第14章 オーク集落討伐

第53話 奴隷冒険者

Side:マニーマイン


「何やってるの。死にたいの!」


 私は腰が引けている元冒険者に大声で活を入れた。

 くっ、それにしてもオークの数が多過ぎる。

 オークの大規模集落に、奴隷冒険者20名で挑もうってのが間違いなのよ。

 私達を買った人が仕事を取ってきたのだから、逆らえない。

 この絶対服従の魔法契約が忌々しい。


 奴隷に落ちる冒険者は大抵がDかCランク。

 ここで伸びが頭打ちになることが多い。

 そして、上へと挑戦して失敗する。


 一度失敗すると苦しくなって、装備とかに金が回らなくなる。

 そうすると失敗続きになる。

 ランクが落ちるのが許容できないと、もう転落人生ね。


 私達もAランクに行ったけど似たようなもの。

 おそらくシナグルが支援してなくても奴隷落ちになったでしょうね。

 私達の才能ではCランクが良い所なのよ。


 オークを切り裂き、負傷した奴隷冒険者を急ごしらえの救護所に運ぶ。


「クールエル。魔力は?」

「回復職はみんな魔力が尽きてるわ」

「不味いわね。戦線を維持できない」


 あー、ここで死ぬの。

 撤退は許されてない。


 私は魔力を節約するために極力スキルは使わない。

 でないと、切り札がなくなるから。

 いざという時に使えないんじゃ意味がないわ。


 仕方ない。

 私は前線に出た。


「マニーマイン。遅いぞ」


 バイオレッティが文句を垂れる。


「ちょっと休憩してたぐらいで目くじら立てないで」


 盾職のサーカズムがおんぼろの木の盾でオークの攻撃を受ける。

 私とバイオレッティは、なまくらな剣をオークの喉に突き刺した。

 効率良くいかないと。

 急所を狙っていくのは基本。

 ここに来てだいぶ鍛えられた感がある。

 無駄な動きをしないっていうのかな。

 連戦に耐える戦い方を学べた気がする。


 喉に剣を突き刺されたオークは血を吹いた。

 そしてヒューヒューと苦しそうに息をして倒れた。


 私達より下位だった奴隷冒険者が止めを刺す。


 次のオークに私は上段に構え飛び上がって、オークの額を強打した。

 オークが脳震盪を起こしてふらつく。

 バイオレッティが採取ナイフに持ち替え、足の腱を切った。

 採取ナイフは良く切れる物が支給されている。

 素材の価格が下がると、私達のマスターが損をするから。


 損得を考えるならもっと良い武器を支給しなさいよと思うけど、意見など出来ない。

 意見などしようものなら、壮絶なお仕置きを食らう。

 言葉にしたくないようなものをね。


 くっ、もう駄目。

 息が続かない。

 バイオレッティも荒い息を吐いて、肩が上下している。


「はぁはぁ、一時撤退よ」


 大声すら上げられない。

 私達はAランクだったこともあって奴隷冒険者の中では一目置かれている。

 大抵の提案には従ってくれる。

 だけど、リーダーはつらい。

 先頭に立って戦わないといけないからだ。


 下位だった奴隷冒険者が倒したオークを引きずって、ベースキャンプに戻る。

 彼らを護衛しないと。


 狼系のモンスターが出るのよ。

 このハイエナ野郎と罵ってもモンスターは聞く耳持たない。


 鉛のような体を引きずるように歩いて進む。

 今日の戦果はオークが6匹。


 この集落にはオークは300匹はいる。

 ヒットアンドアウェイするしか手はない。

 マギナぐらい優秀な魔法使いがいれば別だけど。

 あのクラスにはどうやってもなれない。


 スノットローズはベースキャンプで地図スキルを使う仕事に付いている。

 くっ、地図スキルが羨ましいなんて日がくるとはね。


「今日の体たらくは何だ」


 奴隷監督官がそう言って鞭を鳴らした。

 ここで口答えすると酷い目に遭う。


「すみません」


 鞭で叩かれた。

 叩かれる場所を防具の上にいくように動く。

 この技術も役に立つ。

 オークの攻撃を受ける時に、防具で受ける。

 こうすれば怪我が少ない。


 正式な剣を教わった人はこういうのは基本らしい。

 私は農民出だから仕方ない。


 何でも利用しないとここでは生き残れない。

 奴隷監督官は息が切れるまで、私達を叩いた。


「はぁはぁ、明日はもっとオークを狩って来い。良いな!」

「はい」


 私達はいやいや元気に返答した。

 救護所の様子を見る。

 5人も怪我人がいて痛みに呻いてる。

 明日、朝までにこの5人を復帰させられるかしら。

 オークの武器は棍棒が多い。

 なので骨折が多いの。

 骨折を治す回復魔法は、魔力がたくさん要る。

 人数が減ると明日がきつい。

 負の連鎖になると、全滅の未来しかない。


「不味いわね」


 みんなで集まって愚痴を言い合う。


「そんなことは分かっている。元Fランクの奴が何人死のうが、マスターは気にしない。借金の立て替え額も少ないからな」


 バイオレッティの言うことはもっともだけど。


「弱い奴は死ぬ。奴隷でない冒険者も同じだ」


 サーカズムは冷たいけど、助け合わないと、仲間を助けることが私達の得にもなる。


「もう、なんでポーションを支給しないのよ」


 クールエルも分かっているはず、コストが掛かるからよ。


「地図スキルで見たけど、オークは守りを固めたわ。一塊になっている。バリケードも築いているわ」


 攻城戦もどきか。

 厳しいわね。

 まず相手を殺しても死骸を持って帰れない。

 バリケードの強度はどれくらいかしら。


「スノットローズ、明日、少し前線に出れない? 魔法でバリケードを一撃してほしい」

「まあそれが無難だな」

「俺も賛成だ」


 前衛はみんな賛成ね。


「それぐらいはできると思う」


 作戦は決まった。

 後は何とかやるだけ。

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