第76話 エビルドラゴン

Side:シナグル・シングルキー


 冒険者ギルドから強制依頼で、今回のは深刻だ。

 通称エビルドラゴン。

 能力も判明している。

 魔法、攻撃、生命力、何でも吸い取る。

 広範囲でだ。

 近づけば近づくほどその吸引力は強くなる。

 突然変異のドラゴンだが、恐ろしい奴が生まれたものだ。


 現場に行くと、村人は生命力を吸い取られて幽鬼のようになっていた。

 避難する力さえ残ってない。

 救助隊も衰弱してしまうので、避難は済んでない。


 植物もみな萎れている。


 俺は攻撃魔道具を遠くから撃ってみた。

 火球は到達するまでに吸収されてしまった。

 俺はレベルが高いから、村人のように行動不能にはなったりしないが、近づくと俺でもやばい。

 厄介なモンスターだ。


 おまけに吸収のブレスを吐く事も確認されている。

 これに触れようものなら全て吸いつくされて塵になってしまう。


「お父さん、しっかり……」

「ああ……」

「ふう、もう駄目……」

「誰か……」

「助けて……」


 村人達が次々に倒れる。

 近い所の村はもうどうしようもないだろうな。

 諦めない心か。

 俺用に作ってある諦めない心魔道具。


 それを起動する。


 『それでもSSSランクのシナグルですか。おう、諦めるとは見損なったぜ。シナグルお兄さん頑張れ』とマギナとソルとスイータリアに言われた。

 諦めたり逃げたりしないよ。

 魔道具を使ったのは気合を入れただけだ。


 よし、『Effect inversion』、『ラ♪ラララーラ♪ラララーラ♪ラ♪ラーララーラ♪ラー♪、ララ♪ラーラ♪ララララー♪ラ♪ララーラ♪ラララ♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪』だな。

 がわは盾を使い魔道具を作った。

 効果は反転の盾。

 全ての効果を反転させる。

 魔道具を起動する。

 エビルドラゴンの吸収の力が放出になった。

 村人の顔色が良くなる。

 生命力を浴びたらしい。


「グギャャャ」


 エビルドラゴンが苦しんでいる。

 そりゃそうだ。

 吸収するはずが、放出されているんだからな。


 エビルドラゴンが大きく息を吸って、近づいて来る俺に向かって吸収のブレスを吐いた。

 当然効果は反転。

 ブレスは生命力放出のブレスとなった。

 萎れていた植物が水を吸ったように生き返る。

 死んでない村人は全て元気になっただろうな。


 エビルドラゴンは身をよじって苦しんでる。

 俺は反転の魔道具をエビルドラゴンに触れさせた。

 普通なら魔道具は魔力がなくなると機能を停止する。

 この反転の魔道具みたいに広範囲に効果を発揮する物は魔力消費も激しい。

 だが、エビルドラゴンが魔力を放出して補充してくれる。

 魔道具はエビルドラゴンが滅びるまで永久機関だ。


「父さんの仇」

「娘の仇」

「みんなの仇」


 村人達が農具を持ってエビルドラゴンに襲い掛かった。

 エビルドラゴンも当然反撃する。

 村人は爪で切り裂かれ、尻尾で薙ぎ払われた。

 だが、生命力が補充されているので、瞬く間に治ってしまう。


 それに俺も感じたが、なんか力がみなぎってくるんだよな。

 この無敵感、まるで某ゲームで☆を取ったみたいだ。


「いけるぞ」

「おう」

「ここでやらねば何時やる」


 俺は反転の魔道具を保持するのに気を付けた。

 核石と溜石と導線は盾の裏だ。

 扱いさえ間違わなければ大丈夫だ。

 エビルドラゴンは段々と弱っていった。


「ギャオン……」


 エビルドラゴンが断末魔の悲鳴を上げる。

 村人の攻撃の効果があったのか分からないが、討伐は成った。


「凄いレベルが上がっている」

「俺もだ」

「私も」


 まあ、攻撃に参加しているからな。

 彼らが注意を引いてたから、俺が魔道具を保持できたとも言える。


「SSSランクのモールス様万歳」

「俺もドラゴンスレイヤーだ」

「みんなの勝利だ」

「宴だ」

「よし、食料倉庫を開けよう」


 亡くなった人には可哀想だが。


「ええと、犠牲者ゼロ」

「はい、そうです。亡くなったと思われていた人も助かってます。かなり際どかったですが」


 ギルド職員からそう言われた。

 亡くなった人がいなくて何よりだ。


 宴会が始まった村人はみな笑顔。

 だって持病も全て治ったからな。

 健康状態は前より良くなった。


「さあ、飲め飲め」

「モールス様も一献どうです」

「頂くよ。美味い酒だな。力がみなぎるようだ」

「何だが美味くなっちまったんですよ」


 食べ物も妙に美味い。

 美味いのなら文句はないけど。


 攻撃に参加した人はCランク相当の戦闘力になったらしい。

 依頼が減ったとギルド職員がぼやいてた。


 そして、蓄えられていた食料はみなポーションみたいな効果を得た。

 畑はいくらか駄目になったが、これを売ったお金でお釣りがくるそうだ。

 俺の所にも討伐の依頼料の追加金がきた。

 経済的にも良くなったらしい。


 なんだか、全て良い方向で終わったらしい。

 こんなこともあるんだな。

 まさに反転だ。

 不幸が一転、幸福に。


 効果反転魔道具は、あまり使えない。

 熱くすると冷たくなったりするからだ。

 炎の魔法では氷になる。

 そうなると反転した意味はほとんどない。

 簡単に破られる魔道具だ。

 エビルドラゴンに炎のブレスがなくって良かったよ。


 反転の盾は村の祠に祀らわれた。

 ほとんど使えない魔道具だからな。

 それぐらいがちょうど良い。

 だが、魔道具で笑顔にするという目的は達した。

 使われなくなったとしても作った甲斐があったよ。

 きっと伝承が残って、再びエビルドラゴンが生まれた時には使われるんだろうな。

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