第18章 心を込めて作る

第69話 禁止された材料

Side:スイータリア


「スイータリア、あなたも、もう6歳。早い人なら見習いになっている歳。パンの製造は続けるの? それとも何かやりたい事でもあるの? お母さんはお嫁さんが目標でも反対しないけど」

「分かんない。でもパン作りは続けたい」

「じゃあ、このままでは駄目ね。材料をシナグルさんに頼っているんでしょ。それも格安というには無理な値段で」

「ええと、お母さんの言うことが分からない」

「いい、人を頼るのは良いのよ。でも頼り過ぎはいけない。特に商売はね。物には適正な価格というのがあるの」

「でもシナグルお兄さんは良いって」


「対等な取引じゃないってことよ。要するにずるってことね。スイータリアも誰がずるしたら、ずるい許せないって思うでしょ」

「うん」

「シナグルお兄さんに材料を出して貰うのは禁止。いいわね」

「ええっ」

「決定事項よ」


 お母さんにシナグルお兄さんに材料を貰うのを禁止されてしまった。

 横暴だと思うけど、どうにもならない。


「テアちゃん、どうしよう?」

「うん、確かにずるは嫌われる」

「銅貨1枚では美味しいパンは作れない」

「うん」


 とにかくやってみる。

 黒い小麦粉を練ってパンを作る。

 自分達で作ったら失敗してしまった。

 ぜんぜん膨らまない。


「失敗したら、自分達で食べなさい」


 お母さんからのきつい一言。


「テアちゃん、これから美味しくないパンが続くね」

「うん、仕方ないよ。料理屋の見習いは失敗作を食べるものだから」


 二人でパンを食べる。


「美味しくない」

「そうだね。お兄さん達に食べて貰おう」

「お母さん、それぐらいは良いよね」

「仕方ないわね。パンをカビさせるのも勿体ないから。いい失敗作のひとつは絶対に食べるのよ」

「うん」


 ギルドに来ている。


「お母さんから、シナグルお兄さんから材料を貰うのを禁止されちゃった」

「では、今日から揚げパンは発売停止ということでよろしいですか」


「そりゃないぜ。あれが楽しみだったのに」

「「ごめん」」

「スイータリアとテアが悪いわけじゃない」


 失敗作を銅貨1枚で売りたいけど、なぜか禁止されている。

 お母さんの言いつけを破ると後が怖い。

 きっと罰としてシナグル工房に行くことを禁止されてしまうわ。


 値段の問題は揚げてない普通のパンならギリギリで銅貨1枚で作れる。

 揚げなくて砂糖も使ってないパンじゃ露店で売っているのと変わりない。

 私達のパンじゃなくても別に良いって言われそう。


「テアちゃんどうしたら良いと思う?」

「修行よ。行き詰ったらとにかく剣を振る。ソルねぇがそう言ってた。私達だとパンを作りまくるしかないわね」

「うん、スイータリア頑張る」


 何日も作るけど、安定して美味いパンは作れない。

 上手くできたのでも、露店の物より数段味が落ちる。


 失敗作を食べるのがつらくなってきた。

 ギルドが買い上げてくれないので、とりあえずかなり上手くいったのをギルドの入口で立って売ったけど、売れ残った。

 売れ残りも食べないといけない。


 売れ残りはお父さんとお母さんも食べてくれる。

 お父さんは喜んでいるけど、お母さんの批評は厳しい。

 心が折れそう。

 もう、パン作りをやめようかな。

 なんで始めたかと言えば、シナグルお兄さんに前掛けを作るため。

 その目標は達成したわ。

 ギルドで売れないパンを眺める。

 私のメアリと、テアちゃんのフランが歌が悲しく聞こえる。


「しけた面だな。どれ俺がひとつ買ってやろう」

「ありがとう」

「嬢ちゃんたちは、良い装備をもらって高ランクになれた冒険者だな。その良い装備がなくなってメッキが剥がれた。ここで辞めたら何も残らない。続けろよ。つらいだろうがな」


 続けろと言ってくれたけど、どうしたら。


「どうしたら良いと思う」

「地力を上げるしかないだろう。地力を上げるには近道なんかない。みんなそうやって大人になっていくもんだ。がははは。俺はお嬢ちゃん達が作るパンは好きだな。心がこもっている。手作り感が良いんだな。田舎を思い出すよ」

「うん、やってみる」


 心を込めるのね。

 より丁寧に、より美味しく。

 試しに作ったパンを食べる。


「こんなのじゃ駄目! こんなのはお客様に出せない!」

「今日は荒れているわね」

「駄目なの、こんなのじゃ。心がこもっているとは言えない」

「職人らしくなってきたわね」


 進歩はしている。

 自分で食べているから分かる。

 でも、露店の味まで行かない。

 ああ、もう。

 どうしたら。

 作るしかないのね。

 気分転換にシナグル工房に行こう。


「「お邪魔します」」

「いらっしゃい」


「シナグルお兄さんはどういう気持ちで魔道具を作っているの?」

「ああ、世界中の人が魔道具で笑顔になることを祈って作ってる」

「何で魔道具を作ろうと思ったの?」

「魔道具に惹かれて、人生を救われたんだ。それでだな」


 私にそういう思いはない。

 前掛けをプレゼントしてから、何でパン作りを続けようかと思ったか思い出した。

 駆け出し冒険者が泣きながらパンを食べてくれたからだ。

 そういうパンを作りたい。

 シナグルお兄さんに頼るのは違うのね。

 シナグルお兄さんの功績を横取りしているようなもの。

 駆け出し冒険者が本来感謝すべきはシナグルお兄さん。

 それじゃ駄目なのね。


「猛烈にパンが作りたい気分。テアちゃん、やろう」

「私も作りたい気分」


 テアちゃんも思いは同じらしい。

 シナグルお兄さんに頼るのは良くないけど、アドバイスぐらいだったら良いわよね。


「シナグルお兄さん、パン作りで何か秘法はない」

「よし、天然酵母の作り方を教えてやろう」


 天然酵母の作り方を教わった。

 コツは沸騰したお湯で消毒ね。

 帰って、さっそく果物を漬ける。


 完成まで、だいたい1週間。

 毎日、何回か瓶を振ることを忘れないが作り方ね。


 酵母ができる間もパン作りはやる。

 なかなか、満足のいく物ができない。

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