第19章 叱咤激励

第73話 一緒に逃げる

Side:ベイス

「ベイスさん、金は返したはず。もう勘弁して下さい」


 前に金を貸してた奴の所に行って、ドアを叩いても出ないんで、強引に蹴破った。


「取り立てにきたんじゃない」

「ああ、聞いてますよ。賞金首になったそうで」

「情報が早いな」

「金貸しが、ベイスさんが姿を見たら報せろ、金は弾むからと言ってました」


 おいおい、金貸しは何時、賞金稼ぎの真似事をするようになったんだ。

 そりゃあ、情報を報せただけで金は貰えるけどな。

 金を貸している奴に頼むなら別に労力は要らないが。

 それにしても酷いんじゃないか。

 庇ってくれとは言わないが、積極的に追い詰めることもない。

 俺ってそんなに同業者から恨まれてたか。

 金を貸した奴が他の所から借りてたら、仁義は通していたんだがな。


 ライバルを蹴落とすようなアコギなこともしてない。

 まっとうなクズの金貸しだったんだがな。


「いいか、俺は俺と会ったことは忘れろと言いたいが、別れたら俺のことをチクるんだろうな」

「まあ、正直に言えば」

「構わないぜ。情報料も貰えよ」

「えっ、良いんですか」

「俺は殺しはやらない。暴力も控えてる」

「そう言えば、俺の時の取り立ても、ベイスさんに殴られたことはないですね。他の金貸しだと何度も殴る蹴るされています」

「商品に傷付けてどうするんだって話だよ」

「何だ。優しい人だと勘違いしたじゃないですか」

「金を貸した奴を働けなくさせるのは効率が悪いだろ」

「まあそうですね」


「おい、デッター。ドアが壊れたふりで誤魔化そうたってそうはいかないぞ。おら、金返せ」


 ドアを強引にはめ込んだからな。

 さて、蹴破ってくるな。

 そして俺を見たら捕まえようとするはずだ。

 そいつは上手くない展開だ。


「【恫喝】、しゃらくせぇ!」


 そして、俺はドアを蹴破った。

 固まっている借金取りを尻目に逃げ出した。

 なぜかデッターも付いて来る。

 おいおい、付いて来るなよ。

 足手まといは要らないぜ。


 だが、恫喝スキルはしばらく使えない。

 デッターに足を引っ掛けて転ばすぐらいなら、逃げた方が良い。

 デッターは俺にぴったり付いて来た。

 しっしっ。

 手で合図したが俺と別方向には行かない。


 頼むよ、別々に逃げようぜ。

 その方が逃げ切れる確率が上がる。

 追っ手はひとりなんだから。


「どこまでついて来る気だ」

「なんとなく」


「お前はベイス! 捕まえて賞金を稼いでやる!」


 借金取りに俺のことがばれた。

 くそっ、こうなったら、しつこく追いかけられるな。

 デッターが、道路脇の廃材を崩して道を塞いだ。

 おっ、こいつ、なかなかやるな。

 しばらく一緒にいても良いか。


 借金取りの姿は見えなくなった。


「お前、俺が賞金首だって聞いたのはあいつだけか?」

「いいえ、5箇所から借りてますが全員からです」


 くっ、そんなに恨まれていたのか。

 金貸し全ては敵だと思った方がいいな。

 とりあえずどうするか。


「良い隠れ家があります」

「案内しろ」


 案内されたのはツリーハウス。

 ここなら、いざという時は飛び降りて逃げられる。

 少し高いがこれぐらいの所から飛び降りたことは何度もある。

 金を返すのが嫌で逃げる奴を追ってな。


「お前、これからどうするんだ」


 デッターに聞いてみた。


「奴隷落ちになりそうなので踏み倒して逃げたいですね」

「金貸しは全て敵だから、協力してやる」

「なんか囮にされそうな予感」

「当たり前だろ。自分の方が可愛い。他人の方が可愛いなんて奴は狂っている」

「そうですか」


「文句あるのか?」

「いいえ」


 さて、どうするかな。

 デッターには囮になってもらうとして、どういう作戦で行こう。

 きっと、金貸しは俺達の手配書をチンピラに配っているはずだ。

 俺だったらそうする。

 取り立てにはチンピラを使うから、伝手があって安く動かせられるからな。


 門番が買収されてたら、門から出られないってことになりそうだな。

 グッピの身分証明書は、親父さんを治療してやったスタッピッドの村で貰った。

 あの村の出身てことになっている。


 デッターとは門を出るまでだな。

 こいつを最大限、囮として使うには。

 あれだなあれしかない。


「デッター、お前どういう生い立ちだ」


 一応こいつのことを知っておこう。


「ある商会の3男坊なんですが、支店長を任されて、支店をひとつ潰しました。商会の名前は出せません。出すと兄貴に殺されるので」


 こいつ、駄目男だな。

 まあ借金漬けになるような奴は駄目な奴とか、運のない奴、それに馬鹿な奴が多い。

 借りる時に利息の計算をしない奴が多い。

 それで大抵は返済に行き詰る。

 まあ、こいつの駄目ぶりは分かった。


「それで、働かずに借金三昧か」

「いいえ、色んな仕事をしたんですよ。どれもなぜか上手くいかなくて」

「人任せにしたんじゃないだろうな」

「しました。だって、別の業種のノウハウなんてないんですよ。人を雇ってやるしかないじゃないですか」

「お前な。そんなやり方で上手くいくなら、みんなお大尽様だ」


 こいつ、本当に駄目男だ。


「ベイスさんよりましですよ。俺は女房を殺してない」

「言っておくが、俺は無実だ。暴力は嫌いなんだよ。暴力を金に換えるのは三流だ」


 さてと、こいつから、もっと話を聞き出さないとな。

 上手くいけば、最高の囮になるはずだ。

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