第107話 残された案件
Side:コインシェープ
くそっ、ベイスに逃げられた。
忌々しいのは、スレイという人質がベイスを庇った。
それだけなら良い。
そのスレイを今度はベイスが庇った。
おかけで、頭をかち割るはずが、肩口を斬った。
てっきり俺はベイスは脇を抜けて、逃げにかかると思ってた。
その時は背中にナイフを投げて終わりだった。
どっちに転んでも仕留められるはずだった。
そしてさらに忌々しいのは冤罪を晴らせと要求したことだ。
だが、これは嘘というか策略の可能性もある。
真犯人をでっちあげるのは裏の者なら簡単だ。
俺の心に残った疑念をどうしてくれるんだ。
モヤモヤしてたまらない。
この事件は最初からおかしかった。
それは言うまい。
くそっ。
「俺の身を守ってくれるのか」
「ああ、俺は悪徳守備兵ではないからな。買収されるような輩と違う」
守備兵の伝手で信用できる役人に違法奴隷の件を伝えた。
「スレイ、違法農園はこっちか」
「たぶん。必死で逃げたから。あの大きな樹があったのは覚えている」
「気をつけろ。鳴子とか仕掛けられている可能性がある。落とし穴とかのトラップとかもな」
「知っている。作るのは奴隷の仕事だったから」
「奴らが馬鹿じゃなきゃ配置はたぶん変わっているな」
「俺の知っているルートはひとつだけだ」
「それはあてにしない方がいいな。よし、斥候隊。トラップを調べろ」
斥候が散っていく。
やがて罠の位置が全て分かった。
「突入」
大捕り物が始まった。
奴隷主と思われる奴が揉み手して現れた。
「お役人様、なんの詮議でしょう」
「違法奴隷のだ」
「なんの証拠が。違法奴隷などいないよな。そうだと言え。スレイ!」
「ここは違法奴隷ばかりだ」
「何で魔法契約が解けている?」
「何でか知らないが、証人もいることだし、言い逃れはできないぞ」
「ええい、殺してしまえ」
ふん、奴隷監督官など怖くない。
抵抗できない奴隷を痛めつけるしか能のない奴らだからだ。
ほどなくして、全員が逮捕された。
「並んで並んで」
スレイが奴隷達を並ばせている。
そして順番に魔道具を使う。
「これで魔法契約を破棄できたのか」
「俺も最初は信じなかったけど、さっき信じた」
「助けてくれたお前のことを信じるよ」
奴隷達が泣いていた。
奴隷主が死刑になれば、契約は解除される。
だが、一刻も早く解放されたいのだろう。
「命令だ! お前らみんな死ね!」
奴隷主が叫ぶ声が聞こえた。
だが、奴隷は誰も死なない。
契約破棄の魔道具はちゃんと働いているらしい。
「グッピさんに感謝を」
「見たことないけど、グッピさんありがとう」
「俺は必ずこの恩を返す。スレイ、グッピさんの絵を描いてくれ」
「絵ならこれがあるぞ」
俺は手配書を出した。
こいつらから情報が入る場合もあるかも知れないからな。
賞金額も書いてあることだし、金に釣られる奴もいるかもな。
「これがグッピさんか、この絵は手放さないぞ」
くそっ、罪状も書かれているのにこいつら気にしないのか。
忌々しい。
さあ、気を取り直して、大掃除だ。
街に帰り、ゲロした監督官の情報を元に守備兵を逮捕する。
同じ守備兵として、吐き気がする。
悪徳守備兵など消えてしまえば良い。
この切っ掛けを作ったのがベイスって言うのも忌々しい。
ベイスが善行したわけじゃないと思っている。
きっと、打算を考えてのことだ。
おそらく俺の足止めに考えたのだろう。
あわよくばとな。
それに俺が嵌って足止めされているのが忌々しい。
我ながら間抜けだと思うが、ことがことだけに他人には任せられない。
守備兵の次は役人だ。
役人の家に踏み込む。
違法奴隷冒険者が歯向かってきた。
念の為スレイを連れて来てよかった。
「ほら出番だ」
スレイが奴隷解放の魔道具を使う。
「あれっ、命令の効力がなくなった」
「投降しろ悪いようにはしない。お前らは被害者だ」
「復讐させてくれ」
「殺したら罪に問うからな」
「おう、分かってる」
元違法奴隷冒険者の案内で、抜け道を急ぐ。
やがて、財宝を抱えた人達に追いついた。
「命令だ。こいつらを殺せ」
「いや命令は効かないから。これまでの恨み」
元違法奴隷冒険者達が役人家族を殴る。
まあこれぐらいは許してやろう。
役人は片付いた。
娼館も摘発する。
「違法奴隷を使っていると情報があった」
「何のことでしょう」
「スレイやれ」
スレイが娼婦に魔道具を使う。
「お嬢さんたち、この娼館の悪行を証言してくれ」
「命令だ。喋るな」
「私達、違法奴隷で嫌なのに色々なことをさせられました」
「詳しくは言わないでいい。違法奴隷って分かれば良いからな。どうだこれでも白を切るか」
「くそっ」
娼館主はうなだれた。
悪はいつか滅びる。
そうでもなきゃやってられない。
娼婦の契約を破棄させたスレイがもてもてだ。
「そう、解放の聖者様はグッピ様と言うのね」
「私、グッピさんのお嫁さんになる」
「いつか会いたいな」
くそっ、ここでもグッピの賞賛の声が聞かれた。
「コインシェープさん、手配書を下さい」
「スレイ、俺をグッピ信者だとでも思っているのか」
「でも断らないでしょ」
ああ、手配書をばら撒くのは役に立つからな。
やらない手はない。
が、忌々しいのはなんでだろう。
グッピ信者が着実に増えていく感じがする。
忌々しい、実に忌々しい。
どこかで、くしゃみをふたつしたのが聞こえた気がした。
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