第16章 失敗と成功

第61話 初めての魔道具

Side:ピュアンナ


 受付に座り微笑みを作る。

 さあ、今日はどんな依頼が来るかしら。


「あの、点火の魔道具をなるべく安く手に入れたいのですが」


 少女がそんな依頼を述べる。


「依頼ですね。依頼票に記入をお願いします」

「はい」


 少女が名前と点火の魔道具が欲しいと書き込む。

 そこで手が止まった。

 私の出番ね。


「セイラさん、料金でしたら、加工代銀貨2枚、掛かった材料は実費でとお書きください」

「はい。それで材料費はどれくらいに?」

「金貨1枚とちょっとですね」

「高いですね」


「ええ、核石が高いものですから」

「初めて買う魔道具なんです。料理人見習いをしているのですが、火打石だとなかなか火を起こせなくて」

「点火の魔道具のコストは、1回で大銅貨1枚ぐらいの計算になります」

「贅沢品ですね」


「ええ、でも便利です」

「決断しました。依頼して下さい。これぐらい普通に買えるようにならないと」

「依頼を受けた職人との面接はどうします」

「それはしてもらわないと」

「ではその旨をお書き下さい」

「できました」

「では依頼はFランク掲示板に、お貼り下さい」

「はい」


 依頼はFランクに貼られた。

 誰が受けるか受付業務をしながら見ていたら、駆け出し職人のチルルがそれを剥がして持って来た。

 大丈夫かしら。


 次の日、面接の場が設けられた。

 普通、面接には付き添いしないのだけど、何となく気になって一緒に話を聞く事にする。


「チルルです。俺に任せて下さい。駆け出しですが、親方には許可を貰ってます」

「ええと、今までどれぐらいの数の魔道具を全部おひとりで組み立てました?」

「初めてです。俺じゃ駄目ですか。でもどんな職人にも初めてはあります。熱意なら負けません」


「セイラさん、どうなさいます。ですが、熟練の職人が受けてくれるほどの製作費ではありません」

「私、料理人見習いで、賄い以外の料理は作ってません。いつもお客様に出せる日を夢見てます。チルルさんに熱意があるのも分かりますし、誰かの最初になれるなんて光栄です。なのでチルルさんに任せたい」

「やった。頑張ります」


 大丈夫かしら、不安ね。

 最初はみんな失敗する物だから。

 失敗して、セイラさんが魔道具に対して嫌な思いが残らないように、私が立ち会うべきかも。


 そして、3日後、納品となった。

 私は納品された魔道具を起動してみた。

 案の定、火は点かない。


「あれっおかしいな」

「一度も試さなかったの?」

「だって、今まで失敗したことがなかったから」

「親方が仕入れた核石ではそうでしょうね」


「そんな。壊れた核石をつかまされたのか」

「どこで手に入れたの」

「普通の市場。銀貨1枚だったし。目の前で火が灯ってたから、それから核石を外して渡したんだよ」

「すり替えられたのね。詐欺師がやる手口だわ。銀貨1枚無駄にしたわね」

「俺、依頼主に見せる顔がない」

「良い勉強になったと依頼主に詫びるのね。自分で補填するかはあなたに任せるけど」

「悔しい」


 チルル少年が泣いている。


「仕方ないわね。お姉さんが知恵を出してあげる。シナグル工房を訪ねてごらんなさい」

「うん。そうする」


 シナグルならチルル少年を可哀想に思ってきっと核石を直してあげるに違いない。

 そして、数時間後、再びチルル少年が納品にきた。


「今度こそ大丈夫。試したから」


 私が魔道具を手に取って確かめた。

 今度は大丈夫ね。


「お疲れ様。材料費はどれぐらい」

「核石の仕入れが銀貨1枚、核石の修理が銀貨1枚、溜石が大銅貨1枚で、導線が銅貨4枚」

「安く済んだわね」

「おまけにテスターとかいうのをシナグルさんに貰った。SSSランクは伊達じゃないって分かった。俺もああいう職人になりたい」


 上手く行って良かったわ。

 午後の3時、セイラが魔道具を受け取りにきた。


「まず言っておきますが核石は中古です。あと何回使えるか誰にも分かりません。もっとも運が悪いと新品でもすぐに壊れますが」

「そうですか」

「材料費が銀貨2枚と大銅貨1枚と銅貨4枚です。ギルドの手数料が大銅貨2枚と、銅貨2枚になります」

「わあ、安く済んで良かったです」

「壊れたらチルルさんの所に持って行くことをお薦めします」


 また、核石が壊れたらチルル少年はシナグルを頼るでしょう。

 そのうち仕事の技術を盗むかも知れない。

 核石を直せる職人が増えるのは大助かりよ。


 さて、始末を付けに行きましょうか。

 私は市に出掛けた。

 核石を格安で売りますの看板を見つけた。


「火点けの核石を下さい」

「はいよ。まず俺が試すよ」


 そう言って男は魔道具を起動した。

 確かに火は付いたけどね。

 そういう手口だから。

 そしてナイフを使い導線を切り、核石を取り外した。


 そして、核石を差し出して来る。


「試して良い」

「くそっ、お前、魔道具ギルドの職員か」

「ええ、みんな捕まえて」


 私が合図すると、頼んでおいた守備兵が取り押さえた。


「くっ、魔道具ギルドなんか滅びちまえ」

「お生憎様、今日も一人の魔道具ファンと、職人が生まれたわ。私がいる限り、滅ぼさせたりはしない」


 詐欺師は捕まった。

 これで、一件落着ね。

 詐欺師の捕まえた報奨金で、シナグルにケーキを奢ろうと思う。

 チルルの件のお礼をしないと。

 それは口実だけどね。

 そういう意味ではチルル少年は良い仕事をしたわ。

 さあ、シナグルをお茶に誘いましょう。

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