第26章 死にたいのに死ねない

第101話 ゴブリンの巣

Side:ブルータ


 おらおら、悪い盗賊、凶悪なモンスターはおらんか。

 いたら報せろ。

 俺達が退治してくれる。

 そんでもって死ねたら最高だ。


 悪党だった俺達盗賊は善人になる魔道具を使われ、いまも良心がズキズキと痛む。

 この痛みが晴れるなら何でもしよう。


「頭、ゴブリンの巣を見つけました」

「おう、案内しろ」


 手下に案内されて辿り着いたゴブリンの巣は洞窟だった。

 しかも村に近い。

 こりゃあ、殲滅しないとな。

 村人に被害が出てからでは遅すぎる。


「野郎ども、やるぞ」

「へい」


 弓で見張りのゴブリンを倒す。

 声をあげる間もなくゴブリンは死んだ。

 順調だな。

 ここからが問題だ。


 巣穴に俺達が踏み込むとゴブリンは気づく。

 歯向かってくる奴は良いんだ。

 殺すだけだからな。

 問題は逃げる奴だ。


 はぐれゴブリンになると畑などで悪さをする。

 抜け穴を全部調べるのは難しい。

 火責めが一番簡単だが、ゴブリンはたまに人間を捕えて食料とする。

 生きたまま長い間、捕えておくのだ。

 そういう人がいる可能性がある。


 地図の魔道具が欲しい。

 そう思ったら魔道具工房の扉が現れた。

 こりゃ神様のお導きって奴だろ。

 どうせ要らない命だ。

 入るしかないな。


 扉を開けると、中には俺達を善人にした冒険者様がいた。

 思わず拝んじまった。

 店員だろうか、可愛い女の子の子供もいる。



「いらっしゃい」

「いらっしゃいませ。男は問題なし」


 表札通りここは確かに工房だ。


「すまねぇ、神様のお導きでここに来たんだが」

「あんたは前に善人にしてやった盗賊だな。なにか魔道具が欲しいんだよな」

「そうだ。その盗賊だ。地図の魔道具が欲しい」

「対価はなんだ」


 言っちゃ悪いが、金なんかない。

 貯め込んだお宝は全部、村人に恵んじまった。


 旅人の護衛もただでやっている。


「こんな物しかない」


 俺は背負いから、干し芋を取り出した。

 助けてやった村人からたくさんもらったのだ。


「こいつは傑作だ。だがこれを貰ったらやらないとな」

「なぜだ?」

「農家から貰ったんだろ。感謝の印とかで」

「そうだ」


「干し芋は農家の非常食だ。命を繋ぐ希望と言ってもいい。何かあった時のだけどな」

「そんな大事な物を俺達にくれたのか」

「最大の感謝の気持ちだろうな。よしやるぞ。ラーラー♪ララー♪ララーラーラ♪」


 核石が作られ、本に埋め込まれた。

 溜石も本に取りつけられ、導線を繋げる。


 干し芋の対価の地図の魔道具は大事に使おう。

 道案内にも大活躍するにちげぇねぇ。


「干し芋、甘くて美味しい」


 女の子が干し芋を齧って笑っていた。

 盗賊に食われるよりその方が良いな。


「世話になった」

「魔道具が欲しくなったらいつでも来い」


 扉を潜ると、ゴブリンの巣穴の前だった。


「頭、どこに行ってたんです」

「おう、良い物を手に入れたぜ」


 地図の魔道具を起動する。

 なるほど抜け穴が一目で分かる。

 俺は手下を全ての出入り口に配置した。

 これで、大丈夫だ。


「踏み込むぞ」

「へい」


 獣臭い、洞窟に踏み込んだ。

 ゴブリンの大群が現れる。


「【恫喝】止まれ。死ね、【強打】」


 ゴブリンは額を剣でかち割られた。

 手下達も危なげなくゴブリンを仕留めている。


 恫喝スキルはしばらく使えない。

 だが、ゴブリン如きに下手を踏む手下はいない。


 ゴブリンを倒しながら進んで、大広間に出た。

 地図の魔道具で地形は頭に入っている。

 ここがゴブリンの数が一番多いから、ここに来た。


「【穴】、どうだ」


 手下のひとりが穴スキルを使う。

 地面にバケツ一杯ほどの穴を掘るスキルだ。

 こんなのでも嫌がらせにはなる。


 バランスを崩したゴブリンを仕留める。


「【転倒】とくらぁ」


 手下のひとりがスキルを使う。

 ただの転ばすスキルだ。

 しかも、踏ん張っていると効かない。

 へぼいスキルだが、援護にはなる。


 転がったゴブリンを仕留めた。


「【騒音】。へへっ、耳を塞げよ。そら隙だらけだ」

「【掻痒感】。痒いだろ。掻いていいんだぜ。そらよっと」

「【眩暈】。くらくらするだろ。しゃがめよ」

「【悪臭】。おりょ効いてない。元から臭いものな」

「【嫌悪】。隣の奴が憎たらしいだろ。同士討ちしちまえ」


 手下のスキルのオンパレードでゴブリンは次々に討ち取られる。

 俺も強打スキルを何度も使い、数えきれないほどのゴブリンの頭をかち割った。


 勝ったな。

 地図スキルを使うと抜け穴に入ったゴブリンの数は僅か。

 これなら配置した手下が上手く始末するだろう。


 さらに奥に踏み込むと。

 悲鳴が上がった。

 上がった悲鳴は女だ。

 くそっ人間が囚われていたな。


 地図魔道具で人間をいる場所を確かめなかった俺のミスだ。

 焦りは禁物だ。

 地図魔道具で人間のいる場所のゴブリンの配置を確認する。

 ゴブリンは1匹だ。

 これなら、助けられる。

 人間のいる場所へ最短距離で進んだ。


 辿り着いた現場は手下とでかいゴブリンが対峙してた。

 おそらく上位種だな。


 ゴブリンは人質を盾にしているらしい。

 背後から錆びたナイフを人質の首に押し当てていた。


 くっ、厄介な。

 恫喝スキルが再び使えるまであと少し。

 俺はゴブリンを刺激しないように、剣を地面に置いた。

 それを見て手下も同じように武器を置いた。


「ひっ」


 人質の少女が悲鳴を噛み殺した。


「よし、良い子だ。その物騒な物を下ろしたらどうだ」


 俺はゴブリンに話し掛けた。


 ゴブリンの緊張が少し和らいだように見える。

 そうだ。

 油断しろ。

 こっちは無手だぞ。

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