第54話 攻城戦

Side:マニーマイン


 さあ、攻城戦よ。

 まあ、オークが作るちっぽけな城だけど。

 オークの家は丸太を組み合わせて、屋根には枯れた葉っぱを載せている。

 この家を作ってた丸太をかき集めてバリケードにしたらしい。

 小賢しいわね。

 でも、私達の戦力では、有効な手かも。


「【火炎魔法】、火炎竜巻」


 スノットローズの魔法で戦いが始まった。

 バリケードの一角が焼け落ちる。

 私達は盾を持ってそのできた穴に殺到した。


「押せ、押せ!」


 バイオレッティが号令をかける。

 後ろでは下位の冒険者だった奴が、投石でけん制する。

 オークからも負けじと投石が返される。

 盾にガンガンと棍棒が当たる。

 冑に石が当たる。

 幸い、大きい怪我はしてない。

 打ち身だけだ。


「今だ引け!」


 オーク達は力を入れて押していたのが急になくなったので、できた穴からこっちへ出て来てしまった。

 おまけに体のバランスが崩れている。

 ここでやらないと。

 オークの喉に剣を突き入れる。

 そして袋叩きに。


 4匹のオークを仕留められた。

 オークの死骸を運搬係が引いていく。

 できた穴が塞がれた。

 ちっ、今日はここまでか。


 奴隷監督官から鞭が飛んでくるのが想像できる。

 投石で何人か負傷してる。

 どうしろと言うのよ。


 でも今日の攻撃を繰り返せば、数は削れる。

 安心してたのがいけなかったのか。

 帰り道、フォレストウルフに囲まれた。


 オークの死骸を横取りしようというわけね。

 ここで死骸を全部もっていかれようなものなら、鞭なんか飴だと思えるようなお仕置きが待っている。


 オークの死骸を囲んで円陣を組む。


「投石始め!」


 私達は投石を始めた。

 フォレストウルフには遠距離攻撃はないから、一方的に攻撃できる。


「キャイン」


 誰かが投げた石が1頭に当たった。

 当たり所が良くて、死んだみたい。

 幸先が良い。


「ウォォン!」


 だけど、フォレストウルフは一斉に襲い掛かってきた。

 盾で頭を押さえて剣で目を突く。

 1頭仕留めた。

 何人かが手足を噛まれてる。

 私は冷静に、そういうフォレストウルフに剣を突き入れた。

 動かないなら、簡単に仕留められる。


 噛まれた人は可哀想だけど、助かった。

 動いているフォレストウルフに攻撃はなかなか当たらないから。


「ワゥゥゥン!」


 やがてフォレストウルフは引き上げた。

 戦果が増えたのは喜ばしいけど、多数の怪我人が出た。

 無事なのは、私、バイオレッティ、サーカズムの3人だけ。


 軽く噛まれただけなら、今夜になって熱が出なければ平気でしょう。


「お前らよくやった。狼系のモンスターの毛皮は高く売れる」


 奴隷監督官から銅貨3枚を貰った。

 飴でも買えというわけね。

 生きて街に帰れたらだけどね。


 夕方近くになり恐れていたことが起こった。


「ふぅふぅ、はぁはぁ」

「スノットローズ、しっかりして」

「はぁはぁ」

「みんなも頑張って」


 噛まれた人達が熱を出したのだ。

 たぶんこのうちの何人かは死ぬ。


「明日の襲撃だがどうする? スノットローズは担いでいくか。魔法が使えると良いのだが」


 バイオレッティが非情な提案をする。


「無理よ」

「無理なのは分かっている」

「私が火炎剣で燃やすわ」

「それで攻撃は3人でか。1匹倒すのもかなりしんどいぞ」

「少し時間を頂戴。何か考える」

「あまり時間はないぞ」


 私はぼろ布を水で濡らして、熱を出した人の額に載せた。

 こんなことぐらいしかできない。

 ポーション作成の知識があれば、解熱剤が作れるのに。


 薬草採取は何度かやったから、薬草は採ったことがある。

 何もやらないよりまし。

 森で解熱剤の薬草を摘む。

 潰して煮るだけしかできない。


 効かないかも知れないけど、こんなことしかできない。


「スノットローズ、薬よ。飲んで」

「はぁはぁ」


 スノットローズに薬を飲ませる。

 効いた感触はない。


「また来る」

「はぁはぁ、待って」


 スノットローズに服を掴まれた。


「なに? 何か欲しい。といっても水ぐらいしかないけど」

「はぁはぁ、私が死んだら家族に伝えて。はぁはぁ、スノットローズは立派になれなかった。はぁはぁ、ごめんて」

「死ぬなんて縁起でもない。自分の口で家族に謝るのね」

「はぁはぁ、伝えてくれると言うまで服を放さない」

「仕方ないわね。遺言は覚えたけど、自分の口で伝えるのね」


 スノットローズが私の服を放す。

 救護所から出ようとすると、奴隷冒険者の仲間から服を掴まれた。


「はぁはぁ、俺の遺言も頼む。はぁはぁ、俺は……。よろしく頼む」

「一応覚えたけど、自分の口で伝えて」


「はぁはぁ、俺も頼む……。はぁふぅ、必ず伝えてくれ」

「一応覚えたけど」


 ああ、涙が出て来た。

 遺言の半分ぐらいは抜け落ちている。

 罪悪感と無力感で堪らない気持ちになる。


 それから全員の遺言を聞かされるはめになったけど、ほとんど遺言は覚えてない。

 なんて嫌な女。

 魂から絞り出すような言葉を覚えてあげられないなんて。


 辛い。

 そんなに親しい間柄じゃないけど、同じ境遇の仲間が死ぬのは許せない。


「【回復】、疲労回復」


 クールエルがスノットローズに疲労回復の魔法を使う。

 スノットローズの顔色が良くなったように思う。

 でも疲労回復じゃ高が知れている。


 私はテントを出た。

 ああ、神はいないの。

 私達は誰も助けてくれないの。

 たとえ私が対価を払ってもいいから、奴隷冒険者達を助けて。

 ふと、モールスという名前が浮かんだ。

 彼の魔道具があれば。


 目の前に扉が現れた。

 これは?

 幻?

 私は額に手を当てて熱がないか調べた。

 熱っぽくはないわね。

 フラフラもしてないし。


 表札には魔道具工房とだけある。


 なんなのか分からないけど、このままだと死を待つ以外にない。

 勝負よ。

 私は扉を開けた。

 中は表札の通りに工房でシナグルの姿が見える。


 モールスのことを考えたから願いが通じたの。

 いいえ、SSSランクの腕をもってすれば、神の所業と思われることも容易いのかも。


「ごめんなさい」


 私は土下座して謝罪した。

 ちゃんと謝っておきたかったからよ。

 仲間はどんな奴でも見棄てたら駄目。

 奴隷冒険者になって教わったひとつよ。

 シナグルをあの時に見棄てるべきじゃなかった。

 いまさら遅いわよね。


「謝罪ならいい。ここに来たってことは魔道具が欲しいんだろ」


 シナグルに断られても仕方ない。

 でも、仲間はなんとしてでも助ける。

 私の貞操を奉げても。

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