第55話 生きる希望

Side:マニーマイン

「聞いて私は最低の女。病気で、明日には死ぬかも知れないという仲間の遺言を、覚えることもできない。魂の叫びなのに」

「そうか。一度聞いた話を思い出す魔道具を作って欲しいのか?」


 そんなこともできるの。

 でも本当に欲しいのは。


「いいえ、治癒の魔道具が欲しいの。仲間をどうしても助けたい。何でもする」


 私は頭を地面に擦りつけて頼んだ。


「金はないのか」

「ある、銅貨3枚だけど」

「その銅貨3枚がどんな物かは知っている。奴隷冒険者になったんだってな。その銅貨3枚は生きる希望。一筋のな」

「ええ。これで受けてくれるの」

「ああ、十分だ。仲間のために身を削る。これに応えなくて、何に応える。さてやるぞ。ララーラーラ♪ラ♪ララーラ♪ラララーラ♪ラ♪ラーララーラ♪ラー♪、ラー♪ララーラ♪ラ♪ララー♪ラー♪ラーラー♪ラ♪ラーラ♪ラー♪、ラー♪ララララ♪ララー♪ラー♪、ラーラーラー♪ラーラ♪ララーララ♪ラーララーラー♪、ラララ♪ララーララ♪ララー♪ララララー♪ラ♪ラララ♪、ラーララーラ♪ララー♪ラーラ♪、ラララー♪ラララ♪ラ♪」


 シナグルが歌を歌って魔道具を操作する。

 核石が作られた。

 良い匂いが鼻をくすぐる。

 これは確かカレー。

 前に打ち上げで食べた。


「ぐぎゅる」


 腹が鳴った。


「仕方ない。食わせてやる」


 何かの穀物にカレーが掛けられた物をだされた。

 確かにこの見た目はカレーの匂い。

 穀物に合うのかしら、麦じゃないみたいだけど。

 スプーンで掬って食べる。


 うはっ、なんて複雑な味。

 前に食べたカレーと違う。

 前のはこれほど辛くなかった。

 それが穀物に絡んで、穀物の甘みとよく合う。

 美味しい。

 美味しいという言葉しか出ない。


 私は涙を流していた。


 生きる希望がひとつできた。

 これを食べるために頑張る。

 絶対に生き残って、ここに食べに来よう。


 食べている間に、シナグルが核石を木の十字架にはめ込んだ。

 そして溜石がはめ込まれて、導線が付けられる。


 食べ終わってから、それを渡された。

 満腹でベースキャンプに戻る。

 スノットローズに駆け寄って回復の魔道具を使うと、荒い息だったのが穏やかに変わった。


「バイオレッティ、回復の魔道具よ」

「どこで手に入れたかは聞かない。みんなを治すぞ」


 魔力を何度も充填して、全ての病人と怪我人を治した。

 奴隷監督官に魔道具がばれて取り上げられてしまった。


「奴隷の分際で、こんな物を隠し持っていたとはな。オークの宝か。鞭で叩くのは、無しにしてやろう」

「ありがとうございます」


 取り上げられても別に良いわ。

 銅貨3枚、飴玉ひとつと思えば。

 飴玉ならカレーライスという料理をたらふく食べた。

 それで充分というかお釣りが出るぐらい。


 奴隷監督官は自分の指に傷を付けた。

 そして魔道具を使ったが傷は治らない。

 あれっ、どうして。


「魔道具を壊したな。全員、鞭打ちだ」


 打ち身ぐらいは受け入れる。

 そのぐらいは仕方ない。


「ひぐぅ。御許しを」


 鎧なしで、散々叩かれた。

 わざと情けない声を出す。

 そうしないと夜通し続くから。


 そして。


「壊れているが木の祭具か。奴隷には希望が必要だろうな」


 そう言って奴隷監督官は治癒の魔道具を返してくれた。

 もしやと思って魔道具を使う。

 鞭で叩かれた痛みがなくなった。

 奴隷専用の魔道具というわけね。

 これさえあればまだ戦える。


 一人の死傷者も出さずにね。

 さあ、全員で奴隷契約期間を終えるわよ。

 次の日


「【火炎魔法】、火炎竜巻」


 バリケードの一角が焼け落ちる。

 今日は人数を多いので丸太を用意した。

 皆でそれを抱えて、突っ込む。

 オークは尖った丸太に刺さされた。


 何度も丸太を持って突撃する。

 オークに怯えの色が見える。

 そして、穴を守るオークはいなくなった。

 さあ、蹂躙戦よ。

 半分ぐらいのオークは逃げ出した。


 残ったオークも戦意は乏しい。

 そして、残すはオークキングになった。

 オークキングはAランク。

 私達にやれるかしら。


 オークキングは大きい建物の中にひとり大剣を持って座っているが外から見える。

 私達が近寄ると、大剣を担いでのっそりと出て来た。


「ウォォォ」


 オークキングが雄叫びを上げる。


「うぉぉぉ」


 バイオレッティが雄叫びを上げ突っ込んだ。

 一撃で両断された。

 今日の私達は一味違うわよ。

 治癒の魔道具を使うと、バイオレッティの上半身と下半身が繋がって、傷は癒えた。

 エリクサー並みね。


 バイオレッティがオークキングに向かってニヤリと笑う。

 オークキングに怯えの色がみえる。

 さあ、死なない奴隷冒険者を見せてあげるわ。

 何度も斬られ、治されて、戦いは徐々に私達の有利になった。

 こっちの傷は治るのにオークキングはそうじゃない。

 しかもオークキングは、両断するような攻撃をスキルに頼っていたらしい。

 そういう攻撃も魔力切れで、できなくなった。


「豚野郎、死ね。【身体強化】【鋭刃】」

「【俊足】からの【斬撃】止めは【火炎剣】」

「うらぁ【盾撃】」

「【火炎魔法】、火炎竜巻」


 オークキングはタコ殴りで死んだ。

 オークのもはや砦となった場所を1日で攻略できた。

 ご褒美に銅貨3枚を貰った。

 これでまた、カレーライスを食べに行ける。

 ただ、魔道具を注文しないと、シナグルがへそを曲げるかも知れない。

 魔道具が必要になった時が楽しみ。


「マニーマイン、楽しそうだな」

「ええ、銅貨3枚の使い道がね。これ以上は秘密よ」

「奴隷にも楽しみがないとな。俺は街に立ち寄ったら、肉の串焼きを食う。想像すると唾が止まらない」

「私もよ」


 本当に楽しみ。

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