第90話 スイータリアとソル

Side:スイータリア


 マギナさんから、恋愛同盟の話を持ち掛けられた。

 これは、渡りに船。

 私の唯一の欠点の幼いって言うのが、同盟して時間稼ぎする間に解消される。


 もちろん賛成したわ。

 見張りに行って、シナグルお兄さんにばれた。


 また話し合いが持たれることになった。


「ドジをしたスイータリアを責められないぜ。いつか分かるさ。あたい達は密偵じゃないからな」


 ソルさんが私の味方をしてくれた。

 借りひとつと覚えておこう。


「こういう可能性も考えたわ。幸い、シナグルは機嫌を悪くしてない。店の中で見張りましょう。見張っている間はアタックは禁止。破ったら同盟を除名よ」


 マギナさんはこういう可能性を考えていたのね。

 なんだか不公平な感じね。


「世間話は構わないでしょ。だって店の中でぼーっとしているのは退屈なんだもん」


 そう私は言ってみた。

 もっとお話ししたいって気持ちが抑えられないんだもの。


「店の中でというと、見張りの時間決めが難しくなりますね」


 うん、店の中に長く居られる人が有利ね。

 私はどうなのかなぁ。

 パン作りがあるから。


「あたいとマギナは遠征に出る時もあるから、時間が取れない時もある。休養している時は一日中空いている」

「私が一番不利ですね。ギルドの仕事がありますから」

「やった、私が有利」


「いやスイータリアもパン作りと販売があるだろ。ピュアンナと変わりないはずだ」

「となりますと。遠征に出てない時は、私とスイータリアが見張りますか」


「それでいいな。あたいとマギナがいない時は二人で。遠征から帰ってきたら、あたいとマギナは優先してもらう」


 なんとか決まりそう。

 私を含めた4人が頷いた。


「私、人形の小道具が欲しい」


 シナグル工房で見張り中にねだってみた。


「なら、ヤルダーに頼んだらいい。魔力結晶で作ってくれるさ。魔力結晶は綺麗だぞ。マギナを通して頼めば、否はないはずだ」

「マギナさんに借りは作りたくないけど、どうしよう」

「パンを差し入れたら良い。かなり気に入っているらしいからな」

「そんなことで良いの?」

「魔力結晶はただみたいな物だからな。パンの方が貴重だ。それにヤルダーも喜ぶ」


「シナグルお兄さんは何か欲しい物はないの?」

「うーん、前掛け作って貰ったが、替えも欲しいな」

「分かった。4人で作る」


 私のテアの前掛けを着ける頻度が減りそう。

 でもあれは作り直したい。

 4人で、前掛けを4着作りましょう。


 今度はもっと良い物を作るわ。


Side:ソル・ソードマスター


 店内で見張ってたら神様のコインを貰った。

 なんか力が溢れてくるような。

 こんな貴重な物を銅貨の小遣いをあげるみたいに出すシナグルは大物だな。

 さすがあたいが惚れた男。


 しかしよ、この恋愛同盟ってのはまだるっこしい。

 もっとも、あたいはぐいぐい行き過ぎて嫌われるパターンだからな。

 今までも良いなと思った奴はいるが、ぐいぐい行くとなぜか逃げられる。

 妹弟がたくさんいて重たい女って思われているってこともあるけど。


 妹弟がいたからって言いたくない。

 その点シナグルはそういうのを気にしたふうがない。

 良い男だぜ。

 あたいに何かあったら、妹弟達の面倒を見てくれると言ってくれた。

 そんなことを言ってくれるのはシナグルだけだ。


 それにしても、あたいはシナグルにとってどの立ち位置にいるんだ。

 気になる。


「シナグル、あたいはどの立ち位置なんだ」


 店の中での見張りの時に聞いてみた。


「立ち位置ねぇ、友達だけど。いいや、恋人未満、友達以上かな」

「他の3人と比べてはどうだ」

「スイータリアはお子様で、恋愛感情はないな。ピュアンナはギルド職員だから不味い。癒着をギルドは嫌うからな。マギナはライバル感があるんだよな。ソルは頼れる姐さんかな」


 うーん、どうなんだ。

 あたいが一番なのか?

 なんか横一列みたいな感じだ。


 どう、考えたらいいのか分からないぜ。

 やめだ、やめ。

 うじうじ、考えるなんてあたいらしくない。


 頼れる姐さんてことは、弱い自分をシナグルの前でさらけ出したらいいのか。

 難しいぜ。

 強さを求めているからな。


 戦闘ではシナグルに負けるが、討伐の時に『きゃっ、怖いシナグル助けて』とかしなを作るなんて無理。

 絶対に無理。


「ソル、顔が赤いぞ」

「柄にもないことを考えちまったんだよ」

「そうか」


 酒を飲んでもあたいは強いからな。

 シナグルを酔い潰して、お姫様だっこする絵面しか浮かばない。

 これじゃ逆だ。


 恰好良いとか強さとかどう思うんだろう。

 シナグルの方がずっと強いから、たぶん何も感じないだろうな。


 男同士の付き合いみたいな感覚でいければなぁ。

 そこからある日突然、イベントが起こって異性を意識する。

 たしか恋愛小説だとそんなだな。


 おおっ、良い展開じゃねぇか。

 これだな。

 さっぱりとした付き合いだ。

 ところで異性を意識するイベントってどうやるんだ。

 キスだってしたが、そんな感じはなかった。


 あれ以上もそりゃ構わないが。

 ベッドに強引に連れ込もうとして、振り解かれたら、一生立ち直れない気がする。

 それにそんな行動で異性を意識するとは思えないぜ。

 難しい。


 誰かに相談したいが、ライバルの3人は無理だ。

 妹弟達も、相談したくない。

 困ったな。

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