第11章 因果応報

第40話 毒見

Side:ケアレス・リード


「私、もう駄目。私を連れて一緒に逃げて」

「グレイラ、どうしたんだい?」


 お城の執務室にノックもなしにいきなり入って言われた。

 グレイラは私の幼馴染。

 貴族の子女だ。


「上司ブライブ卿の賄賂を貰っている現場を押さえたから、抗議したのよ。そしたら、毒見役に任命されてしまって。もう死ぬ未来しか見えない。王命だから拒否も出来ないし」

「ふむ、一緒に逃げるのは愚策だ。諦めたも同じ事。そうだ私が君に代わって毒見役に志願しよう」

「そんなことまでして生き延びたくないです」

「私が毒見役に就任するまでに少し時間はあるんだろう。何か考える。最後まで諦めないことだ。私はそうやって英雄譚に歌われるようになった」

「私も伝手を頼って王命を拒否する方法を探してみます。でも何で?」

「私は友に命を救われた。だから今度は返す番だ。返す相手はその友ではないが、そなたに返したと聞いたら、友は喜んでくれるだろう」

「英雄ね。英雄譚に歌われなくても、あなたは私の英雄」

「淑女の危機には駆け付けろと言われているのでね」


 とは言ってみたものの、いいアイデアなど浮かびそうにない。

 ああ、毒が分かる魔法の道具があったらいいのに。


 帰り道、ふと行き止まりだった所にドアがあるのに気づいた。

 はて、あんな場所にドアがあっただろうか。

 普段は馬車だから気が付かなかったのかも知れぬ。


 そのドアに妙に心が惹かれた。

 もしや、魔女でも住んでいるのではないか。

 いや、賢者かも。


 ノックしてみた。

 入っていいよとどこがで聞き覚えのある声が。

 入るとシングルキー卿の工房だった。

 この御仁ならいまさら驚かない。

 このようなこともあるであろう。


 恐らく、その知識は賢者に匹敵すると思われる。


「何だ。リードさんか。でそのドアから現れたってことは何の魔道具が欲しいんだ?」


 これまでのいきさつを説明した。


「ララーラーラ♪ラーラーラー♪ララ♪ラララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪、ラーララ♪ラ♪ラー♪ラ♪ラーララーラ♪ラー♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪。ほらできたよ」


 シングルキー卿が核石を作り出した。

 それをスプーンに取り付ける。


「ええと、毒か。試しにやる毒は水仙でいいか」


 シングルキー卿が出て行き、しばらくして手に草を持って現れて、それを煮てスープにした。

 スプーン型の魔道具をスープ入れて起動すると赤く光る。


「試験は完了。ほら持って行け」

「お代はどうする?」

「ブライブ卿に払わせる」

「そいつは痛快だ。どうやってとは聞かない」

「なに、嘘判別の魔道具を作って国王に送るだけだ」

「嘘判別は真偽官の役割だぞ」

「あいつらは高い金を取るし、買収されて嘘を言うこともある」

「そうだな。冤罪が減るのは良いことだ」


 グレイラの代わりに私が毒見役に就任した。

 そして、毒見役初日。

 国王に饗される食事が運ばれてくる。

 私がスープにスプーンを入れると赤く光ったではないか。


「毒だ。王様の食事に毒が盛られたぞ」


 私は騒ぎ立てた。

 大勢が何事かとやってくる。


「毒が入っている」

「そなたはなぜ食べてないのに毒だと判る」


 こいつはブライブ卿。

 もう黒幕の登場か。

 恐らく、グレイラ暗殺を狙ったのだろう。


「料理人を呼ぶべきです」


 私の意見にもっともだと皆頷いて、料理に携わった者達が集められた。


「さあ、スプーン一口で良い。食べたまえ」


 私の言葉に全員がスプーンでスープを掬った。

 いや一人を除いて。

 その者は真っ青になって震えていた。


「犯人はお前だ。取り押さえろ」

「僕は無実だ」

「奇遇だな。実は王様に献上しようと思ったのだが、ここに嘘判別の魔道具がある。試験して効果を確かめてもいいぞ。存分にやりたまえ」


 私は懐から小さい天秤の魔道具を出した。


「さあ、スープを飲むか、嘘判別の魔道具に掛かるか選びたまえ」

「くそっ、ブライブ卿に頼まれたんだ。毒は大したことのないものだって」

「ではなぜ食べなかった」

「ネズミで確かめたんだ。少量でネズミはみんな死んだ」

「だのに毒を入れたのか」

「断ったら口封じに僕が殺される」


「ふむ、ブライブ卿。あなたが料理を食べてみるかね」

「何で私がそんなことをしなければならない」

「嫌疑が掛かっているからだ」


「茶番だ。狂言だ。貴族には裁判掛かる権利がある。王とてその権利をはく奪できない」

「潔く王の裁定に従うつもりはないのかね。私は裁判ではなく王の裁定に従ったぞ。忠実な臣下だからだ」

「とにかく裁判だ」


 ふむ、敵もしぶとい。

 料理人の証言は奸計だ策略だと言い立てるのだろうな。

 嘘判別の魔道具もペテンだ、信用など出来ない、真偽官を呼べというつもりなのだろうな。

 往生際の悪い奴だ。


 ふむ、ブライブ卿をどうやって断頭台に送ろうか。

 そうしないとグレイラの命がない。


 シングルキー卿に頼ろうとも、どんな魔道具があればいいのか分からない。

 それに、嘘判別の魔道具でも貰い過ぎだ。

 何かないだろうか。

 私の命の危険は別に構わない。


 生きることを諦めているわけではない。

 退いたら駄目な時というのがあるのだよ。

 いまこそその時。


 しかし、暗殺などという卑怯な手に頼るつもりはない。

 そこまでしたら、敵と同じ存在になってしまうからだ。

 打ち破るなら正々堂々。

 それこそ貴族に相応しい。

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