第70話 味改善

Side:スイータリア

 今日も駄目。

 でもギルドに持っていける品はできた。

 私のメアリと、テアちゃんのフランが歌う。

 この曲を聞いて、冒険者が寄って来た。

 さあ、勝負。


 半分以上売れ残ったけど仕方ない。


 酵母のパンは甘くて苦い果物の香りがほのかにする。

 好き嫌いは別れそう。

 固定ファンが増えた。

 でもまだまだ。


 どうせ、果物の味がするなら。

 傷が付いて売り物にならない果物を格安でわけてもらって、それをパンに練り込む。

 果物の甘みが良い感じ。


 少し美味しくなったような気がする。

 売り始めに、私のメアリと、テアちゃんのフランが歌う。

 今日は歌が楽しそうに聞こえた。

 少しずつ、売れ行きが伸びた。


 でも露店のパンと比べるとまだまだ。

 さらにその先に行かないと。


 小麦粉を改善したい。

 ふすまというのが入っているから黒いらしい。


「テアちゃん、ふすまを取り除くのはどうしたら良いと思う」

「ふるいじゃ駄目よね。シナグルお兄さんに魔道具を作ってもらうしかないわね」


「ええとずるしないのなら、魔道具ギルドに依頼を出さないと」

「シナグルお兄さんじゃないのなら、金貨1枚は必要かも」

「ええと銅貨たくさんじゃ足りないわよね」

「そうね」

「でも出してみる」


 魔道具ギルドで依頼を出すことにした。


「小麦粉のふすまを取り除く魔道具がほしいの」

「依頼票は書けなさそうだから代筆しますね。代筆料、銅貨5枚頂きます」

「うん、それで」


 依頼票はできた。

 依頼金額は、銅貨97枚。

 仕入れのお金を残しておかないといけないから、これがギリギリ。


 依頼を受けてくれる人が現れるか見ていたら、シナグルお兄さんが依頼を手に取ってくれた。

 お兄さんは優しい。


「何で受けたの?」

「駆け出し冒険者を笑顔にしたいって一文に惹かれた。俺の目標とも一致する。これを受けなきゃ俺は魔道具職人じゃない」

「「ありがとう」」

「どうしたしましてだ」


 シナグル工房で神様のシーソーが使われる。


「ララーラー♪ララララ♪ラ♪ララー♪ラー♪、ラーラララ♪ララーラ♪ララー♪ラーラ♪、ララーラ♪ラ♪ラーラー♪ラーラーラー♪ララララー♪ララー♪ララーララ♪とくらぁ」


 シナグルお兄さんが歌のリズムに合わせて、神様のシーソーを操作する。

 できた核石はふるいに取り付けられた。

 そして溜石と導線が付けられる。


 さっそく、小麦粉をふるいの魔道具に掛ける。

 小麦粉が真っ白になった。

 黒い小麦粉は、捨てない。

 クッキーを作ることにする。

 味は良くないけど、サービスに配るのならちょうど良い。


 パンがまた一段、美味しくなった。


「テアちゃん、もう露店の品に勝ったと思うけど」

「ええ、楽勝よ」


 テアちゃんとハイタッチする。

 でも、あの揚げパンの味には負ける。

 あと少しが足りない。

 いいえ、あと3段階は足りない。

 今のパンは、Cランクといったところ。

 Sランクには程遠い。


 バターの量を増やしたいけど、どうにもならない。

 油を買うのは無理そうね。

 ここからは少しずつ腕を上げるしかないようね。

 とりあえず、パンの売れ残りはほとんどなくなった。


「スイータリア、お母さんがひとつアドバイスをするわ。捏ねが足りないのよ。力が足りないのは分かるけどね」

「捏ねるを改善ね」


 シナグルお兄さんに魔道具を依頼するしかないようね。

 余分なお金はない。

 何かして稼がないと。

 パンでは大きく稼げない。


「テアちゃん、捏ねる魔道具の依頼するために、お金が要る」

「うんうん。なら、答えは簡単よ。ふすまを取る魔道具をパン屋に貸し出したらいいのよ」

「えっ、私達が負けちゃう」

「そうだけど、一時的よ。捏ねる魔道具ができればまた勝てるわ。それにみんなが美味しいパンを食べれたら幸せじゃない」


 テアちゃんの言う通り。

 確かに勝ち負けは重要。

 でも他の人の作ったパンが人を笑顔にしたら、それはそれで私の勝ち。

 私が依頼して作ってもらった魔道具のおかげだから。

 そうよ、私の勝ちよ。


 パン屋に営業するのはお母さんがやってくれた。

 毎朝、パン屋に行って魔道具を使うのが日課になった。

 魔道具に魔力を充填させる以外は他人に使わせちゃ駄目よとお母さんが言ったから。


 少しずつだけど、魔道具貸し出しのお金が貯まっていく。

 お母さんに数えてもらったら銅貨が238枚貯まってた。


 よし、捏ねる魔道具を依頼しよう。

 そして、やっぱりシナグルお兄さんが依頼を受けてくれた。


「何で?」


 一応聞いてみる。


「近頃パンが美味くなったと街の噂だ。俺が作ったふすまを取る魔道具が活躍したらしいな。そのお礼だ。道具は使われてこそだ」


 シナグルお兄さんの親切が心に染みる。

 お母さんが親切は尊いと言ってたけど、これがそうね。

 でも私も格安で、魔道具を貸している。

 あれも親切よね。

 世の中は親切で回っている。

 いいえ、それはシナグルお兄さんの周りだけ。

 私はそれに乗っかっただけ。

 でも、それは嫌じゃない、

 気持ちが良い。


「ラーララー♪ラーラ♪ラ♪ララー♪ラーララ♪とこれで良い」


 決めた。

 依頼料の足りない分は、毎日少しずつシナグルお兄さんに返す。

 ずるはしない。

 親切は嬉しいけど、頼るばかりじゃ駄目。


 捏ねる核石と溜め石と導線は、麺棒に取り付けられた。

 パンの美味しさが1段上がった気がする。

 あともう少し。

 もう少しで、揚げパンと同じ場所に立てる。


「これじゃ駄目ね」


 テアちゃんが1段美味しくなったパンを食べて言った。

 たしかにまだ足りないけどそういう雰囲気じゃない。


「テアちゃんは何が不満なの?」

「愛情がないのよ。魔道具作った美味しさなんて、愛情には敵わないわ」


 難しいことを言われた。

 ええとどうしろと。

 魔道具を使うなってこと?

 そんなの無理よ。

 でも何となく言いたいことは分かる。

 お母さんが魔道具になったら嫌。

 同じように私と接してくれたとしても嫌。

 どうしたらいいの。

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