第67話 重い袋

Side:ドリフト・マスタマリナー

 1ヶ月ほどの旅をして、母国の王都に辿り着いた。

 すぐさま王城のはせ参じた。


「マスタマリナー、船を失った罪は重いと言いたいが、まだ船は完全に失われておらん。船員を全員帰還させた手腕は見事だ。それに死の領域で使える魔道具の開発もな。船は必ず帰還させよ。それまで処罰はしないでおこう」


 王様がそうおっしゃった。


「ははっ」


 魔道具が使えるなら、船の帰還はかなり楽だ。

 収納魔道具に入れることを考えたが、容量の関係で無理。

 分割すればできなくもないが、それでは難破したのと変わりない。

 舵はドックに入れないと修理は無理だな。

 マストは何とか直るだろう。

 だが、この状態で予算を組んでくれとは言い出し難い。


 それに船が直っても、陸地に辿り着けるとは思えない。

 勤務先の漂流船でひとり考える。

 ふむ、わしひとりでなんとかせねばな。


 家屋敷を売るか。

 領地も爵位もだ。

 だが、泣く人間が出る。

 必死になって、みんなが幸せになる方法を探るだったな。


 時間ならある。

 漂流船では何もすることがない。


 腹が減った。

 食事に帰るか。


 家に帰った。


「戻ったぞ」

「あなた、副船長がみえてます」

「会おう」


 応接室に入ると日焼けがほとんどなくなった副船長がいた。


「船長、船を直すんですよね。手伝います」

「みんなに迷惑はかけられない。俺の意地だからな」

「船を失いたくない気持ちはみんな一緒です。これ、少ないですけど、使って下さい」


 ずっしり重い袋を渡された。

 中を見るとほとんどが銅貨、大銅貨、銀貨だった。

 言われなくてもどんな金か分かるカンパだな。

 みんなが身を削って作ってくれたお金だ。

 これを効率的に使うには?

 考えるのは船に戻ってからにしよう。


「大切に使う。みなにもよろしく言っておいてくれ」


 屋敷は売らないといけないか。

 だが息子夫婦と孫も住んでいる。

 口には出さないだろうが、きっと悲しむ。


 食事を終え船に戻る。

 そう言えば、この船との行き来する魔道具は時空魔道具だとか。

 国宝級らしい。

 シナグルは金貨1枚でこれを作ってくれた。

 ずっしりとした袋を持ち上げた。

 よし、この金で魔道具を作ってもらおう。


 船を航行させる魔道具が欲しいと念じたら扉が現れた。


「たびたびすまん」

「いらっしゃい。死の領域で使える魔道具は良かったよ。ダンジョンにもそういう場所があるんだってな。おかげで凄く儲かった」

「今回はこの金で、船が航行するように頼みたい」


 シナグルに袋を手渡した。

 わしの金も足してある。


「言わなくてもこれがどんな金か分かる。銅貨がこんなに沢山あるってことは、身を削ってかき集めたんだろう」

「そうだ」


「そういう依頼には応えないと。よし航行に必要な魔道具を作ってやろう。帆と舵と、それとジェット水流だな。ラララ♪ララー♪ララ♪ララーララ♪と、ララーラ♪ラララー♪ラーララ♪ラーララ♪ラ♪ララーラ♪と、ララーラーラー♪ラ♪ラー♪、ララーラー♪ララー♪ラー♪ラ♪ララーラ♪、ラララ♪ラー♪ララーラ♪ラ♪ララー♪ラーラー♪で良いだろう」


 いとも簡単に魔道具ができ上がった。

 この男、天才だな。

 いや神才だな。


 船に帰って帆の魔道具を起動する。

 目に見えない帆が風を受けて、船が加速した。

 舵の魔道具を使い進路を変える。

 ジェット水流の魔道具を使うと、船の加速がもはや高速船だ。


 これなら、進める。

 わし独りだけの航海が始まった。


 「ヘイホー♪ヘイホー♪船は進んで行く♪行先なら♪風に聞いてくれ♪港に着きゃ♪大騒ぎ♪……」


 新米に戻った気分だ。

 歌を歌いながら船を操る。

 わしは、いったいどこに向かっているんだろうな。


 新発明と名高きコンパスの使用許可が下りないものだろうか。

 漂流船だときっと駄目だな。

 シナグルに頼むか。

 金はもうない。


 考える時間ならある。

 金を作る方法か。

 死の領域で使える魔道具のアイデアは、金にすればよかった。

 だが、何か考えつくはずだ。


 死の領域はなぜ死の領域なのだろう。

 何が魔力を吸い込んでいる?


 ロープの先にバケツを付けて沈める。

 海底の泥を掬おうと思ったのだ。

 代わりに掛ったのは海藻。

 ふむ、こいつは食えるのか。

 毒に当たって死んだなどという間抜けな死に方はできない。


 海藻を手に取ると、魔力が吸われるのが分かる。

 こいつが魔力を吸い取っているのか。

 ならばこれを加工すれば、スキルを封じられる枷が作れるのでは。


 干してみたところ、魔力を吸わなくなった。

 生きてないと駄目なんだな。

 スキルを封じる枷は作りたくなかったから、ちょうど良い。


 そんな物を作れば、罪のない人が奴隷になりそうだからな。

 この海藻を駆逐すれば、死の領域をなくせるのか。

 だが、必要なのだろうな。

 自然というのはそういう物だ。

 無駄な物はない。


 持ち帰って研究させてみよう。

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