第84話 水源の毒

Side:シナグル・シングルキー

 冒険者ギルドに核石の鑑定に行った帰りに、依頼掲示板を見ると、水源が毒に侵されました、助けて下さいとある。

 銀貨5枚の依頼だ。

 水源の毒を浄化するんだったらかなり広範囲だ。

 とてもじゃないが銀貨5枚でなんとかなる依頼ではない。

 だが、困っているだろうなと窺える。


 気まぐれにその依頼を剥がした。

 ランク外だったのもある。

 でも、水源の汚染が人為的なものだったら。

 そうなると他でも起こる可能性がある。

 そんな気がした。


「それを受けるんですか。SSSランクのモールス様が」

「手続きしてくれ」

「分かりました」


 水源の近くの村まで、転移でひとっ飛び。

 なぜかソルが付いて来た。


「水、水をくれぇ」

「食い物か」

「食い物」

「何でも良い」

「ごはんまだ」

「父ちゃん腹減った」


 村人はみんなガリガリだった。

 飢饉一歩手前らしい。

 こういう悲惨な状況は嫌いだ。


「よせ、食ったら体を壊す。倉庫にあった食料まで汚染されたんだぞ」


 元気な奴もいるらしい。

 いたのは少年と青年のちょうど中間ぐらいの男だ。

 剣を持っているし筋肉は引き締まっている。

 そうとうやるな。

 レベルもそれなりに高いんだろうな。


「酷いな。あたいも飢饉の現場は見たことがあるがやるせない」

「解決しないとな」

「依頼を受けてくれた冒険者さん?」


 さっきの元気な奴に話掛けられた。


「モールスだ」

「一撃のソル」

「俺はソーダス。水源まで案内する」


 水源は酷いありさまだった。

 周囲の樹が全部枯れている。

 生き物の気配が微塵もしない。


「それにしても酷い匂いだ」


 水源の池を見ると、モンスターの腐った死骸が山積みになってた。

 モンスターがこんなことをするわけはない。

 モンスターの傷は、剣や魔法によるものだ。


 しかし、腐っただけではそんな凶悪な毒ガスは発生しない。

 カラクリがあるのか。


「近寄れないんだ。近寄ると気持ち悪くなって」

「ガスが発生しているのか。厄介だな」


 さて、どうするか。


「吹き飛ばしたりしないでくれよ。広範囲にこれが散らばったら森まで汚染されちまう」

「ああ、分かっている」

「これはあたいの出番じゃないね」


 解毒かな。

 よし、解毒の魔道具を作ろう。

 『detoxification』の解毒で良いだろう。


「ラーララ♪ラ♪ラー♪ラーラーラー♪ラーラララー♪ララ♪ラララーラ♪ララ♪ラーララーラ♪ララー♪ラー♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪」


 核石を作って柄杓に取り付けた、溜石と導線も付ける。

 我慢して近づき、柄杓を水に入れ、魔道具を起動。

 匂いがくさくなくなった。

 だが、それは一瞬だった。

 再び、くさい匂いが襲ってきて、毒ガスが復活した。


 解毒されない毒とは、嫌らしい仕掛けだ。


 腐敗をどうにかしないといけないらしい。

 『return to fresh state』でどうだ。

 新鮮な状態に戻せば文句ないだろう。


「ララーラ♪ラ♪ラー♪ラララー♪ララーラ♪ラーラ♪、ラー♪ラーラーラー♪、ラララーラ♪ララーラ♪ラ♪ラララ♪ララララ♪、ラララ♪ラー♪ララー♪ラー♪ラ♪とこれでどうだ」


 できた核石をさっきの柄杓の核石と取り換えた。

 池に柄杓を入れて魔道具を起動。

 モンスターの腐敗がなくなって、モンスターがたったいま死んだかのようになった。


 ソルと池に入りモンスターの死骸を次々に収納魔道具に入れる。

 全て片付いたので解毒を再び使う。

 今度は大丈夫みたいだ。


「さっきのモンスターの死骸だけど、村に寄付してくれないか。全部とは言わない。肉だけでいいんだけどよ」

「腐ってた肉だぞ」

「でも新鮮に見えた」

「時間を巻き戻したからな。まあそう見えるかもな」

「時空魔法で元に戻したのなら問題ないさ」

「まあそう言うなら」


 美味いとされているモンスターの死骸を案内された村で出してやった。

 村人の状態は酷かったみんなガリガリに痩せている。

 腐肉でも食える物なら食うという気持ちがわかる。


「いいか、スープにしとけ。肉は出汁を取ったら食うなよ。胃袋がびっくりするからな」

「そうする」


「麦はないのか?」

「全部毒に汚染された」

「よし解毒してやるよ」


 肉の出汁で麦がゆを作った。


「みんな汚染されていない食料だぞ。モールス様のおごりだ」

「めし、めしはどこだ」

「押すなよ。一撃を食らわすぞ。人数分はある」


 ソルがいてくれて助かった。

 麦がゆに群がる村人はまるで餓鬼のようだった。


「めしー!」


「慌てなくても何杯もお替りできる」

「美味い。極上の味だ」

「天国が見えた」

「そうだな、死に掛ったからな」

「うはー」

「もっとだ」

「美味しいね」

「おう、たんと食え」

「水が美味い」


 今にも死にそうだった村人が生気を取り戻したように見える。

 笑顔さえ溢れている。


「ありがとう。神様、モールス様」

「モールス様、万歳」

「助かったのか。もう大丈夫なのか」

「水源は元通りになったらしい」

「モールス様の像を作って祀るぞ」

「おう、手伝う」


「この笑顔を見れてほっとしたよ」

「あたいも、手伝った甲斐があったぜ」

「ありがとう」


 ソーダスからお礼を言われた。


「礼には及ばないさ。ところで犯人は?」

「ああ、怪しい奴らが何人か死んでいた。モンスターにやられたらしい」


 犯人の所持品を漁る。

 三角形の楽器のトライアングルの小さいのが出て来た。

 でも3匹の蛇で三角形が構成されている。


「見たことがないな」

「あたいも見た事ないな」


 マギナなら知っているかな。


 モンスターの名前が書かれた毒レシピというのが出て来た。

 池の毒は、絶滅不敗の毒という名前らしい。

 腐敗と不敗を掛けたのかな。

 ネーミングは別にいい。

 モンスターの死骸を集めると毒になるんだな。

 非常に危険な毒だ。

 この集団はまたやりそうな気がする。


 モンスターの死骸から採れた魔石をソルと分けた。

 かなりの収入になった。

 やつらの悪行を逆に利用してやって少し気が晴れた。

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