第62話 直った核石

Side:チルル


「依頼を受けて良いぞ」


 親方から、そう言われた


「やった」

「言っておくが、まだ見習いだからな。これは課題だ。頑張れよ」


 言われなくても頑張る。

 行った魔道具ギルドは、お使いで行く時とは、景色が違って見えるような気がした。

 俺の職人としての初仕事だ。


 Fランクり掲示板を眺める。

 導線作り、紐を魔石の粉で染める作業だ。

 魔石を粉にするのが大変なだけで大した作業ではない。

 こんなのは魔道具職人でなくてもできる。

 今の俺に相応しい依頼があるはずだ。


 これなんか良さそうだ。

 火点けの魔道具。

 安い依頼だけど値段じゃない。

 依頼票を剥がす時に手が震えた。


 緊張しているのか、いや武者震いだ。

 頑張るぞ。


 面接も緊張したけど、上手くいったと自分でも思う。

 さて核石の仕入れだけど、親方から買うのは、ひよっこだと言っているようなもの。

 かと言って核石市で商人とやり合う自信はない。

 きっとぼったくられる。


 それで考えたのが普通の市だ。

 魔道具の中古品もたまにある。

 そこで格安の核石を探すんだ。


 市を見て回り、格安の核石売りますの看板を見つけた。


「点火の核石はある?」

「あるよ。銀貨1枚だ。ほら点くだろ」


 男は魔道具を起動してから、核石を外して渡してきた。

 銀貨1枚で核石を手に入れたぞ。


 がわを作るのは何度かやっているから、手慣れたものだ。

 大げさに言った。

 まだ慣れてない。

 出来は悪いが、まあまあな物ができ上がった。

 魔道具ギルドの受付に持って行くと、魔道具が起動しない。

 くそっ、騙された。

 悔しさのあまり泣くと、シナグル工房に持って行くことを勧められた。


 シナグルってあのSSSランクの。

 俺なんかの言うことを聞いてくれるかな。

 不安を胸にシナグル工房の前に立つ。

 ノックすると。


「開いてるよ」


 と声が掛かった。


「失礼します」


 そう言って、中に入る。

 これがSSSランク職人の工房。

 置いてある道具はどれも馴染みのある物ばかりだ。


 ただ、整理整頓と掃除がこれまでないぐらいされ尽くされている。

 整理整頓と掃除が基本。

 親方に言われていたのを思い出した。


 それに道具もどれもがピカピカに磨いてある。

 道具を見れば職人の腕が分かる。

 そういう話を思い出した。


「どんな品をお求めで?」

「あの、駆け出し魔道具職人のチルルと言います」

「何だ、同業者か」

「ピュアンナさんの紹介で来ました」

「それで何をしてほしい?」

「騙されて、壊れた核石を買わされました。悔しくて悔しくて」

「そうか。それはお前が間抜けだったと言いたいが、反省はしているようだな。助けてやろう。壊れた核石を出せ」


 シナグルは核石を出すと道具を当てて何やら試験した。


「確かに壊れている」

「便利な道具ですね」

「これかテスターだ。構造は簡単。溜石に導線を繋いで、その先に魔石を練り込んだ金属の端子を付けりゃ良い。俺が作ったのをひとつやろう」

「ありがとうございます」


「さてと。ここでラ♪とな。直ったぞ」


 シナグルは核石をクラッシャーに載せた。

 そして、タイミングを取って、一回、クラッシャーを操作した

 貰ったテスターで調べると確かに火が灯った。

 あんなに簡単に。

 いいか、腕の良い職人ほどいとも簡単に仕事すると親方が言ってたのを思い出した。

 素人が真似ようとすると出来ないとも。

 俺にも出来そうというのは簡単だけど、できないんだろうな。


 よし、点火の魔道具を組み立てるぞ。

 勤めている工房に帰って帰って、作業を始めた。

 角材を適当な長さに切り、窪みを作る。

 核石と溜石をはめ込む場所だ。


 中に空洞のある木を輪切りにして、さっき切った角材に固定する。

 輪を挟んで角材の反対側に棒を付ける。

 角材の角を丸める。

 何度か握って握り心地を確かめる。


 輪の中に引き金を付ける。

 核石と溜石をはめ込んだ。

 引き金と核石を導線で繋いで、溜石にも繋ぐ。


 できた。

 試してみる、棒の先に火が灯った。


 まあまあの出来だ。

 一流の職人の物とは比べ物にならないのが自分でも分かる。

 雑に作ったつもりはないけど、なぜか上手くできない。

 でもこれが今の俺の実力だ。


 精一杯作った。

 今はこれで良い。

 たぶん何年後かにこの魔道具を見ると恥ずかしくなるんだろうな。

 その時はがわを作り直そう。

 もちろんただで。

 それが俺の職人としての矜持だ。


「初依頼の品か?」

「親方、そうです」

「失敗したか?」

「はい、大失敗しました。それと完成した品物に満足してません」

「それでいい。それがお前の職人としての血肉になる。若い時の失敗はたくさんしとけ。恥ずかしがることはない。ただ開き直ったりするなよ。反省して改善点を考えるんだ。少しでもいい品を作るにはどうしたら良いかと考えるんだ」

「はい」


 俺の理想ができた。

 あのSSSランクのシナグルさんみたいになるんだ。

 さて、片付けるか。

 木屑を綺麗に掃除した。


 ついでだから他の部分も掃除する。

 綺麗になった。

 親方は俺が掃除しているのを見て何も言わない。

 するなとも、良くやったとも。

 きっと当たり前だと思っているのだろう。

 使った道具も綺麗にしないと。

 ノコギリなどの工具に付いた木屑も綺麗にして、油を少し塗る。

 錆がある所は磨いて綺麗にした。


「お前も成長しているんだな」


 親方がそう言った。

 ちぇっ、褒めてくれても良いのに。

 でも親方の顔を見ていると分かる。

 怒った顔ではない。

 喜んでいるような顔だ。

 この心を忘れないようにしないと。

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