第27章 違法奴隷解放

第105話 身分証

Side:ベイス

 妻殺しの冤罪で逃亡中のベイスだ。

 くそっ、どこも俺の賞金首の手配書が回っている。

 スタッピッドの村で貰った身分証明書もやばいかな。

 新しい身分証明書が要る。

 幸い今の偽名のグッピで探している奴はいない。

 コインシェープを覗いてな。

 コインシェープは守備兵で俺をしつこく追いかけている。


 街道を歩くこと3日。

 そろそろ街が見えてくるはずだ。

 新しい身分証明をシナグルが用意してくれたらなぁ。

 まあ、無理だと思う。


 うーん、次に出会った奴をカモろう。

 そいつに身分証を発行させる。


 草むらが揺れた。

 モンスターか。

 恫喝スキルが効く奴だと良いのだが。


 現れたのは小汚い男だった。

 ボロボロの服を着ている。

 見たところ武器は持ってないようだ。

 盗賊ではなさそうで安心だが、こいつが盗賊の一味ということも考えられる。


「止まれ」

「お、俺を連れ戻しに来たのか?」

「なんの話だ」

「違うのか。助けてくれ。俺は違法奴隷なんだ」

「魔法契約は?」


 これを聞かないとな。

 魔法契約には逆らえない。

 こいつが奴隷主の意向でいつ敵に回るか分からない。


「結んでる。無期限の奴だ」

「違法奴隷ならそうだろうな。解放なんかしちゃくれない。違法奴隷に関わった奴は軒並み処刑だからな。解放したらチクられる」


「とにかく助けてくれ。奴隷主から隠れて暮らせれば何でも良い」


 こいつに身分証を発行させると考えていたが、とんだ外れくじだな。


「しっ、しっ」


 俺は追い払う仕草をした。

 だが、俺の後をついてくる。

 ひよこじゃないんだぞ。

 神様ってのはどうしてこうも捻くれている。


 草むらが揺れて、鞭を持った男達が現れた。

 違法奴隷の追っ手だな。


「先手必勝、【恫喝】止まれ。何、ぼーっとしてるんだ。鞭で首を絞めるんだよ」


 違法奴隷と硬直した男達の首を絞める。

 この場はこれで良いが。

 死体から俺の存在がばれるかも知れないし、今も遠くから違法奴隷組織の奴が見ていて、報せに走っているかも知れない。


「よし、助けてやる」


 こう言うしかないだろう。

 もう巻き込まれている。

 あー、追っ手にこの男を差し出せば、良かったかもな。

 いいや、違法奴隷のことを喋ったかと奴隷が問われれば、正直に答えるしかない。

 どのみち俺は殺されていたな。

 仕方ない。


「本当ですか」


「俺のことはそうだな。盗賊に身ぐるみ剥がされた商人だ。お前がそう保証するんだ」

「分かった」


「となれば魔法契約の解除だな」

「契約した魔法使いか、奴隷主でないと出来ない」


「知ってるよ。それにしてもお前、馬鹿だな」

「何が?」

「契約魔法は掛けられる奴が納得しなきゃ掛からない。納得したふりをして、隙を見て逃げ出せば良い。違法奴隷に嘘判別スキルは使わないからばれない」

「くそっ、そうすれば良かったのか」


 魔法契約解除はシナグルに頼むとして、あいつは善行した証拠を求めて来るに違いない。


「俺はグッピだ。お前、名前は?」

「スレイ」


「よし、首輪と足輪を切ってやる。ヤスリが当たったら勘弁な」

「それぐらい我慢します」


 ヤスリで鉄の首輪と足輪を切り落とした。

 よし、この首輪と足輪を証拠として持って行こう。


 さて、街に向かうと途中できっと待ち構えているに違いない。

 どうやって誤魔化すか。


 あれしかないか。

 切り札を1枚切らされるようで嫌なんだが。


 スタッピッドの村で教わった髪の毛の染め方だ。

 簡単だ、エールで髪の毛を洗えば良い。


 髪色が変わったぐらいで印象はかなり変わる。

 そして、俺の着替えを渡してスレイを着替えさせた。

 ハサミで散髪もする。

 そして、眼鏡を装着させた。

 眼鏡は枠だけあったのを村で貰って、ガラス職人に板ガラスを入れてもらった。

 村に酒蔵があってよかったよ。

 瓶作りの職人だったが快く作ってくれた。


 これぐらいで騙されてくれないかな。

 道行く馬車を止める。

 金貨1枚で街まで乗せて貰えることになった。


 途中、違法奴隷組織の奴が道に立って見張ってた。

 歩くでも休むでもなく立ってキョロキョロしてたから、間違いないだろう。


「ビクビクするな。堂々としてれば、ばれないさ。顔を背けたりするなよ」

「はい」


 街まで着いた。

 問題は門番をどうするかだ。

 ここで違法奴隷組織を密告するのは、上手くない。

 買収されているかも知れないからな。


「グッピという商人だが、俺達は盗賊に荷物を盗られた。盗られた荷物に身分証が入ってて困ってる。仮の身分証を発行してくれ。こいつは下働きのイレス」

「互いが保証人になるのか」

「ああ、そうだ。身分証がないと困るからな」

「イレス、お前の主人の言う通りか」

「はい」


 仮の身分証を貰って、普通に足税を払って街に入った。

 宿がまた危険だ。

 俺が追っ手だったら一番に探す。


 乞食が寝るような場所も危険だ。

 乞食は金で情報を売る。


 定食屋を探す。

 そして皿洗い募集の紙が貼られてないか探した。

 ちょうど良いのがあった。

 住み込みだ。


 これこれ、こういうのが良い。

 借金取りをやっていた頃、金を借りた奴がこうやって逃げ回っていた。


「表の張り紙を見たんだが。皿洗いができる。料理を運ぶのもな」

「ありがたい。もう忙しくて」


 さっそく、二人して皿洗いだ。

 違法奴隷組織をどこにチクるかだな。

 役人は信用できない。

 貴族も信用ならない。


 初手を間違えると大変なことになる。

 かとって投げ文の類も駄目だ。

 買収されている奴にばれたら、この街にいるって宣伝しているようなものだ。


 何か上手い手を考えなきゃだな。

 とりあえず、皿洗いの仕事を終えた。

 違法奴隷を解放する魔道具が欲しい。

 そう強く願うと、あの扉が現れた。

 よし、何とかなる。

 楽観的に考えないとやってられない。

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