第94話 灯りの核石

Side:ケアレス・リード


「いらっしゃい」

「いらっしゃいませ。男はチェックの必要なし」


 扉の先はシナグル工房で、シングルキー卿と6歳ぐらいの女の子が暖かく迎えてくれた。


「すまない、面倒を掛ける」

「お前ら、評判が良いな。この前、王都に転移して買い出しに行ったら、その噂で持ち切りだった」

「大したことはしてない。富を少しばかり貧しい人達に還元したのだ」


「気分が良いから、格安で魔道具を作ってやるよ。何でも言え」

「助かる。灯りの魔道具を96個欲しい」

「灯りの魔道具なら、そこら中にあるだろ」

「それが、敵であるイムベザルに買い占められてしまったのだ」


 ニヤニヤ笑うシングルキー卿。

 悪だくみだな。


「それなら、灯りの核石か作れる歌を教えてやる。ララーララ♪ララ♪ラーラーラ♪ララララ♪ラー♪だ。紙にも書いたから持って行け」


 これは痛快だ。

 灯りの核石が魔石の値段と加工代で作れたら、灯りの魔道具の値段は暴落するに違いない。

 そうなると、イムベザルのダメージになる。


 致命傷になるかは分からないが、やるだけはやる。


「恩に着る。この礼はいずれ」


 金なら相場で儲ければ良い。

 王都に豪邸が建つぐらいの金額で良いだろうか。


 さあ、走るぞ。

 シナグル工房から帰り、リプレースから相場の最新情報を受け取った。

 穀物相場をやっている都市に向かって走る。


 途中寄った、魔道具ギルドは閑散としてた。


「灯りの歌だ。リプレース卿とシングルキー卿の施しだ」

「シングルキー卿が、核石の歌を書いてくれたのですか」

「そうだ。両名に感謝したまえ」


「おい、それは本当か。大量生産して高値で売り抜けるぞ。ちょうど灯りの魔道具は高騰している」

「俺にも写させろ」

「押すな」

「よし俺も作るぞ」


 職人が群がってきた。

 よし、次に行こう。


 どこの魔道具ギルドでも反応は同じだった。

 職人の目の色が変わり、みんな灯りの魔道具を作ると意気込んでいた。


 穀物相場をやっている都市にきた。

 いつも通り、仲介人に指示を出す。

 帰りは、色々な穀物の産地を回る。

 在庫や取れ高を聞くためだ。


 その街の魔道具ギルドにも灯りの歌を置いていく。

 ポーションで体を治しながら、駆けずり回った。


 穀物相場は荒れに荒れ、灯りの魔道具も暴落した。


「穀物相場で首を吊るような商人が出たら、報せてくれ」


 仲介人にそう指示を出した。

 助けられる範囲でなら助けてやる。

 マッチポンプだが、なるべく不幸になる人を出したくない。


 助けると言っても、破産手続きをして、借金取りから守って、再出発の資金を少し貸すだけだ。


「本当に助けてくれるのですか」


 破産した商人がやってきた。


「ああ、少しだけだが」

「助かります」

「よし、破産手続きをしたら、うちの領に来い。匿ってやる」

「もう、奴隷落ちしかないと思ってました」

「違法な金貸しへの返済なんか要らない。訴えたら元本も慰謝料として取れる。そうすれば真っ当な金貸しへの返済はできるだろう」

「ええ、貴族様の名前で訴えたら、違法な金貸しは黙るでしょうね」

「普通なら、報復の殺し屋が怖いだろうが、貴族を舐めてもらっては困る。すきにはさせない」


 こうやって何人もの商人を助けた。

 違法な金貸しが何軒潰れようが、構わない。


 やつらは犯罪者だからな。

 そいつらにくれてやる慈悲はない。


 最近、足が物凄く速くなった気がする。

 ステータスを確認したら、身体強化のスキルが生えてた。

 おう、これで体が頑丈になってさらに速く走れるようになったのだな。


 一段落したので宴でも催そう。

 立食パーティを企画した。


 イムベザル陣営の貴族が何人も訪れた。

 招待状を出したからな。

 向こうに私達の財力を見せつけるためでもある。


「ご招待ありがとうございます」

「ふむ、楽しんでいってくれたまえ」

「ちっ」


 舌打ちが聞こえた。

 痛快だな。

 敵の苛立ちほど、良い酒の肴はない。


「私は、イムベザルの派閥から抜けようと思ってます」

「わざわざ私に言いに来なくても良いのだが」

「報復が恐ろしいので」

「どちらの?」

「両方です」

「ふむ、こちらは報復などしない。しかし何で派閥を抜けようと?」

「ここだけの話にしておいてもらえますか」

「ああ、約束しよう」


「イムベザルの派閥は穀物相場で多額の負債を負ったのです」

「なるほど」


 私達が相場をかき回したのは無駄でなかったのだな。

 得をすれば損をする者がいる。

 損した者には善人もいる。

 私とてやりたくないが、今回は仕方なかった。

 他に思いつかなかったのだ。


 今後、相場は辞めておこうと思う。

 今回は上手くいったが、次回もそうなるとは限らない。


「私の計算では、もうすぐイムベザル派閥は軒並み破産します」

「報せてくれてありがとう。君のことは無下にしない。何かあれば言ってきたまえ」


 派閥から離脱者が出るということは終焉が近いな。


「友よ、潮目が変わりそうだぞ」

「嬉しそうだな」

「良いことは重なるものだ。不幸と同じでな」

「そうだな。人生などそのようなものだ」


「祝杯をあげよう。勝利と私達の好事を願って。乾杯」

「乾杯」


 裁判の行方が楽しみだ。

 きっと荒れるぞ。

 王に迷惑を掛けないという決着を望むばかりだ。

 だがなんとなく上手くいく気がする。


 そうそう、灯りの魔道具96個は、王都の魔道具ギルドから献上された。

 歌をもたらしてくれたお礼らしい。

 これも好事かな。

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