第95話 破産
Side:メンツ・イムベザル
くそっ、穀物相場で損をした。
領の財政が傾く金額。
だが、裁判を乗り切れば、金などどうにでもなる。
「不味いです。灯りの魔道具が暴落しました」
側近が青い顔をしてそう言った。
「何だと!」
不味い。
あれの買占めには相当金を使っている多額の借金をしていた。
今更、売ったら、赤字が確定だ。
何でこんなことに。
「裁判の時間です」
侍従が報せに来た。
裁判には出なくてはいけない。
でないと、罪が確定したりするからだ。
そんな場合ではないが仕方ない。
「私は、証言します。イムベザル伯爵に言われて、横領の手伝いをしました。真偽官の買収にも関わりました」
何だと、何年面倒をみたと思っている。
なんと派閥の貴族が裏切った。
「裁判長、真偽官をお呼び下さい、やり直しを要求します」
くっ、不味い。
だが、ことは悪い方向に転がり落ちる。
「【嘘判別】、横領しましたか」
「やっとらん」
「嘘と出ました」
終わった。
何もかもお終いだ。
派閥の誰もそれに対して異議を唱えない。
それどころか足早に去って行った。
金をばら撒いた貴族もみんな去って行く。
残ったのはリプレースと奴に親しい貴族だけだ。
もちろん私を救うためにいるのではない。
あざ笑うためにいるのだ。
「この不埒者を牢に入れて、厳しく取り調べろ」
王がそう申し渡した。
もうお終いだ。
リプレースに罪を被って貰おうと考えたのが不味かったのか。
奴には英雄のリードがついている。
くっ、英雄の力を甘く見たか。
Side:とある貧民
ああ、リプレース卿からの施しがありがたい。
もう死ぬしかないと思ってた。
施しはまだ続くらしい。
何でも違法な金貸しから、有り金搾り取るらしい。
「聞いたか。リプレース卿が裁判で勝ったとよ」
「そうか、めでたいな」
「何かしてあげたいが」
「じゃあ石碑を建てようぜ」
「いいな。助けて貰った奴らを集めて石の大きいのを運ぼう。となると石がある場所は冒険者崩れだな。石工も中にはいるだろう」
「よし声を掛けるぞ」
300人を超える人間が集まった。
石のある場所に行きそりを作る。
丸太を横に置いて、石を載せたそりを引く。
油を丸太に塗るのも忘れない。
「いっせーのせっ」
号令をかけみんなで石の載ったそりを、引っ張ったり押したりする。
300人もいれば石ぐらいどうってことはない。
スラムの入口に石碑は建てられた。
石碑には裁判の経緯と施しに対する感謝の言葉を彫りこんだ。
次にリプレース卿が危機に陥ったら必ず助ける。
俺達の助力がどれだけのものとなるかは分からないが、集まれば何でもできる。
助けてくれた恩には報いよう。
Side:ケアレス・リード
リプレースと私に登城せよとの命が下った。
王の御前で跪く。
「こたびのことご苦労。後日褒美を取らそう」
そう言うと王は玉座から立ち上がり、私達のすぐそばきた。
「わしの苦労も考えろ。王都が火の海になるかと胃が痛んだぞ」
「申し訳ありません」
一応謝っておいた。
あとで胃に優しい食べ物を献上しよう。
「心中お察しします」
リプレースが畏まった。
「イムベザルめの悪行が明らかになったのは良い。だが、今回もシングルキー卿が絡んでいるのだろうな」
「灯りの魔道具の暴落がイムベザルの止めを刺しました」
王に事の次第を簡単に説明すると、王はしきりに頷いていた。
「魔道具の一大生産拠点にする計画を、後押しする行為では、叱りたくても叱れん。良くやったと言いたいが、言いたくない。シングルキー卿と敵対するようになったら、民衆はシングルキーに付くのだろうな」
「シングルキー卿の悪口は迂闊には言えませんな」
敵対するようになっては欲しくない。
忠義と友との板挟みにはなりたくないからな。
「私もそれは言えない」
友も同じらしい。
「くっ、誰が王か分からなくなってくる。SSSランクは王と言えるのだろうな。冒険者と魔道具で二つの王を持つ男か。恐ろしい奴だ。間違っても敵対したくないな」
「悪徳貴族にもそれが分かれば、よろしかったのですが」
「表に出るのを嫌うと見受けられました」
「大々的に王の力を持つと言って威嚇すれば、今回の件も一瞬で片付いたものを」
「そういうことが好きだとは思いません」
「同感です」
「威嚇したのでは、今回は横領を補填するぐらいで罪には問えなかったように思うぞ。結果としてみれば最良よな」
「はい、その通りだと愚考します」
「これからも同じようなことが起きると思われます」
「頭が痛い話だ」
「いっそのことあまり面倒を掛けるなよと打診してみては」
「友よ、誰がその役をやるのだ」
「よいアイデアだ。言い出したそちが伝えろ」
「かしこまりました」
「友よ、大丈夫か?」
「あの御仁はそんなことでは怒らないさ」
王は満足した顔で玉座に戻った。
今度は作戦を王にこっそりと伝えれば問題ないさ。
因果応報魔道具の存在が王に伝わってしまうが、私の所有してる物を葬ったとしても、複製が作られるに違いない。
しかし、因果応報魔道具の結果はどうなるか誰にも予測がつかないのでは。
悪行が跳ね返るとはいえ、どんな悪行をしたのかは本人しか知らない。
結果が予測できないように思う。
だが、まあ些細なことだ。
そういうのは王か大臣が考えれば良い。
伝令としての私の役目は、伝えることと、走ることだけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます