第82話 スケートリンク

Side:マギナ・トゥルース


「ラーラララ♪ラララー♪ララーララ♪ララーララ♪ラ♪ラー♪とこれで良いな」


 シナグルが魔道具を作った。

 がわは普通の攻撃用魔道具だ。


「ええと」

「お待ちかねの魔力を凍らせる魔道具。凄い勢いで飛ぶから気をつけろよ」

「魔力結晶の魔弾というわけね。普通のバレットは液体状態の魔力だから、これは結構強いわね。ヤルダーが使いなさい」

「はい」


「お代は?」

「魔力が凍るという事実を報せてくれたからチャラだ。この技術は色々と使える」


 本当に欲のない男ね。

 でも、魔法使いに多いタイプだわ。

 知識をお金より重んじる。


 私もそうありたいわね。


「お師匠様、魔力結晶でベーゴマが作りたいです」

「確かにスキル無しの魔法なら、無属性が一番簡単。やってみなさい。結晶にするイメージはあるでしょう」

「はい。やってみます。むぐっ、ぐぬぬ、こうやって魔力結晶ベーゴマ。できた」


 ベーゴマが作りたいだなんてヤルダーもまだまだお子様ね。

 きっと宝石みたいなベーゴマを見せびらかすつもりね。


 ヤルダーが浮浪児達に魔力結晶のベーゴマ作りを教える。

 ヤルダーはお子様だと思っていたけど、ベーゴマを作りたかったのは浮浪児の興味を惹きたかったからね。

 なるほどね。

 宝石みたいなベーゴマが欲しくて浮浪児達は皆ぐぬぬと唸っている。

 息張っても駄目なのにね。


 見てて微笑ましい。

 でも何人かはキラキラした物を出せた。

 驚きね。

 この調子で訓練すれば、魔法使いになれるわ。


 ヤルダーも考えている。

 さすが私の弟子ね。


 もっと良い物を作ってあげよう。


「魔力結晶の池」


 浮浪児達が集まっている空き地に魔力結晶の池ができ上がった。

 氷みたいだけど冷たくない。

 ツルツルとして良く滑る。


「わぁ、面白い」


 浮浪児が魔力結晶の上で滑って遊ぶ。


「流石、お師匠様、俺にはこの規模の魔法展開はできません」

「ヤルダーもそのうちできるわよ」


 私は魔力結晶の上に乗ってみた。

 ツルツルして立ってられない。


「きゃ」


 シナグルがなぜかいて倒れそうな私を抱きとめてくれた。


「面白いことをやっているな。スケートリンクか」

「何か用があったの?」


「こら、お師匠様から離れろ」

「離すぞ」

「ちょっと、きゃあ」


 私は思いっ切りシナグルに抱き着いた。

 シナグルが温かい。

 心も温かくなるような気がする。


「用ってほどじゃないが、魔力結晶って何面体か気になってな」

「どうすれば分かるの」

「結晶を作る時に少しずつ大きくしたらいい」

「やってみる。魔力結晶」


 魔力結晶はハート型だった。


「こら、お師匠様から離れろ」

「雑念が入ったのかも」

「そうかもな」


 シナグルの顔は真っ赤。

 私の顔も赤いに違いない。


「何度言ったら、お師匠様から離れろ」


 離れるのがちょっと残念。

 シナグルが変な靴の絵を描いた。

 氷の上で滑るための靴らしい。


 北国では骨とかで作りそうな形ね。

 魔力結晶でその靴の刃を作ってみた。

 これって、本当に華麗に滑れるの。

 生まれたての小鹿みたいにしか歩けないんだけど。


「きゃっ」


 転んでしまった。

 シナグルは軽々と滑っている。

 恰好良い。

 なんだが分からないけど素敵。

 胸がキュンとする。


 シナグルがスケート靴というのを魔道具で作った。

 浮浪児達が滑り始めた、いいえ、転び始めた。

 でもみんな笑顔で楽しそう。


 私は何度も転んだ。

 お尻がきっと赤くなっているわね。

 でも童心に返った。


 ええと、2本足だから安定しないのよ。

 風の魔法で体を支えて、推進力も付け加える。

 見てみなさい。

 シナグルより華麗に滑れた。

 楽しい。


 しばらく魔法の補助で滑っていたら、補助なしでも滑れるようになった。

 コツを掴んだってことね。


 浮浪児達の何人かも華麗に滑っている。

 適応力が早いのね。


 考えたけど。

 魔法を広めるのに楽しいを付け加えるのはどうかしら。

 ええ、いい考えね。

 誰しも楽しい方が良いに決まっている。


 私は色とりどりの光を纏った。

 これを止まっている人から見たら、尾を引いて綺麗に見えるに違いない。


 もっと楽しくよ。

 風の魔法で体を支えて色々なポーズを作る。

 驚いてたことに浮浪児達は魔法の補助なしで、色んなポーズを取ってた。

 くっ、魔法が負けた気分。

 じゃあ、ジャンプよ。

 風魔法でふわりと浮いて、また魔力結晶の上に着地した。


 浮浪児達が真似をする。

 真似できないと思っていたら、真似られた。


「ふふふっ」


 楽しい。

 浮浪児達と競うのも楽しいけど、楽しみのために魔法を使っているのが楽しい。


 大技行くわよ。

 ジャンプして回転。


 目が回った。

 着地はできたけど大転倒。

 風のクッションがあるので痛くはなかったけど。


「失敗、失敗」


 浮浪児達は私の大技に歓声を上げた。

 気分が良い。


 下らないことに魔法を使うのって楽しい。

 魔法が楽しいのはヤルダーに今日教わった。

 弟子を取ることで成長できる面もあるのね。

 魔力結晶が溶けてだいぶ薄くなった。

 時間が経つと少しずつ溶けるのね。

 ここも氷と同じ。


 さあ、遊びの時間は終り、この成果を本に纏めましょう。

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