第79話 錆びない金属

Side:ワウンドーラ


「私も料理したい」

「じゃあ、芋の皮むきをお願いするかな」


 お母さんに申し出て料理の手伝い。

 芋はごつごつして手からはみ出る。

 包丁は大きくて何だか落としそう。

 くっ、刃が進まない。

 力を込めたら、ぐっと一気に進んで指に当たった。


「いたっ」

「切ったの。見せてごらんなさい。このぐらいなら軟膏を付けておけばいいわ」


 軟膏を塗ってリベンジ。

 剥こうとしたらお母さんに手を叩かれた。


「駄目。刃物の前に手を置かない。基本よ」

「くすん」

「泣くのならやめておきなさい。あなたにはまだ早いのね」


 包丁を取り上げられてしまった。


 うわーん。

 泣いていたら隣のエイタが来た。


「どうしたの?」

「皮むきが上手くできないの。ぐすん」

「それなら、お店のお兄さんがなんとかしてくれる。魔法使いなんだ」

「ほんとう」


 教わったお店に着いても悲しみが止まらない。

 それどころか酷くなった。

 お兄さんは私の話を聞いてくれて、ピーラーという道具を貸してくれた、火花が出る道具と引き換えに。


 そして、いよいよ、夕飯の支度の時間になった。


「お母さん、皮むきさせて。今度は泣かないから」

「あらあら、泣いたら駄目よ」

「うん」


 ピーラーで皮むきを始めた。

 うん、大丈夫。

 私にもできる。


「あら、変わった道具ね。手前に引くけど。柄を持って引くから、刃に指が当たらないってわけね。考えられているわ。高かったでしょう。これ、どうしたの?」

「お店のお兄さんが貸してくれた」

「なら、今度お礼しないとね」

「うん」


 皮むきは無事に終わった。

 不思議な棒をお礼に貸してあげた。

 あの棒は便利なので家の宝物。

 ピーラーを貸してくれているお礼なら、釣り合うってお母さんが言ってた。


 お母さんがうちの畑で採れた果物を持ってお礼に行ったら、ピーラーを買って来た。

 あの不思議な材質のピーラーとそっくりだけど、これは鉄でできている。

 でも切れ味は良い。

 前の物より良いかも。


 うちの宝物がひとつ増えた。

 だけど、ある時にピーラーを見たら錆が出てた。


「お母さん錆びてる」

「あらあら、最初のは錆びなかったから、てっきり錆びないと思ってたけど、錆落とししないとね」


 鍛冶屋に持って行って錆を落として貰った。

 使ったら綺麗に磨くと良いらしい。

 水気を切ることが重要みたい。

 ピーラーのお世話は私の担当になった。


 でも、うっかり、また錆させてしまった。


「うわーん、錆びてる。私の責任だぁ」

「あらあら、錆落とししてもらわないとね」

「ぐすん、前のは錆びなかったのに。私、お兄さんに聞いて来る」


 お店に行ってお兄さんの前に立つ。

 勇気を振り絞る。


「前のピーラーみたいに錆びないのでないと嫌」

「えっと、前のピーラーは錆びないのか。それは気づかなかったな」


 そう言うとお兄さんは確かめに行った。


「貸してくれるの」

「いや、駄目だ。これって錆びない鉄で、できているのか。そんなことって。ミスリルじゃないよな。そう言えばステンレスとか言ってたな。くそっ、最高の商品には程遠い。切れ味では勝てたのに」

「貸してくれないの。ぐすん」

「ああ、泣かないで、貸すから」


 あの不思議な材質でできたピーラーを借りた。

 でも借りたんじゃ自分の物じゃない。


「頂戴」

「不思議な物で価値があるものだったら交換してもいいよ。ピーラーは錆びるけど作れているから」

「約束よ」


 やった。

 不思議な物。

 畑から出て来たのね。

 畑の中を見て何かないか探す。


 キラリと光ったような気がする。

 掘ると出て来たのは、鉄のスプーンだった。

 でも錆びてない。

 ピーラーと同じく不思議な金属かな。


 店のお兄さんに持って行った。


「錆びないスプーンを見つけた」

「ええと、本当に錆びないの?」

「土の中にあったんだから」

「でも色は少しくすんでるな。銀みたいだけど、重さは銀ではないな。鉄ぐらいだ。うん、ステンレスかもね」

「駄目なの?」

「研究してみないと。そうだお嬢さん研究してみないか」

「私が?」

「ピーラーの秘密を解き明かすんだ」

「やるっ」

「オリジナル、ピーラーは貸しておくよ。ステンレスの謎が解けたら交換だ」


 ステンレスの謎。

 わくわくする。

 錆びないスプーンを手に考える。

 どうやって謎を解き明かそう。

 分かんない。


「お母さん、ピーラーの謎を解き明かすの。ステンレスっていう金属が謎なんだって」

「そう言えば、最初のピーラーの柄は宝石みたいだけど、違うのよね。これも謎ね。そういう時は本をたくさん読むのよ。そうすればいつか謎が解けるわ」


 文字を教わり始めた。

 自分の名前はもう書ける。

 家族の名前も。

 難しい本は読めないけど絵本なら読める。


 いつか、このステンレスのスプーンの謎を解くのよ。

 スプーンは穴を開けて、紐を通して首飾りにした。

 あまり恰好は良くないので毎日は着けない。

 でも宝物。

 普段は大事に仕舞っている。


 これを見ていつか謎を解き明かすんだと、本を読む。

 まだ、ステンレスの謎の端っこにも触れてない。


 でも確実に進んでいる気がする。

 待ってなさい。

 いつか必ず。


 オリジナルのピーラーは錆びない。

 本当に不思議。

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