第24章 相場で懲らしめる

第93話 横領

Side:ケアレス・リード

 リプレース卿が舞踏会の手配を任されることになった。

 友が出世して嬉しい。

 それにしてはリプレースの顔色が冴えない。


「何か悩みでもあるのか?」

「私の前任者が予算を横領していたようだ。このままだと私の責任になってしまう」

「それは酷いな。裁判に訴えるしかないだろう」

「ああ、いまその手続き中だ。だが舞踏会は取りやめないといけないだろうな。怒りの矛先は私に向かいそうだ」

「友よ、私に何かできないだろうか?」

「助かる。走ってほしい」

「足がなくなっても、友のためなら走る。それでどこへ行けば良い」


 横領された予算の穴埋めのために走る。


「麦を買いだ。金貨1000枚分だ」

「そのように手配します」


 仲介人に指示を出した。

 どういう予算の穴埋めかというと相場だ。

 商人の馬車より早く走るのだ。

 これで情報を先取りできる。

 相場で儲かるというわけだ。


 色々な街で相場の売り買いをした。


「どうだ、儲かったか」

「はい、かなり儲かりました」


 仲介人から結果を受け取る。

 どこも儲かった。

 まあ、相場は情報の早い奴が儲かる仕組みになっている。


 誰よりもいち早く情報を掴んで、穀物を売り買いする。

 面白いように儲かった。


「友よ、ありがとう。予算は何とかなった。だが、光の魔道具の数が足りないのだ。前任者は補充を怠っていたらしい。壊れている魔道具が使えると帳簿には記載されている」

「それは酷いな。なら、光の魔道具をかき集めないと」

「頼む」


 王都を駆け巡ったが、数が集まらない。

 地方にも足を延ばしたが駄目だった。

 運が悪い。

 どこもちょうど売り切れと言っていた。

 請け負った以上なんとかせねば。


 裁判が始まる前、私は相場で儲けた金の余った金額を、リプレースからの施しだと言って貧困層にばら撒いた。


「浮浪児なのにくれるの」

「ああ、この金で腹いっぱい食べろ。これを施したのはリプレース卿だ」

「その人は良い人だね」

「ああ、良い奴だ」


「ありがとうございます。これで一家で夜逃げをしなくて済みます」

「良かったな。また苦しくなったら私達に相談しろ。割のいい仕事の伝手はある」


「孤児院にこんなに寄付を」

「ああ、これこそが正しい貴族の在りようだ。悪いことをして懐を肥やすばかりでないことを覚えておいてほしい。私達リプレースの陣営は貧しい者の味方だ」

「孤児員一同の感謝を。あなた達には神から幸運がもたらされるでしょう」

「そうありたいものだ」


「炊き出しとはありがたい。仕事を首になって食えないからな」

「みんな腹いっぱい食ってくれ。リプレースの施しだぞ」

「美味しいね。こんなに腹一杯になったのはいつ以来だろう」

「子供は食わないといけない、腹一杯食って良いぞ」


 イムベザルは貴族に金をばら撒く戦術のようだ。

 くっ、不利なのは認める。

 だが、リプレースが貴族に金をばら撒くのを嫌がったのだから仕方ない。

 ただでさえ悪徳貴族が多いのに、そいつらの懐を肥やすのは私も我慢できない。


 民衆からの支持は強まった。

 そんな時にイムベザルが手紙を寄越した。

 内容は灯りの魔道具を売ってやってもいいとある。

 どういうことか私にも分かった。

 イムベザルが灯りの魔道具を買い占めたのだ。


 その値段は相場の10倍だ。

 足元を見るのも憎たらしいが、横領した金で魔道具を買い占めたに違いない。

 なんてふてぶてしい奴なんだ。


 王城の大会議室に貴族が集まった。


「これより、イムベザル卿が横領したという訴えの裁判を始める」


 ざわめきが起こる。

 裁判が始まった。

 だが、証拠がないのだ。

 イムベザルは証拠隠滅を念入りにやったらしい。

 このままだとリプレースが着任早々に横領したことになってしまう。


「私は真偽官に掛かることを宣言します」


 リプレースがそう言った。


「茶番だ。真偽官は買収できる。ならば私も真偽官に掛かろう」


 イムベザルがそう言って反論した。

 二人とも真偽官から横領していないと告げられた。

 そっちこそ買収しているだろ。


 ざわめきが激しくなった。


 裁判を見ている王は苦虫を噛み潰したようだ。

 その気持ちはわかる。

 リプレースが責任を負って処刑されようもものなら、民衆が立ち上がるかも知れない。


 イムベザルを確たる証拠なしに処罰したら貴族がうるさい。

 反乱ということも考えられる。


 どちらの目が出ても、王にとって未来は暗い。

 申し訳ない気持ちで一杯だ。

 だが、リプレースを冤罪で失うわけにもいかない。

 王の心が安らかになるような決着になったら良いのだが。

 私は、そのためになら、走ろう。

 どこへ走ったら良いか、占い師にでも聞いてみようか。


「あなた、ご安心下さいませ。イムベザルの命運は尽きてます。家宝の因果応報魔道具を使ったのですから」


 グレイラがそう言ってにっこり笑った。

 良くやった。

 反撃の時間だ。


 私達の武器は、お金だ。

 お金なら相場でいくらでも湧いて来る。

 やり過ぎはしないが、貧困層の手当はまだ必要だ。


 さあ、走ろう。

 その前に、灯りの魔道具が欲しい。

 そう念じた。

 シナグル工房への扉が現れた。

 シングルキー卿は灯りの魔道具を作ってくれるだろうか。

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