第39話 破滅のアリア

Side:マニーマイン


「【地図】。オークよ」


 スノットローズが地図スキルで位置を確認して、警告を発した。


「Cランクぐらい余裕、余裕」


 サーカズムはお気楽だけど、ここはダンジョンなのよ。


「クールエル、魔道具を出せ」

「あれっ、収納魔道具が使えない」

「何だって?」


 かなり不味い事態ね。


「【俊足】からの【斬撃】」


 くっ、浅い。


「ちょっとバイオレッティ達は何をしてるの! 魔道具がなきゃ武器で攻撃でしょうが!」

「そうだな【身体強化】【鋭刃】」

「【挑発】」


 サーカズムの挑発でオークの意識がそちらに向く。

 バイオレッティが斬り掛かるもオークに棍棒で剣を弾かれた。


「【盾撃】」


 サーカズムのシールドバッシュは避けられた。

 二人とも何やっているの。

 バイオレッティとサーカズムは隙だらけだ。


「【火炎剣】」


 私の火炎剣もオークの棍棒で難なく払われた。

 オークってこんなに強かった。

 いいえ、私達が弱くなったのよ。

 魔道具に頼る戦いしかしなかったから。


「【火炎魔法】、火炎竜巻」


 スノットローズの魔法が間に合った。

 でもオークは飛び退いてそれを避けた。


 仕切り直しね。


「撤退だ」


 バイオレッティが撤退の決断を下す。

 オーク如きから逃げるなんて屈辱だわ。


 でもオークは私達を追って来なかった。


 スノットローズの地図スキルで敵がいないルートを調べて帰還する。

 ダンジョンから出て、バイオレッティがまずしたことは収納魔道具を調べること。


「どう?」

「駄目だ使えない。ダンジョンのトラップに掛かって使えなくなったと思ったが、専門家に見せないと」


 この街で一番高級な魔道具店にみんなで押し掛けた。


「こりゃ核石が壊れてますね。かなり筋が入っているから、お客さん結構使ったでしょう」

「一回の討伐で50回ぐらいか」

「そんな使い方をしていれば壊れますって」


「借金はどうするんだよ。この収納魔道具を売る事さえできない」

「リーダーとりあえず、収納魔道具の中の物は取り出せるか聞こうぜ」

「どうなんだ?」


 事情を説明した。


「できません」

「何だって!」

「大声上げたって無理なものは無理です」


「魔道具は全部、収納魔道具の中よね」

「金もな」

「無いものはしかたないわよ」

「じゃあどうするんだ」

「Dランクぐらいのモンスターをちまちま狩りましょ。ダンジョンの外で」

「くそっ。俺達が何をしたって言うんだ」


「リーダー、少し休んで考えようぜ。焦ったら、たぶん上手くない」

「サーカズムの言う通りだな。明日、1日休んですっきりした頭で考えよう」


 そう言えば魔道具ギルドに収納魔道具の修理依頼を出すのはどうかしら。

 金貨1枚ぐらいでなんとかしたいわね。


 魔道具ギルドに依頼を出した。

 誰か受けてくれることを祈るだけよ。


Side:シナグル・シングルキー


 魔道具ギルドの依頼掲示板に銀色の閃光が出した依頼があった。

 ランク外だ。


 依頼金は金貨1枚。

 馬鹿にしている金額だ。

 でもそういう依頼を俺は受けて来た。

 会うとこじれそうなので、依頼の事情を詳しく知りたいと受付のピュアンナに言った。


「依頼主に確認ですね」

「面倒だけど頼む」

「はい。SSSランクの頼みですから」


 そしてすぐに事情が分かった。

 毎日20回以上は使っていたらしい。

 馬鹿だ。

 それは核石が壊れるだろう。

 いつもは魔道具が壊れると捨てていたが、これは諦めきれないとある。


 リサイクルって言葉を知らないのか。

 余すところなく道具は大事に使うものだ。

 これを直すとしたら、奴らが物の大事さを悟ってからだ。


 でなきゃ直さない。

 前世で田舎の祖父さんが、大根の葉っぱを捨てる奴なんかに食わせる野菜があるかと怒ってた。

 スーパーで売っている農薬が掛かった葉っぱなら捨てても良いが、家のは無農薬だと自慢してた。

 余すところなく使う。

 でないと苦労して野菜を育てた甲斐がない。


 うんうん、分かるよ。

 核石を直すのはそんなに手間じゃない。

 でも、直す所を間違えたら、駄目になってしまうかも知れない。

 それに、導線を繋ぐのだって細心の注意を払っている。

 接着が甘いと、衝撃ですぐに切れてしまう。


 心を込めて丁寧に仕事しているんだ。

 道具を大事にしない奴に道具は作らない。


 なのでこの依頼は受けない。

 たぶん誰も受けないだろう。


 彼らに対して思うところはない。

 悪感情も好感情もない。


 俺は追放されたのだっていまにして思えば仕方なかったと思っている。

 努力が足りなかったと思う。

 冒険者への依頼に対する心構えも。


 今なら分かる。

 このモンスターを仕留めきれなかったらどれだけ被害が出るかとか考えなきゃならなかった。

 もっと必死に真剣にやるべきだったんだ。

 傾聴スキルにのみ頼ってた。


 そうじゃないんだ。

 スキルはあくまで手段で、心を込めて出来るかなんだ。


 討伐だって心を込めて剣を振るかで、勝敗が分かれたりもするだろう。

 でもそんなのは教えられることじゃない。

 自分で気づいてこそだ。


 でも切っ掛けぐらい与えてやろう。

 『全てに心を込めろ。物だって魂があるんだ。モールス』とマニーマインに伝言した。


 俺も普段できているとは思えない。

 でも心がけている。

 ぼろ布の1枚とて無駄にはしない。

 そういう意図で自己修復ボックスを作った。


 そういえば、前世の世界で買ったゴミは消してたな。

 プラスチック、ビニール。紙を再利用しよう。

 何にリサイクルするかな。


 紙は再生紙にするとして、コップはゴミだと抵抗感がある。

 植木鉢にしよう。

 あれなら色が悪くても塗ってしまえば良い。


 『recycled paper』と『Flowerpot made from recycled materials』これを歌に変換して。

 『ララーラ♪ラ♪ラーララーラ♪ラーララーラー♪ラーララーラ♪ララーララ♪ラ♪ラーララ♪、ララーラーラ♪ララー♪ラーラーラーラ♪ラ♪ララーラ♪』と『ラララーラ♪ララーララ♪ラーラーラー♪ララーラー♪ラ♪ララーラ♪ララーラーラ♪ラーラーラー♪ラー♪、ラーラー♪ララー♪ラーララ♪ラ♪、ラララーラ♪ララーラ♪ラーラーラー♪ラーラー♪、ララーラ♪ラ♪ラーララーラ♪ラーララーラー♪ラーララーラ♪ララーララ♪ラ♪ラーララ♪、ラーラー♪ララー♪ラー♪ラ♪ララーラ♪ララ♪ララー♪ララーララ♪ラララ♪』だな。


 かなり長い。

 失敗するかもしれないが何度もチャレンジだ。

 リサイクルは良いことだ。

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