第72話 手打ち

Side:シナグル・シングルキー


 貴族の子女、ノブルフラウから手紙を貰った。

 戦いを止めて下さいと。

 困りごと相談室じゃないが、殺し屋を送り合っている2家の貴族があるらしい。

 宿敵という奴だな。

 ノス家とサウス家だ。


 ノブルフラウはノス家。

 だがこの2家の対立は根深い、100年以上前から続く。

 いがみ合っても仕方ないと考えないらしい。

 歩み寄るつもりなど微塵もない。

 殺し屋を送り合っているというのが救いがない。


 さて、どうするか。

 王を動かしても駄目だな。

 表面的には手打ちしたように装うだろう。

 だが裏ではということになる。

 善人にする魔道具は恐らく役に立たない。

 なぜかというと相手の家を滅ぼすのが正義だと思っているからだ。


 ノス家からお邪魔した。

 平和的ではなく、屋敷の門をぶち破ってだ。


「へへへっ、俺がノス家とサウス家を貰ってやる。異論があるなら掛かってこい。言っとくが殺し屋を送っても無駄だからな」


 俺はノス家の男、全員をぶちのめした。

 突然、俺の背中に短剣が突き刺さったように見えた。


「油断したな。護衛だって闇の者を雇ってる」

「そうか。痛くも痒くもないがな」


「短剣が折れてます。毒を塗ったのですが、効いてません」

「ノス家はみんな腰抜けか。殺し屋を使うことしかできないのか。みんな奴隷にしてやるよ。楽しみにしておけ」


 サウス家でも同じことを繰り返した。

 さて、第三の敵が現れたがどうするか。

 そうそう、現れた闇の者とやらは全て善人にしてやった。

 そいつらに善人になる魔道具を持たせる。

 これで感染していくはずだ。


 いまごろストライキしているだろ。

 護衛ぐらいはしているかな。


 もっと圧力を掛けるか。

 王を動かすか。

 どう書こう。

 ノス家とサウス家の敵となったシングルキーですと。

 貴族同士の戦いなのでお気になされずと。


 経済で叩くか。

 ノス家とサウス家の債権を全て買い取った。

 そりゃ2倍も金を積めばどの商人も債権を売る。

 これで首根っこを押さえた。


 殺し屋がたくさん送られて来たが、みんな善人にしてやった。

 さて、落ちをどうつけるか。

 王様に、ノス家とサウス家で縁組を多数やるように言った。

 がたがた言った両家には、がたがた言うなら債権を清算しろと迫った。

 王様は拒否するかと思ったが、面白いと言ってきた。

 いがみ合う貴族がいると内乱の火種になるから、王様にも得がある。

 おまけに、王が事態を解決したように見えるからだ。


 闇の者のストックが切れたらしい。

 そうだよな。

 善人になる魔道具を持たせているんだから、そのうち全員が善人になる。


 ノブルフラウと会ってお茶を飲む。


「婚姻の鐘が鳴りやみませんね。夫婦仲は最悪です。どうするんですか?」

「ラブラブにするさ」


 『fall in love with each other』この魔道具を作った。

 互いに好きになるはずだ。

 闇の者に持たせたから上手くやるだろう。


「憎まれますね」

「そうでもないだろ。そのうちほとぼりが冷めるさ。冷静に考えたら俺が長年の恨みを消し去ったんだからな」

「そうだと良いのですが。私の婚姻もサウス家の者と決まりそうです」

「嫌なら破談にしてやるが」

「いいえ、好きな殿方もおりませんし、相手は悪そうな方でもありません」


 さて、この関係がバラバラにならないようにあとひと工夫が必要だな。

 二つの領地の間の土地を俺が所有するように王命を出させた。

 俺はそこに壁を作った。

 もうこれで殺し屋はどうか知れないが、戦争は起きない。

 殺し屋も闇の者が善人にする魔道具を持っている限り平気だろう。


 荒療治だったが、概ね上手くいった。

 てな、事があったんだよ。


 マギナ、ソル、スイータリアに話して聞かせた。


「あなたの得は?」


 マギナがそう尋ねた。


「それな。善人にする魔道具とラブラブにさせる魔道具が壊れたら、俺が修理することになっている。ぼったくり価格でな」

「それじゃ債権の分は回収できないんじゃないか」

「債権は王に売った。買った時の値段でな。快く買ってくれたぞ」

「悪い顔してる」

「まあな。大人になると悪人にならないといけない時もある」


「脅したのね」

「王を脅すとはやる」

「悪い子だ。めっ」


「スイータリアに叱られてご破算だ」

「軽いのね」

「王なんてそんなもんだろ。本人も大して嫌がってないさ」


 ソルが分かったようなことを言う。

 そうだね。

 恨みを買わずにことを収めたのだから、あれぐらいの金額は軽い。


 たぶん両家の関係は限界だったと思う。

 俺が介入しなければ戦いになってただろう。

 それも泥沼のな。


 ラブラブにする魔道具を王が欲しがって、いくつか融通したのは秘密だ。

 きっと王族がベビーラッシュになるに違いない。

 あれの効果は気休めみたいなものだ。

 精神魔法の類は全部そう。

 たぶんだけど、脳内の電気信号と化学物質の分泌を操作しているのだと思う。

 意思が強ければ、効果はないはずだ。


 善人にする魔力ウイルスもそんな感じだ。

 ただこっちは魔力が化学物質の動作をすると思う。

 だからより強力だ。

 蛇足になった。


 さあ、王族への出産祝いを考えておこう。

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