第64話 盗賊退治

Side:シナグル・シングルキー


 俺を拉致しようとしたヌイサンス侯爵は覚えているだろうか。

 ヌイサンス侯爵の裏工作員から手紙は来ていたが、ヌイサンス侯爵から直々に手紙が来た。

 善人になったことは知っているが、盗賊退治を頼まれるとはな。

 その盗賊は元はヌイサンス侯爵の手駒だったらしい。

 ヌイサンス侯爵が善人になったのを察知して逃げたようだ。


 大規模な山狩りをするぐらいなら、虐げていた人達に金を回したいとも書いてあった。

 税金はギリギリまで下げたようだ。

 余分な予算が取れないらしい。

 贅沢品は全て売り払ったが足りないと。


 元はと言えば俺がしでかしたことだ。

 ここで見捨てるのも違う。


 転移の魔道具で盗賊のアジトに出る。

 この場所は地図の魔道具で突き止めた。


「おい、いきなり人が現れたぞ」

「くそっ、時空魔法使いか」

「全属性は女だって聞いているぞ」

「とにかくやるぞ」


 遅いって。

 俺は手刀を作ると盗賊の手首に優しく落として、武器を落とさせた。

 そして柔道の投げ。


 みんなスキルを使う暇なく地面に転がった。

 善人になる魔道具を使う。


「俺は今までなんてことを」

「死んで詫びたい」

「自殺は悪だぞ。思いとどまれ」

「お頭、俺達はどうしたら」


「この凄腕の冒険者様に決めて貰おうと思う」


 俺が決めるのか。


「好きにしろ。では不人情だな。どうしたい、名前は?」

「へえ、あっしはブルータと言います。どうしたいかと言えば償いたい」

「裁判に掛かりたいのか」

「裁判に掛かれば、あっしらは縛り首ですぜ。死ねばそこで終わりだ。罪の分だけ償いたい」


「よし、善人にする魔道具を渡そう。これで悪人を狩れ。殺さないで善人を増やしていくんだ。そいつらも善行を行うように言い含めろ」

「へい。野郎ども聞いたか。俺達は今日から義賊だ。旅人や商人を盗賊やモンスターから守るぞ」

「「「「「「おう」」」」」」


 こいつらが善行をどう積もうが構わない。

 きっと世界は良い方向に転がるだろう。


Side:ブルータ


 善人になっちまった。

 まずは盗賊がでそうな場所の見回りだな。

 蛇の道は蛇よ。

 盗賊が襲撃する地点は俺達なら分かる。


「お頭、盗賊を見つけましたぜ」


 俺達の義賊としての、最初の仕事だぜ。


「ぬかるんじゃないぞ」

「「「「「「へい」」」」」」


 盗賊は街道の切り通しの所にいた。

 後ろががら空きだぜ。


「【恫喝】止まれ!!!。野郎ども掛かれ」


 俺の恫喝スキルで盗賊達の動きが止まった。

 こうなりゃこっちのもの。

 武器をもぎ取り無力化よ。

 そして、善人にする。


「俺達は……」

「生きて善行を積むんだ。分かったな」

「こうなったら人を守って死んでやる。でないと良心が痛んで辛くて仕方ない」


 いいことを聞いた。

 誰かを守って死ぬ。

 最高に良い死に様じゃないか。

 気に入ったぜ。

 守って死のう。


 わざと死ぬのは違う。

 死力を尽くして守って死ぬんだ。


 さあ、次の善行だ。

 モンスターがよく出る場所で、叫び声を聞いた。


「ガァァァ」


 あれはオーガか。

 オーガはAランクモンスター。

 今日が死ぬ日か。

 恐れはない。

 それどころか喜びで全身が震えてる。


「突撃!」


 現場に突撃する。

 商人の家族がオーガに襲われていた。


 護衛はみんな倒されている。


「【恫喝】止まれ!!!」


 駄目だ、オーガは止まらない。

 まあ、Aランクだからな。

 ここで退くという選択肢はない。


「野郎ども生きている人をここから逃がすんだ」

「へい」


「さあ掛かって来い」


 俺は大剣を構えた。

 オーガが拳を俺に向かって叩きつけたのだろう。

 速くて見えない。

 俺はそれを食らって、吹っ飛ばされた。

 そんなことだと思ったぜ。


 オーガはまだ動いている俺に向かってゆっくりと歩き始めた。


「ガァ?」


 踏んだなマキビシを。

 さて、俺の命が尽きるのが先か、毒が回るのが先か。

 俺は大剣を杖に立ち上がった。


 手下どもが一斉に掛かった。

 オーガは腕の一振りで手下を薙ぎ払った。


「へへっ、毒のナイフを刺してやったぜ……」

「おいしっかりしろ。くそっ、守って死にやがって羨ましい奴だ」


 手下の何人かが死んだ。

 俺もすぐに行くからよ。

 そう思っていたらオーガがふらついて倒れ込んだ。

 やったぜ。


 俺はオーガの首、目掛けて大剣を打ち込んだ。

 オーガの首から血が吹き出た。

 勝ったのか、あのオーガに。

 くそっ、生き残っちまったじゃないか。


「おじさん、痛いの。何で泣いているの」


 商人の子供が寄って来てそんなことを言った。

 生き残って死にたい気分だなんて言えない。


「勝てて嬉しいから泣いているのさ」

「守ってくれて、ありがと」


 子供の感謝の言葉で良心の痛みが緩和された気がする。

 そうか、善行してよかった。

 死に損なったが、これで良かった。


 死んだと思った手下は商人にポーションを掛けて貰って、みんな生きていた。

 そうだろ、まだ善行が足りてない。

 こんなんじゃ死ねない。


「野郎ども引き上げるぞ」


 盗賊を襲ってまた手下を増やそう。

 俺達は決死盗賊。

 死ぬまで誰かを守る。

 感謝の言葉を奪っていく盗賊だ。

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