第83話 青空学校

Side:マギナ・トゥルース

 魔力結晶の池、スケートリンクは、浮浪児達が保守することになった。

 少しずつしか魔力結晶を作れないけど、みんなで保守すれば魔力は足りる。

 彼らが滑るのを横目に本を執筆した。


「おいおい、誰に断って商売してる」


 チンピラ達がやってきた。

 浮浪児達が反論しているけど、チンピラ達は喚き散らすだけ。

 まったく、度し難いわね。


 楽しんでいるんだから良いじゃない。

 みたら街の子が滑っている。

 どうやら浮浪児達がお金を取ったようね。


「ちょっと、この空き地はあなた達の持ち物なの」

「違うけどよ。ここは俺達の縄張りだ」


 めんどくさい。

 魔法でぶっ飛ばすのは簡単にできる。

 でも楽しくない。

 遊びに使うのはいいけど、弱い者いじめをするための魔法はない。

 かと言ってお金を払うのも違う。

 ここの土地の持ち主ならともかく。


 どう収めましょうか。


「分かったわ。じゃあこの土地は私が買う。自分の土地でどんな商売しようが構わないわよね」

「構うんだよ。遊びの類はショバ代を貰うことになっている」


 たしかに酒場や賭場や娼婦達はお金を払っている。


「ここは、俺達の魔法の訓練場だ。遊びじゃない」


 ヤルダーが声を上げた。

 そうね、出発点はそうだった。


「学校にまでショバ代を払えとは言わないわよね」

「どこからどう見ても遊びじゃないか」

「みんな見せてあげなさい」


 浮浪児達が魔力結晶を作る。


「兄貴、こいつら全員魔法使いらしいですぜ。不味くないですか」

「ビビることはない。ルール破りは他の組織も加勢して懲らしめてくれる」


 全くめんどくさい。

 ここが学校だと説得できたら良いのよね。


 浮浪児達が九九を唱え始めた。

 ヤルダーが教えたのね。


「この呪文は何はなんだ」

「掛け算の定石よ。ほらちゃんと勉強しているでしょ。楽しそうに学んで悪いってことはないわ。遊びに見えても勉強になっていることはあるわ」


「小父さん自分のお名前書ける?」

「うぐっ」


「私達は書けるよ。ギルドの依頼票も読める」

「それが何だって言うんだ」


「この空き地でみんな教わった」

「そうだ、そうだ。ここは建物はないが学校だ」

「学びの邪魔をするな」

「学ぶつもりのない奴は消えろ」


「兄貴どうしやす?」

「そこまで言うのなら俺達もここで学ぶ。たしかに自分の名前と家族の名前ぐらい書けないとな」

「お金。月謝」


 浮浪児が手を差し出した。


「くっ、払ってやれ」

「まいど」


 私はまた本の執筆に戻った。

 チンピラ達は子供と楽しく学んでる。

 浮浪児達の教え方は即物的だ。

 問題が出されて、正解するとふすまで作ったクッキーが貰える。

 これが美味しいのでしょう。

 魔力が練り込まれているに違いないから。


 ああ、シナグルに魔力パンのことを伝えないと。

 だが、あの男のことだからきっと知っているに違いない。

 だけど、会う口実はいくらあっても良い。


 本の執筆を限の良い所で終わらせ、シナグル工房に足を向けた。

 しかし、チンピラが学校で生徒ね。

 笑えるわ。

 しかも先生が浮浪児達。


 スケートリンクという名前の学校。

 きっと、他の街にも広がるわね。

 魔力結晶さえ作れば始められるから。

 スケート靴がなくても遊びに来る街の子はいるはず、最低限の食事が摂れれば、暮らしていける。

 そして、魔力結晶作りで魔法の腕が上がる。


 良いサイクルね。

 世界が魔法で満たされていくのを感じた。


「いらっしゃい」


 シナグルはいつも通り。


「スイータリアとテアのパンに魔力が入っているのを知ってた?」

「知ってるよ。二人には黙っておいてくれ。でないと能力が消えるかも知れないから」

「そうね。しばらく放っておきましょう」


 気づいたことがある。

 全てはこの男が源。

 まるで嵐の中心のよう。

 やさしさの嵐。


 チンピラだってこの男に会う前だったら、おそらく叩きのめしていた。

 そして、全ての裏の住人を皆殺しにしてたでしょうね。


「何か?」


 シナグルが気恥ずかしそうね。


「いいえ」

「あんまりじろじろ見るなよ」

「あなたって素敵な人ね」

「おう、ありがと」


 照れた顔も素敵。


「あなたを中心に優しさが広がっている気がする」

「そんなことはないさ。誰もが主人公だよ。みんな誰かに影響を与えている。良い影響を伝染して与えられたとしたら素晴らしいことだけどね」


「スケートリンクは学校となったわ。浮浪児達が生徒で先生。今の所いい方向に進んでる」

「間違った方向に進んでると思ったら、少し軌道を修正してやれば良い」

「そうね」


 何か優しい気分。

 胸のペンダントのオルゴール魔道具を起動する。

 優しい音色が流れた。


 ああ、シナグルといつも一緒にいられたら。

 そうしたら、何も要らないのに。

 そういう未来は遠くない気がする。

 でも、ライバルが多いのよ。

 ソルはぐいぐい行くし。

 ピュアンナは仕事で繋がっている。

 スイータリアは子供だけど油断ならないわ。

 他にもきっと沢山いるんでしょうね。


 でもなんとなく嫌な気分じゃない。

 太陽のような人だから、独占したいと考えるのが間違っているのよ。


 ソルとピュアンナとスイータリアと同盟の密約を交わさないと駄目かしら。

 近々そうしないと駄目ね。

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