第92話 晩餐会

Side:シナグル・シングルキー


 ロンティア伯爵の晩餐会に出席している。

 マギナと一緒にだ。

 ソルも誘ったが、断られた。

 柄じゃないそうだ。


 冒険者ギルドと魔道具ギルド連名で、強制依頼を出されてしまった。

 別にランクが下がるのは問題ないが、この街に住んでいる以上仕方ないことだ。

 ロンティア伯爵も俺が曲りなりも貴族だから、招待しない訳にもいかない。

 無視するのは敵対してますよってことだ。

 二つのギルドは伯爵と摩擦を起こしたくない。

 招待状が出た時点で強制依頼発動だ。


 こういうのも仕方ないかな。

 俺にテーブルマナーの教養なんてものはない。

 そりゃ前世でフルコースは何度か食べたことがある。

 でもめんどくさいと感じたら箸を頼めば良い。


 格式のそんなに高くないレストランなら、箸を頼んでも嫌な顔はされない。

 さすがに彼女とのデートではそんなことはしなかったが。


 で、マイ箸を用意した。

 テーブルマナーに気を使って味のしないような食事はしたくない。

 たぶん箸で食ったら美味しいと思うんだ。


「お招きありがとう」

「お招きありがとうございます」


「おお、シングルキー卿に、トゥルース女史。食事を楽しんでくれたまえ」


 ロンティア伯爵は鍛えてある体つきだ。

 武人なんだろう。


 前菜を食べ、スープに毒感知の魔道具スプーンを入れた途端反応した。


「スープに毒が入っている」

「何だと!」


 ロンティア伯爵が声を荒らげた。

 携わった者が全て集められた。


 俺はこそっと因果応報魔道具を使った。


「全く忌々しい、我の名前を勝手に使いおって。お前ら我の毒に侵されろ」


 何人かが顔が紫になりのたうち回った。

 毒を盛ったから、毒を邪神から盛られたってわけね。

 だが、犯人達は一向に死ぬ気配がない。

 おお、永遠に苦しむ毒なんだろうな。

 さすが邪神、血も涙もない。


「神の名前で悪さするから」


 マギナのいうことはもっともだ。


「だな」


「アコニット様、お助けを。あなたの計画通りしたのに」


 使用人の一人に向かって犯人が手を伸ばす。


「ちっ、俺の正体をばらすような真似しやがって、こんな簡単な計画も失敗するような奴は死ね」


 そう吐き捨てて使用人が逃げ出した。

 毒を盛る計画は立てたけど、実行してなかったから、因果応報から逃れられたのか。

 だが、陰謀の報いがいずれ訪れる。

 因果応報魔道具に掛ったのだからな。


「さあ、犯人も分かったし、晩餐会を続けよう」

「シングルキー子爵はそう言ってくれるか。そうだな、改めて乾杯しよう。この街の更なる発展とシングルキー子爵との絆に乾杯」

「「「「「「乾杯」」」」」」


 料理人は大変だな。

 何人か抜けて、冷えた料理を何とかしないといけない。


「あー、少し余興を見せたいが良いかな」


 俺はそう申し出た。


「何かな。もちろん許可しよう。どんなことをしてくれるか楽しみだ」


 収納魔道具から、クラッシャーと魔石を取り出した。

 言葉は『warm』で良いだろう。


「さて、ララーラー♪ララー♪ララーラ♪ラーラー♪。ほらできた。これは冷めた料理を温める核石だ」


 さっきの歌を覚えたかという囁きがあちらこちらから聞こえる。

 値段が下がる前に大量生産して売り抜けようってつもりだろう。

 これだから、貴族や名士や商人は抜け目がない。

 まあ別に良いが。


 ロンティア伯爵は喜んで、それを使ったホカホカの料理が提供された。

 料理は温かくないとな。

 冷めた料理は美味しくない。


 食事は終り、ロンティア伯爵が俺の所に来た。


「おかげで顔を潰さずに済んだ。ところで犯人を罰したあの声は誰だ」

「さあ、神のひとりじゃないかな」

「それとその2本の棒の食器は変わっているな。子爵の発明品かね」

「心の故郷の食器だよ」

「ふむ、心の故郷ね。意味深だが、秘密の一つや二つ、誰にでもある」

「罰せられた犯人だが、会いたいが良いか」

「構わんよ」


 牢の中で犯人達はのたうち回っていた。

 俺は解毒の魔道具を使ってやった。


「一生苦しむほどじゃないからな。もちろん罪は償ってもらう。死刑にならないようにはかっても良い。考え方次第でな。どうだ、邪神を崇める宗教から改宗するか?」

「します」

「我らは邪神に見棄てられた身」

「失敗した我らは殺される未来しかない」


「よし、改宗させる魔道具を作る、これを元の仲間たちに使え」


 善人の魔道具じゃ駄目だったからな。


 『conversion』、つまり改宗だ。


「ラーララーラ♪ラーラーラー♪ラーラ♪ララララー♪ラ♪ララーラ♪ラララ♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪とな」


 十字架型の魔道具を作った。

 このがわはマニーマインに渡した魔道具のスペアだ。


 改宗魔道具を犯人達に使った。


「あのくそ邪神、俺達に毒を盛りやがった」

「考えてみたら、邪神から恩恵は受けてないよな。全て教団からだ。それも犯罪で儲けた金」

「教団は腐っている。死をもたらすのが最高の功徳だなんて」


 上手くいったな。


「改宗の魔道具とは考えたわね。精神魔法は嫌いなのよ。でも邪教を改宗するなら平和になるわね」

「俺もしたくはなかった。こうでもしないと懲りないから」

「狂信者ってのは度し難いわね」


 ロンティア伯爵を説得して、犯人を釈放して貰った。

 犯人達はこれから、邪神教団を切り崩しに掛かる。

 改宗の魔道具から、逃れられるかな。


「我々は、今までの行いを悔いて善行して暮らします」

「死ぬなよ。死ぬのは善行じゃないからな」

「分かってます」


 犯人達が去って行った。


 帰りに核石市を覗いたら、温めの核石が山と売られてた。

 便利だからね。

 前世でも電子レンジのない生活は考えられなかった。


 大学にも教本を送った。

 これで世界中で作られるだろう。


 露店では早くも温めの魔道具を使っている所がある。

 パンとか温めて売っていた。

 あと飲み物とか。

 温かい食事を買った客たちは笑顔だ。


 またひとつ魔道具で世界を笑顔にできた。

 温めの魔道具はもっと早く作っておけば良かった。

 さあ、次は何を作ろうか。

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