第43話 没落のメヌエット

Side:マニーマイン


 収納魔道具が壊れて稼げなくなった。

 ううん、それだけじゃない。

 攻撃用魔道具がないせいで討伐が失敗続き。


 モールス様から伝言があった。

 『全てに心を込めろ。物だって魂があるんだ。モールス』とある。

 どういう意味よ。

 何を言っているの。

 物に魂があるなんて馬鹿じゃないの。

 物に魂なんてない。


「オーガ討伐をやる。これを成功させないと借金取りが来ることになる」


 バイオレッティの言葉にみんな無言で頷いた。

 保証人になっているから逃げられない。


 オーガはAランク。

 以前の私達だったら、問題なかった。

 輸送してくれる、Cランク冒険者達を後ろに引き連れて、私達はオーガのいる森に入った。


「【地図】、オーガはこの先よ」

「よし、この一戦に勝ってこれから連勝街道だ」


 みんな無言で頷いた。

 対峙したオーガは大きく見えた。

 山ほどあるようにさえ見える。


「【身体強化】【鋭刃】」

「【俊足】」

「【挑発】」


 始まった。

 私とバイオレッティが切り込む。

 サーカズムの挑発は成功。

 だけど、オーガのパンチでサーカズムは飛ばされた。

 ちらっと目をやったけど、大丈夫そう。


「【斬撃】」


 私とバイオレッティの剣はオーガの硬い皮膚に阻まれた。

 こんなに硬かったっけ。


「【火炎魔法】、火炎竜巻」


 スノットローズの魔法が炸裂。

 だけどオーガのダメージはほとんどない。

 こんな強敵のはずない。

 きっとこのオーガは変異種よ。


 バイオレッティがオーガに蹴られて転がっていく。


「くっ、【火炎剣】」


 一瞬意識がなくなった。

 殴られたんだと気づいたのは、地面の冷たさを感じてから。


「みちゃいられないな」


 そう言って輸送隊の冒険者が荷台にバイオレッティを載せる。

 私も、サーカズムも載せられた。

 そして、輸送隊の冒険者が目潰しをオーガの顔面に投げる。

 オーガは目潰しを手で払いのけた。


 荷車が戦場から遠ざかっていく。

 オーガは追って来なかった。

 ああ、失敗してしまった。

 輸送隊に払うお金を考えたら頭が痛い。


 ギルドの救護所に私達は寝かされた。

 全身が痛い。

 勿体なくて打ち身程度ではポーションを使えない。


「やめろ!」


 バイオレッティが飛び起きた。


「オーガの夢でも見たの。安心してギルドだから」

「シナグルに復讐される夢を見てた。俺達は物乞いになって、そこにシナグルが通りかかるんだ。でシナグルがこいつら借金取りから逃げている、捕まえるぞと言って捕まるんだ。そして、奴隷の焼き印を押される所で目が覚めた」

「正夢かもね。奴隷落ちはかなり現実味がある話だわ」


「次はグリフォンをやる。どんな所から借金してでも準備を整える」

「駄目よ。ランクを下げたモンスターを討伐するの。素材はみんなで担いで帰るのよ」

「くっ、オークだ。Cランクの中では一番美味しい」

「ええ、それで行きましょう」


 野営の時、虫殺しの魔道具が壊れているのに気づいた。

 痒い。

 眠れないまま朝を迎えた。

 嫌な予感がするけど、どうしようもない。



「【身体強化】【鋭刃】」


 オークとの戦闘が始まった。


「【俊足】からの【斬撃】止めは【火炎剣】」


 私の剣はオークに当たらなかった。


「馬鹿、焦り過ぎだ。【挑発】」


 サーカズムの盾にオークの棍棒が叩き込まれる。

 サーカズムは盾を飛ばされた。


 バイオレッティがオークに斬り掛かる。

 棍棒に受け止められ、オークの蹴りでバイオレッティは地面に転がった。


「【火炎魔法】、火炎竜巻」


 スノットローズの魔法援護が来ない。

 魔法を失敗したようね。

 何やっているの。


 クールエルがバイオレッティにポーションを飲ませる。


「撤退だ。睡眠不足のコンディションでやってられるか」


 そうね。

 今回は体調が悪い。

 私達は撤退した。

 借金の期限が刻一刻と迫る。


 それからCランクの依頼を受けるもことごとく失敗した。

 分かっている。

 野営で眠れないし、宿のランクを落としたら、街でも虫に悩まされて眠れない。


「武器を売ろう」

「バイオレッティ、なに馬鹿なことを言っているの。そうしたら依頼を受けられない」

「俺達が囮になって、スノットローズが魔法で仕留める。上手くいくはずだ」

「上手くいくわけなんてないわ。ねぇみんな」


 みんなは何も言わない。

 ああ、仕方ないのね。

 この流れは変えられない。

 借金の利息だけでも払うには武器を手放すほかない。

 分かっているわよ。


 武器を手放した私達の依頼が上手く行くはずがなく。

 やっぱり失敗。


 呪われているとしか思えない。

 シナグルの呪いかしら。

 あの時、追放したのが間違っているとは思わない。

 だけど、追放しなかったら違う未来もあったんじゃないかとも思う。

 恥を忍んでDランクの依頼を手に取った。


「それはAランクのあなた方には受けられません。それに失敗続きですよね。違約金を払えば良いものと思ってもらっては困ります。このままだと、2ランクぐらい降格して頂かないと。次に受ける依頼がAランクでの最後のものと思って下さい」


 もう、どうしろって言うの。

 Cランクに戻って、依頼を受ける。

 そんなことをしたら、借金は絶対に返せない。

 Cランク依頼だって苦しいのよ。

 利息が払えるかどうかってところ。


 もう絶望的ね。

 ああ、何か間違ってたの?

 私達が悪いっての。

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