大なパンはピクリとも動かない。

 犬がきてそのパンを舐める。

 それも凄い勢いで。

 恐らく魔力旨味の塊だからな。

 旨味魔法恐るべし。


 相性の問題だな。

 魔力の結晶だったからな。

 旨味魔法を魔道具で再現するのはできるだろう。

 使う場所は限られるが、ヤルダー達が作っている魔力結晶も恐らく魔力旨味に変えられるのだろう。

 粉にして売ったら売れそうだ。


 スイータリアを家に送り、工房で魔道具作り。


 『Knead magic to create flavor』で良いかな。

 意味は魔力を捏ねて旨味化。

 「ラーララー♪ラーラ♪ラ♪ララー♪ラーララ♪、ラーラー♪ララー♪ラーラーラ♪ララ♪ラーララーラ♪、ラー♪ラーラーラー♪、ラーララーラ♪ララーラ♪ラ♪ララー♪ラー♪ラ♪、ラララーラ♪ララーララ♪ララー♪ララララー♪ラーラーラー♪ララーラ♪。とこれを綿棒の取り付けてと」


 魔道具を作った。

 黒い魔力結晶を魔道具で魔力旨味に変える。

 小麦色の魔力結晶ができ上がった。


 これっ、悪用されることが皆無の魔道具だな。

 大学に歌を送るか。


 巨大な魔力旨味の塊はどうするかな。

 よく考えたら粉にするのは良いけど硬すぎるんだよ。

 魔力結晶はダイヤモンドより硬いからな。

 その分、衝撃には弱そうだけど。


 うーん、粉にする魔道具は作りたくない。

 魔力結晶を粉にするのはべつに良い。

 だけど粉にするって単語だけ抜き出して歌を構成されたら、とんでもない兵器が誕生する。

 何でも粉微塵。

 うん、ぞっとする。


 魔力結晶の飴でいいか。

 舐めていると小さくなるし。

 魔力結晶は魔力をぶつけると溶ける。

 獣の時に溶かさなかったのは気体にしたとしても、再構成されるからだ。


 とにかく、魔力旨味飴、売り出そう。


 もう、寝るぞ。

 転生した田舎の夢をみた。

 魔力旨味飴をみんなで食べていた。

 仕送りするか。

 起きて、お金と一緒に魔力旨味飴を送るように手続きした。


 あの巨大魔力旨味は砕いた。


「美味しい飴だよ」


 俺は道でそれを配り始めた。

 これが良いような気がしたんだ。

 ヤルダー達が売り出す時に宣伝になる。


「魔力旨味飴、それって美味しいの」


 マギナが評判を聞きつけてやってきた。


「ひとつどうぞ」

「頂きます。パンの味ね。飴とは思えない」

「他の人が魔道具を作れば違う味の、魔力旨味ができ上がると思う。俺のイメージはスイータリアので固定されてしまった。インパクトが強すぎたんだ。大学に歌を送ったから、そのうち色々な味が出ると思う」

「そう。まあこれも美味しい。変わっているし」


 まあパンの味の飴なんてないからな。


「おう、誰が飴を配っているかと思ったらシナグルじゃないか」


 ソルが妹弟達を引き連れてやってきた。


「どれひとつ。うん美味い。みんなも貰え」


 妹弟達が食べ始めて、口々に美味しいと言う。

 暗闇のダークも人々に害成す物を飴にされるとは思わなかっただろうな。


「シナグルさん、また新しい魔道具を作ったのですね」


 ピュアンナもやって来た。


「スイータリアの技をパクった」

「なんか焼けますね」

「パンだけにか」

「ダジャレじゃないです」


 スイータリアが来た。


「ずるい、みんなして美味しい物を食べて」

「スイータリアなら好きな時に自分で作れるだろう」

「自分で作るとお腹一杯になるの。他人が作った物は美味しいの」


 そんな物かな。

 今食べているのはスイータリアが作った物だと言うのは辞めておこう。


 魔力旨味飴を舐める。

 少し甘くて、コクがあるパンの香ばしい味がした。

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