第78話 ピーラー開発
Side:ネティブ
ピーラーの開発が難航している。
あの刃がなかなか難しいのだ。
花瓶の魔道具を起動して故郷の花を映し出す。
焦る心が落ち着いた。
店長に急かされているし、急かされてなくても、僕はピーラーは作りたい。
簡単に作れればいいのに、それこそ魔道具で。
おお、そういう魔道具が猛烈に欲しい。
部屋の中にあの扉が現れた。
ノックすると開いてるよと言われた。
シナグルの声だ。
入ると、工房はいつも通り。
シナグルもいる。
「いらっしゃい。ネティブだったか」
「はい。今回の不思議なものは大して不思議じゃないんだ」
「まあ見せてみろ」
「これだ」
「ライターか。うん、綿と紐とかの中身がないな。発火石もだいぶすり減っている。俺にくれるのか」
「ああ、完成品を見せてもらうが。それと作って欲しい魔道具はピーラーの刃を作る魔道具だ」
「まあ良いだろう。ラーラー♪ララー♪ラーララー♪ラ♪、ララー♪、ララーラーラ♪ラ♪ラ♪ララーララ♪ラ♪ララーラ♪、ラーラララ♪ララーララ♪ララー♪ラーララ♪ラ♪だな」
トンカチに核石と溜石と導線が付けられて、魔道具になった。
魔道具を使ってみる。
鉄材の形が変わってあの刃の形状になる。
ライターの完成品を見せてもらった。
あの小さい火花で、火が点いた。
これは凄い発明だ。
「ライターは作れないだろうな」
「まあな。こんなのでも技術が詰まっている。ライターオイルも手に入らないから諦めるんだな」
「だけど、歯車を回転して火花で火を点ける道具は作れる」
やってやるぞ。
ピーラーの次はそれだ。
なに、構造は簡単だ。
シナグルはライターを分解して部品を見せてくれた。
小さいばねなんかがある。
作るのは大変そうだ。
だが挑む甲斐がある。
ピーラーの刃を作る魔道具を持って部屋に帰った。
さっそく職人の所に行く。
「こんな魔道具は要らん」
複製を作って見せたら、職人にそう言われてピーラーの刃を作る魔道具は壊された。
「何で?」
「職人を馬鹿にしている魔道具だからだ。俺にピーラーの刃が作れないというのか」
「ごめん。そうだよね。簡単に作れるのは良いけど、仕事を馬鹿にする話だ」
「そうだ。便利だから良いってものじゃない」
「でもさっきの魔道具を作ったのも職人の手によるものだよ」
「ふん、勝負なら、面と向かって申し込むものだ。横からしゃしゃり出て仕事を奪うのは、職人としての信義にもとる」
「僕が悪かった。シナグルさんにちゃんと説明すれば良かった。説明したなら彼は仕事を奪うのは違うと言ったはずだ」
「今後も俺と付き合いたいなら、誠意を見せろ」
どんなと聞くほど僕も馬鹿じゃない。
「分かった」
さあ、どうしよう。
誠意?
謝れば済むってわけじゃないよね。
ごめんとは言ったし。
金を積むのも違う気がする。
金を積んだら、へそを曲げそうな気がするんだよな。
ドワーフなら酒だな。
だが、それだけで良いのか。
魔道具で失敗したなら、魔道具で取り返すべきだ。
さあ、何の魔道具を作ろう。
それと不思議な物だが、ワウンドーラにあの棒を借りよう。
見せるだけでもシナグルは納得してくれそうだ。
ワウンドーラに会いに行ったら、快くあの棒を貸してくれた。
ピーラーを凄く気に入っているそうだ。
壊れたライターで借りるのは悪いと思っていたらしい。
職人に誠意を見せる魔道具がほしい。
扉が現れた。
ノックしてから入る。
「魔道具が壊れたのか?」
「前に作ってもらったピーラーの刃を作る魔道具、あれが職人の怒りを買ってしまって」
経緯を説明した。
「なるほど、職人を笑顔にしろというわけだ。ある意味、俺への挑戦でもあるな。ララーララ♪ララー♪ラララ♪ラ♪ララーラ♪、ラーララーラ♪ラララー♪ラー♪ラー♪ラ♪ララーラ♪これで良いだろ」
ノミに核石と溜石と導線が付けられた。
「何の魔道具?」
「レーザーカッターだ。光で溶かして切るんだぞ。もちろん指だってスパッと切れる」
そして、部屋の奥から眼鏡を5つ出してきて渡された。
目がつぶれるからだそうだ。
眼鏡の予備がないと不便だろうから5つ出したと。
至れり尽くせりだな。
「物騒だな」
「ウォーターカッターとどっちがいいか迷ったがこっちにした」
「物騒だから使わないで渡すよ。そうだ今回の不思議な物はこれ。ナイフで削ると火花が出る棒」
「ファイヤースターターじゃないか」
「びっくりだ。これの正体が分かるのか」
「おおまかだけどな。たしかマグネシウムが入っている」
「マグネシウム? 聞いたことがないな」
「俺もこっちでは見たことはない」
「こっちでは?」
「失言だ、忘れてくれ。それ、俺にくれるのか」
シナグルは不思議な男だ。
まるで別の世界を知っているようだ。
「いや、借り物で返さないといけない」
「まあ別に欲しくない。ただファイヤースターターを仕入れるのはありだな。俺は魔道具屋だから積極的にはやらないが」
「仕入れられるのか?」
「神様に伝手があるとでも思っておけばいい」
「神様じゃ安易に頼れないな」
「そうだな。安易にはな」
まあいいか。
ドワーフ職人に渡す物は手に入れた。
気に入ってくれるか分からないが。
ワインのそこそこ良い物とレーザーカッターという魔道具を持って職人の元に行く。
ドワーフ職人は気難し気な顔で、ワインと魔道具を受け取った。
魔道具の説明をすると目が輝いたように見えた。
「誠意は確かに受け取った。いっちょやってみるか」
ノミの形のレーザーカッターが作りかけのピーラーの刃に当てられた。
光が出て、鉄材が赤く熱せられた。
火花が激しく散って、削られているのかどうか分からない。
光が止まった時にはピーラーの刃はできていた。
「素晴らしい魔道具だ。職は違うが一流の職人とお見受けしたぜ」
「SSSランクらしい。それにしてもよくあの光の中で魔道具を操作できるね」
「ああ、加工する物が固定されて、イメージが頭に浮かぶんだ。凄い魔道具だぞ。熱で溶かして加工するから、金属加工にもってこいだ」
なんとかピーラーができて良かった。
出来なかったら店長に何を言われるか分かったものじゃない。
ライターは店長には言わないで秘密裏に開発しよう。
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