第88話 毒物入り穀物事件

Side:シナグル・シングルキー


 冒険者ギルドも人使いが荒い。

 毒物入り穀物の事件を解決しろだって。

 何でも屋じゃないんだぞ。

 まあ、できるけど。

 ピュアンナが休みなので、付いて来た。

 こういう事件ならピュアンナに危険はないだろう。


「駄目だ。もう破産だ。毒に汚染されたら誰も買わない。汚染されてないのもきっと買わない」


 商業ギルドで悲嘆にくれている商人がいる。


「全部俺が買うよ。同じ被害にあった別の商人にも声を掛けろ」

「ありがたい。大急ぎで毒が広まらないようにしないと」


「慈悲深いですね」

「儲けた金はこういう所で使わないと」

「流石です。SSSランクの相応しいです」

「褒めるのは、まだまだこれからだ」


 毒で倒れた人を治療の魔道具で治すことにする。


「頑張って」


 毒で倒れた人を女性が看病している。


「どいていろ」

「あなたは?」


 治癒と解毒の魔道具で治す。


「SSSランクのモールスだ。ほら治したぞ」

「ほんとうね。穏やかに眠っている」

「急変するようだったら、冒険者ギルドか魔道具ギルドに伝言を寄越せ」


 全ての毒で倒れた人を治療して、商業ギルドに戻る。

 俺が穀物を買うと言った商人がいて俺を見つけると早足でやってきた。


「首を吊らなきゃならないところだった。感謝の言葉をどう伝えたら良いのか分からない。さすがSSSランクのモールス様だ。穀物がご入用の際は、グラインまで一報を。ギリギリまで値を下げて売る」

「その時は頼む」


 まずはこの街に入るある地方からきた穀物を全て俺が相場で買い上げた。

 毒のある穀物は無味無臭だった。

 毒感知で調べてから匂いを嗅いで、それから解毒して食ってみたから間違いない。

 解毒の魔道具が働いているようなので、穀物を全部解毒する。


 これだと対処療法にしかならない。

 なので、元から絶つ。

 『Closed-Circuit Television Camera』でいいか、監視カメラだ。

 歌は『ラーララーラ♪ララーララ♪ラーラーラー♪ラララ♪ラ♪ラーララ♪ラーラララララー♪ラーララーラ♪ララ♪ララーラ♪ラーララーラ♪ラララー♪ララ♪ラー♪、ラー♪ラ♪ララーララ♪ラ♪ララララー♪ララ♪ラララ♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪、ラーララーラ♪ララー♪ラーラー♪ラ♪ララーラ♪ララー♪』だな。

 かなり長いので作るのに苦労した。


 荷馬車にその魔道具を付けて起動する。


「この魔道具はギルドに欲しいですね。悪党を取り締まれます」

「100個ぐらい核石を卸すよ」

「ありがとうございます」


 そして、この街に届いた時に確かめた。

 道の途中、黒ずくめの男達が木の上で何かしているのが映っていた。

 こいつらだな。


 転移して全て善人にしてやった。

 だが口を割らない。

 自分達の行いは善だと信じ切っている。


「毒を食って苦しんだ人のことはどうなんだ」

「助けたのですか。ああ、死が最高の神への奉仕で善行なのに」

「狂っているな」

「守備兵に突き出したらどうですか」

「心から改心させたい」


 さあどうしよう。


 しょうがない、因果応報魔道具を使ってから、守備兵に突き出すとしよう。


「ちっ、私の名前で余計なことをしよって。そのほうらは因果応報により邪神に命を奉げることになった。そのほうらの命は無駄ではない。邪神の名のもとに殺された人々が生き返るのだ」


 どこからかそんな声が聞こえた。


「えっ、供物として奉げた者達を蘇らせるために我々の命を奪うと。話が違う……」


 全員死んでしまった。

 因果応報、恐るべし。

 しかし、邪神イコール悪でもないのか。

 さっきの声は迷惑そうだったな。


「邪神教徒はやり過ぎたのか」

「神の名を勝手に使って悪いことをしたのですから、この報いは当然かと」


 懐には作戦の名前が書かれた指示書があった。

 そして3匹の蛇のトライアングルもあった。

 前に水源を汚染した組織と同じらしい。


 この毒は3種類の毒を振りかけると猛毒になるらしい。

 そう言えば、男達の集団も3つあった。


 指示書にはアコニットの名前がある。

 こいつらの幹部の名前らしい。

 毒の名前は混沌毒。

 物騒な物を作りやがる。

 汚染された穀物は全て俺が買い取って、解毒した。


 解毒した穀物を捨てるのもなんだな。

 だけど俺が消費できる量でもない。

 他人に売るのも違うし、施すのだって気が引ける。

 安全だけど、不良品は不良品。

 肥料にするのが一番かな。


 どうしたものか考えていたら、マイストがやってきた。


「どうしてるか気になって覗きにきたが、流行っているみたいだな」

「おかげさまで流行っているよ。貴族からは相変わらずぼったくっている」

「マイストさん、こんにちは」


「ピュアンナがシナグルにべったりか」

「目が離せなくて」


「そうだな。トラブルにすぐに首を突っ込む。ところで何か考え事か?」

「毒に汚染された穀物を解毒したんだけど、食いきれない。肥料かなとも思ったが、もったいない気がして」

「食料以外の穀物の使い道か。肥料は不味いよな。解毒されたといえ毒が作用する可能性もある」

「確かに、土地が汚染されたら不味いですね」


「ああ、そうなんだ。困っている」

「こんな時こそお前さんのトンデモ魔道具だろう。換金魔道具ってのはどうか」

「売るのと一緒じゃないか。その場合、品物はどこに行くのだろう」

「分からなかったら聞けだ。トンデモ魔道具で聞いたら良い」


 ええと『answer the question』でいいか、『ララー♪ラーラ♪ラララ♪ララーラー♪ラ♪ララーラ♪、ラー♪ララララ♪ラ♪、ラーラーララー♪ラララー♪ラ♪ラララ♪ラー♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪』だな。


 本に核石と溜石を組み込んで、導線を付けた。


 使ってみると神が買いますと出た。

 だが、核石と溜石が粉々になって、導線が塵に。

 こんなのは初めてだ。

 やばい魔道具なんだと思う。

 下手な質問したら、爆発するかも知れない。

 よほどのことが無ければこの魔道具は作らない。


 しかし、神様が買い上げるのか。

 神なら毒ぐらいでは死なないな。

 心置きなく、売ってやろう。


 『sell』と、これでいいな。

 歌は『ラララ♪ラ♪ララーララ♪ララーララ♪』だな。


 木の輪切りに、核石と溜石をはめ込んで導線を繋ぐ。

 輪切りには神の姿と天秤と算盤の絵を彫り込んだ。


 答えを得る魔道具は作らないし、売る魔道具は誰にも貸さない。

 危険だからな。

 汚染された穀物は買った時の値段より安かった。

 神の癖にけち臭いな。

 相場で買ったんだぞ。

 まあ仕方ないか。

 訳あり品だからな。


 神の通貨は何か特別な気がする。

 分析の魔道具で見たら、金属の他に神力があった。

 じゃあ安くもないのか。

 すまんかった。


 持っていると良いことがありそうだから。

 身近な人に配ろう。


「ありがとうございました。奇跡を起こしてくれたのもあなたですよね。死人が生き返るなんてどんな代償を払ったのですか」


 毒で倒れた人達がお礼にきた。

 花束をたくさんもらった。

 感謝の気持ちらしい。


「代償は犯人が払った。そうしたのは俺だけど、それほど感謝する必要もない。花と気持ちだけを有難く貰っておくよ」

「流石、SSSランク仕事ですね。魔道具ギルドとして鼻が高い」


 SSSランクに値する品物は用意できないので、感謝の気持ちだけを現したとお礼に来た人が言っていた。

 感謝の気持ちを受け取ったよ。

 こういうのは金額じゃない。

 気持ちが大事なんだ


 マギナの所に寄る。


「あのトライアングルは邪神教のシンボルよ。邪教扱いされてて、見つけたら縛り首だと決まっているわ。ただ厄介な集団なので情報は公開されてない。国でも知っているのはごく一部」

「そんな奴らだったのか」

「魔道具ギルドと冒険者ギルドに警告を伝えておきます」


 きっと、またテロを起こすだろうな。

 因果応報の魔道具をそいつらの幹部に使いたいが、たぶん駄目だな。

 黒幕は最後まで出て来ないのが相場だ。

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