第42話 結婚式

Side:ケアレス・リード

 グレイラに婚約者がいる。

 話を聞いてみると誕生日などにプレゼントは貰っているが、愛はないのだそうだ。

 略奪愛だとは思っていなかった。

 しかし、こうなってしまっては。

 卑怯者になるのは怖くない。


 グレイラと結婚できるならどんな汚名を着ることになってもかまわない。

 だが、めでたい結婚に恨みを残すのは本意ではない。

 どうしたら、丸く収まるのだろうか。


 私とグレイラの恋は歌に歌われている。

 毒見役に任命されたグレイラの窮地を私が救う内容だ。

 この歌になったのも婚約者殿のコッコルドには面白くないらしい。

 グレイラと私の結婚を許さないとコッコルドが悪者になるからだ。

 だが、快く祝福すると甘く見られてしまう。

 貴族の面目というものがある。


 向こうも板挟みになっているに違いない。

 金で解決するのも違う。

 グライラの結婚を金で買いたくないし、コッコルドだって金で婚約者を譲ったとは言われたくないだろう。


 さて、困った事態だ。

 コッコルドにグレイラを賭けて決闘を申し込むと考えたが、勝っても遺恨を残す。

 負けたら私は自分自身を許せなくなるだろう。

 それにグレイラを賭けの商品などにしたくない。

 決闘は譲れない名誉を賭けてするものだ。

 相手から申し込まれたならともかく、こちらから決闘するなどとは言えない。


 コッコルドに婚約破棄してもらうしかない。

 グレイラの不名誉が残らない形でだ。

 これしかない。


 コッコルドの運命の赤い糸を見つける方法を探すんだ。

 そんなことを考えていたら、扉があった行き止まりの道に入ってた。

 自然と足が向いていたらしい。

 そして、こつぜんと扉が現れた。


「おお、神よ。シングルキー卿に頼れと言うんですね。これも運命だ」


 扉をノックすると入っていいよと気軽な声がした。


「すまぬ。また難題が持ち上がった。グレイラを婚約破棄させたい」


 経緯を説明した。


「因果応報ってことだね。俺が作った魔道具が引き起こしたことだから、最後まで面倒をみるよ」

「迷惑を掛ける」

「いいや、国宝3つ分のお金を貰っているからね。迷惑じゃないさ。ラララ♪ラ♪ラ♪、ラーララーラー♪ラーラーラー♪ラララー♪ララーラ♪、ラララ♪ラーラーラー♪ラララー♪ララーララ♪ラーラー♪ララー♪ラー♪ラ♪。ほらできた」


「使ってみても。おお。私の運命の赤い糸がみえる。では急ぐのでこれで失礼する」


 私は運命の赤い糸を手繰った。

 そして、グレイラに辿り着いた。

 やはり、私の運命の人はこの人なのだろう。


 コッコルドは騎士隊に所属していた。

 コッコルドにこっそり魔道具を使う。

 糸はある貴族の令嬢に向かって伸びていた。

 その令嬢の家は多額の借金に苦しんでいるらしい。

 性質の悪い金貸しに捕まったようだ。

 コッコルドにその窮状を報せる手紙を送った令嬢の名前を騙ってだ。

 女文字は書けないので、グレイラが執筆した。


 コッコルドの歌が届いた。

 借金に苦しむ令嬢を救う話だ。

 金貸しの用心棒と刃傷沙汰を繰り広げたらしい。

 コッコルドはいま罪に問われている。


 私は、コッコルドの減刑嘆願の署名を集めた。

 そして、友のリプレース卿に頼んで、それを国王に提出してもらった。

 金貸しの方も法を犯していたので、罪はかなり軽くなった。

 罰金刑になるらしい。


 グライラに婚約破棄の手紙が届いた。

 そこには『済まない、君と同じで運命の人を見つけた、君達カップルに幸あれ』と綴られていた。


 私は、結婚の招待状をシングルキー卿に出した。

 そしてやってきたシングルキー卿に、運命の糸がみえる魔道具を使った。

 たくさんの糸が見えた。

 シングルキー卿はこんなに沢山の愛に囲まれているのだな。


 なるようになるだろう。

 おそらく何本かは切れて、また未来には何本か追加されるのだろう。

 君はきっとそういう人なのだ。

 出会いと別れを司る神のようだ。


Side:シナグル・シングルキー


 ケアレスとグレイラの結婚の招待状が届いた。

 ああ、パートナーはどうするかな。

 ひとりで行くという選択肢もあるけど、ひとりで行くと所属している貴族派閥からの婚姻攻勢が強まるだろう。

 マギナかな。

 マギナなら、名声を得ているからパートナーに相応しい。

 だけど、ソルにも声を掛けないと不味いだろうな。


 ふたりを同時に呼び出した。


「結婚式のパートナーが要る」

「そうですか。でどちらかは留守番ですか」

「あたいは譲りたくないな」


 決闘でも起こりそうな雰囲気だ。


「二人ともSランクで準男爵だろう。もしよければ二人ともというのは」

「癪だけどしかたないわね」

「まあな。一番を譲るつもりはないが、しょうがないだろう」


「お兄ちゃん、聞いたわ。結婚式のパートナーですって。私も連れてって」

「スイータリアもか。まあいいか2人も3人も変わりない。ベールガールも欲しいって言ってたしな」

「やる」


 移動は転移の魔道具を作れば良いとして、結婚の贈り物は何にしよう。

 魔道具なのは確定だけど。


 3人に意見を聞いてみた。

 ロマンチックでドラマチックな魔道具がいいと意見が出た。

 なら、誰からも二人が文句を言われない格好にするか。

 略奪愛だったからな。

 嫌味を言いたい奴とか黙らせる魔道具だ。


 『vision of angel blessing』でいいかな。

 天使の祝福の幻だ。

 歌は『ララララー♪ララ♪ラララ♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪、ラーラーラー♪ラララーラ♪、ララー♪ラーラ♪ラーラーラ♪ラ♪ララーララ♪、ラーラララ♪ララーララ♪ラ♪ラララ♪ラララ♪ララ♪ラーラ♪ラーラーラ♪』だ。


 さあできたぞ。

 二つの指輪を用意して、片方に核石を付ける。

 もう片方には溜石だ。

 指輪は導線の素材で作った。

 使い方はふたつの指輪をくっ付けて、魔道具を起動すればいい。


 結婚式は問題なかった。

 誓いのキスの所で、天使の幻が現れて祝福を贈ったこと以外は。

 かなり大騒ぎになった。

 予想通り。


 ケアレスにウインクすると、ケアレスもウインクを返してきた。

 天使の幻をソルとマギナとスイータリアはうっとりした目で見ている。

 俺が結婚する時はもっと派手な演出を求められそうだ。

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