第100話 懐かしい顔
Side:シナグル・シングルキー
マギナ、ソル、ピュアンナ、スイータリア、マニーマインの5人が勢ぞろい。
5つの前掛けがプレゼントされた。
マギナは黒い色の前掛け。
マギナの黒髪に合わせた色のチョイスだろう。
良い生地を使っている。
ただ、あまり上手な出来とは言えない。
こういうのは気持ちだからな。
「下手くそだな」
「ソル、こういうのは気持ちだ」
「わりいわりい。つい出ちまった」
ソルのは赤。
こっちもソルの髪の毛の色。
上手に作ってある。
妹弟達の面倒をみていれば裁縫なんか自然に覚えるか。
「くっ、悔しいけど負けた」
「私も」
「私もです」
「仕方ないわよ。ほとんど、やったことがないんだから」
ピュアンナのはクリーム色の前掛け。
ピュアンナは金髪だから、一応髪色に合わせたのかな。
でも、無難な色だ。
出来栄えも無難。
素人が作りました感はあるから微笑ましいが。
「普通ね」
「普通に作れれば、いいんです」
スイータリアの前掛けは青のチェック柄。
これは人形のスカートの柄と同じ。
うんやっぱり下手くそだ。
でも嬉しいよ。
「まあ、頑張れ」
「私が、ソルの歳になればもっと上手く作れる」
マニーマインも持って来た。
マニーマインのはゴワゴワした生地。
綿布だが、あまり綺麗ではない。
元は奴隷の服だったらしい。
リサイクルは良いと思うからこれでもオッケーだ。
「これはまた。負けた、アイデアで負けた」
うなだれるソル。
「確かに」
やっぱりうなだれるマギナ。
「でも重たいわよ」
別に負けてないという風情のピュアンナ。
「お姉ちゃん達の言っていることが分かんない」
ソルがスイータリアに耳打ちする。
「えっ、さすがにそれは。ドン引き」
スイータリアの一言で、マニーマインが真っ赤になった。
恥ずかしいのか。
ああ、自分が奴隷時代に着てた服を使ったのだな。
なんというか確かに重い。
前世でチョコに髪の毛とか入れていた人がいた。
ドン引きだったけど、それよりはましだ。
古着だけど綺麗に洗濯してある。
匂いもしない。
「みんな、ありがとう」
「ねえ、どれから着けるの?」
マギナの一言に他の4人が俺に注目した。
この一言で何かが決まる。
そんな予感がした。
俺はクラッシャーを出すと、魔石を載せた。
「ララーラ♪ララー♪ラーラ♪ラーララ♪ラーラーラー♪ラーラー♪、ラーラ♪ラララー♪ラーラー♪ラーラララ♪ラ♪ララーラ♪、ラララーラ♪ララーラ♪ラーラーラー♪ラーラー♪、ララーラーラーラー♪、ラー♪ラーラーラー♪、ラララララ♪」
俺はその核石を立方体の木片に取りつけた、そして溜石と導線を繋ぐ。
「何それ」
「使ってみていいよ」
「面白ーい。3だって」
「3番目だから、今日はピュアンナのだな」
「魔道具にゆだねるなんて憎たらしい人ね」
マギナがわざとすねたような口調で言った。
「がはは、公平に着てくれたらいいさ」
「最初に作った私のは?」
「スイータリアの最初のは勝負服だ。ここぞという時に使う」
「ずるいけど。子供に文句は言えないわ」
みんなそれで納得してくれたようだ。
「マニーマインは今日はなんの魔道具を作ったら良いんだ」
「奴隷に希望を与える魔道具。家族の顔が見れる魔道具よ。お金なら金貨30枚払っても良い。ミスリルの鉱山で当てたからね」
「そういう対価では引き受けない」
「奴隷達からの銅貨もあるわよ」
「それを先に言え」
俺はクラッシャーを出すと、魔石を載せた。
「ラララーラ♪ララー♪ラーラー♪ララ♪ララーララ♪ラーララーラー♪、ラララーラ♪ララー♪ラーララーラ♪ラ♪。ほらできた」
鏡に核石と溜石を取り付け、導線で結ぶ。
起動すると、今世の両親と兄弟、そして前世の両親と兄弟の顔が浮かんだ。
あまりの懐かしさに涙が止まらない。
マギナがその魔道具を使って泣きはじめた。
「お母さん。マギナは立派にやっています。見てて下さい」
ソルも泣いている。
「父ちゃん母ちゃん、妹弟達の世話なら気にしないでくれ」
ピュアンナは涙ぐんでいるだけだ。
「私はまだ両親が健在だけど、若い時の顔を見せられると歳をとったなって思います。苦労掛けてます」
スイータリアは嬉し泣きだな。
「ええと赤ん坊の男の子の顔が見える。やった。弟が生まれるのね」
マニーマインは懐かしさで泣いたのだと思う。
「久しぶりに田舎に帰ろうかな。奴隷落ちした時に連絡が行って心配していると思うから」
死んだ人の顔を見せるなんて反則だ。
自分で作っておいて、酷い魔道具だと思う。
反則で、涙を流させる、魂に響く傑作。
この核石の歌は公開しよう。
こういう魔道具はいくらあっても良い。
マニーマインが、普通の扉から出て、田舎に帰るのを見送った。
俺も帰ろうかな。
でも前世の親や兄弟の顔が浮かぶと、今の両親と兄弟との関係がギクシャクしそうだ。
金は仕送りしているけどね。
前世の両親はきっと亡くなっているだろう。
スイータリアが交換した食材の賞味期限をみれば計算してしまう。
兄弟は生きているだろうが、いまさらだな。
転生しましたと手紙に書いて送ることはできる。
だが、それ以上はいけない気がする。
未練だな。
不幸を呼ぶ。
きっと手紙のやり取りしたら帰りたくなるに違いない。
それは良くない。
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