第41話 恋に落ちる

Side:グレイラ・ノートン


 ケアレスが死ぬ。

 毒見の件はなんとかなったけど。

 ブライブ卿は卑怯な男。

 きっと、ケアレスを亡き者にしてしまうでしょう。


 私は報いを良きことであれ悪しきことであれ受けさせたいのです。

 そんな何かを授けてはくれないでしょうか。

 道具で構いません。

 聖なる報い。


 そう思っていたら、行き止まりに突然ドアが現れました。

 見間違いではありません。


「馬車を停めて」

「はい、お嬢様」


 路地行くとそのドアが見えた。

 さっきまではなかったのよ。

 考え事してたとはいえ確かだわ。

 神様がここに入れというのかしら。

 ノックすると開いてるよと声が聞こえた。


「失礼致します」


 ドアを開けて入ると、不細工な前掛けをした職人がいました。


「魔道具が欲しいのです。聞いても良いですか。なんで不格好な前掛けをしてるんですか。ひょっとして大事な人からの贈り物ですか?」

「分かるのか」

「ええ、私が初めてした刺繍のハンカチを、父は大事な場面以外に使わずに仕舞っています。恥ずかしいから返してほしいと何度も言っているのですが。お気に入りの一品みたいで、それはもう大事にしてます」

「その一言であんたの人柄が分かったような気がする。もしかして、グレイラさん?」

「なぜお分かりに?」

「リードさんから聞いていたから」

「ケアレスのお知り合いでしたか」

「まあね」

「ならばケアレスの危機を救って下さい。私の命はどうなっても構いません」


 なぜかこの人なら危機を救ってくれそうな気がしました。


「俺は魔道具職人だ。どんな魔道具が欲しい?」

「正当な報いを」

「なるほど因果応報の魔道具を作れと。まあいいか。暴力を振るったぐらいでは、ちょっと怪我するぐらいだからな」


 そう言って職人さんは、シーソーの魔道具を奥から取り出した。


「ラーララーラ♪ララー♪ラララー♪ラララ♪ラ♪、ララー♪ラーラ♪ラーララ♪、ラ♪ラララーラ♪ラララーラ♪ラ♪ラーララーラ♪ラー♪」


 歌を歌いながら、シーソーを動かす。

 そして十字架の魔道具を作り上げた。

 木の十字架に核石と溜石が嵌っています。


「お望みの魔道具だ。家宝にでもしろよ」


 この魔道具が想像の通りなら、たぶん国王も暗殺できるでしょうね。

 国王が死ぬに値する罪を犯しているのが前提ですけど。


 ブライブ卿の裁判は貴族限定で開かれました。

 わたくしも貴族の端くれですので、傍聴席に座って開廷を待ちます。

 宰相様が裁判長の席に座って裁判が始まりました。

 これまでの経緯が説明されました。


「こんな料理人など知らん。早く死刑にでもしてしまえ。私は真偽官を呼ぶことに同意する」


 今よ。

 ブライブ卿に向かって魔道具を起動する。


 突然、毒を盛った料理人が席から立ち上がり、ブライブ卿に向かって走った。


「早く殺してしまえ。警備兵は何をしてる。剣を寄越せ。俺がやる」


 ブライブ卿は喚いてます。

 料理人は親指で何かを弾きました。


「あっ」


 ブライブ卿が絶句しました。

 料理人は笑ってます。

 どうやら何かはブライブ卿の口に入ったようです。


 ブライブ卿が泡を吹き、喉をかきむしりました。

 ああ、因果応報ですね。

 恐ろしい魔道具です。

 私は罪深い女。

 魔道具を再び充填すると私自身に魔道具を使いました。


 ケアレスが私の下に駆け寄ってきます。

 最後に見る顔があなたで良かった。

 神様、ありがとうございます。


「グレイラ、俺と結婚してくれ」

「はい」


 頷いていました。

 何が起こったのでしょう。

 これが、ブライブ卿を殺した私の罪。

 罪ならば甘んじて受けましょう。


 私は自分のしたことをケアレスに説明しました。


「ならば俺にもその魔道具を使ってくれ一緒に罰を受けよう」

「そんな。罪は私ひとりで背負います」

「夫婦になるんだろう。一緒に背負わせてくれ」

「仕方ありませんね」


 ケアレスにも魔道具を使いました。

 何にも起きませんと思ったら、宰相様が来ました。


「リード卿、嘘判別魔道具を献上してくれるのだったな。それと毒を防いだ褒美を与えねばなるまい。何が良い」

「ブライブ卿の財産から、国宝級魔道具3つ分のお金を下さいませんか」

「よかろう。それぐらいの価値ある行動だった。そなたのおかげで悪人が一人減った」


 これが、ケアレスの因果応報ね。

 たしかにケアレスらしいわ。

 またケアレスの歌ができるかも。

 いいえ、絶対にできると思いますわ。


 因果応報の魔道具は家宝にしましょう。

 きっと子孫を助けてくれるはず。


 ケアレスの働きにいたく感動した王様が、ブライブ卿の領地をケアレスに引き渡しました。

 ケアレス、あなたってどれだけ善行を積んでいたのよ。

 この人が夫になるのが誇らしい。


 でもひとつ忘れていた。

 私には婚約者がいるってことを。

 父を説得して婚約者には不義理を詫びないといけない。

 前途多難ね。

 ため息が出そう。


 婚約者はきっとごねるわね。

 どんな条件を出して来るやら。

 ケアレスと逃げ出したい気分だわ。

 逃げ出したら、きっと歌ができるに違いない。

 結末は悲恋になりそうだけど。

 諦めない限り終わりじゃない。

 ケアレスに教わったわ。


 なんとかこの苦境を乗り越えて見せましょう。

 この結婚は罰なのだから。


 恋する二人なら無敵。

 そう、私は駆け寄って来られた時に恋に落ちたの。

 ううん、もっと前よ。

 一緒に逃げてと言った時にもう恋に落ちていたのね。

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